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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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騎士の実力

 結局魔物と遭遇することもなく、伯爵の城まで辿り着くことができた。そういえばゲームでも町から伯爵の城までは魔物とエンカウントしなかったな。


 そして門前に立ち、城を見上げる。月明かりを受けながら佇む白を基調とした城は、中々の雰囲気。砦のような重厚なタイプではなく、塔が数本突き立っている見た目で、デザイン的に見栄えがするような感じだ。


「門は、開いているな」


 バルザードが言う。彼の言葉通り手で押すとあっさりと開いた。不用心にも程があるのだが……誘っているのか?

 もしかするとアーザックは町に間者でも送り込んでいて、リリシャの動向を観察していたのかもしれない――思いつつ、俺は口を開いた。


「誘い込んでいるとしたら、罠について警戒する必要があるな」

「そうですね。気を付けましょう」


 エイナは同意し剣を抜く。バルザードもまた同じように剣を……長剣ではあるが、普通の物と比べ刃に厚みがあるのが特徴的。

 そしてリリシャは剣を抜かず、代わりに口の中で詠唱を始め、


「発せよ」


 一言呟いた矢先、光が生じる。白光が終わるとそこには無骨な鉄製の槍が姿を現した。

 魔法で生み出された武器……魔法の中で武器を生み出し使うという手法も存在する。ただゲームでは『風神の剣』とか『氷王の剣』とか、上級クラスの魔法しか存在していなかった。


 現実となった今では、特徴のない単純な武器を生み出すのならそれほど難しくはない。

 俺は剣を抜きながら槍を一瞥。見た目通り、仕掛けが施されているわけでもない普通の武器のようだ。腰の剣ではなく槍をメインに使うらしい。


 俺達は門を抜ける。直後、変化が起こる。突如周辺から気配……やはり魔物か。

 リリシャが単独で訪れた時と同じ流れなのかはわからないが……ともかく、交戦開始だ。


 城の入口へと進む石畳の道に魔法陣がいくつも生じる。おそらく侵入者が踏み込んできたと同時に発動するタイプの魔法だ。


「魔物が出現するとは、やっぱり伯爵は普通じゃないな」


 バルザードが呟く。エイナやリリシャは同意するように頷きつつ戦闘態勢に入る。

 魔法陣の光が消え、魔物が姿を現す。衛兵のような格好に槍を持った骸骨……単なるスケルトンとは異なる『ハイスケルトン』という上位種である。


 上位といってもソフィア達なら楽に勝てるくらい。さて、エイナやリリシャ達はどうなのか。

 先んじて動き出したのはリリシャ。低い姿勢で突撃しつつ、こちらへ攻撃しようと動くスケルトンの機先を制し、槍を一薙ぎしてみせる。


 これは下級汎用技の『ローグスラッシュ』だ。槍は攻撃範囲が広いため牽制的な効果もあるのだが、攻撃範囲に入っていたハイスケルトンは例外なく吹き飛んだ。

 下級技だが威力は十分。さすがに一撃とまではいかないが、そこそこのダメージは与えられた様子。


「こちらも続くぞ」


 次に動き出したのはバルザード。襲い掛かろうとしていたスケルトン一体の槍をあっさりと弾き、反撃に出る。

 その動きは非常に手慣れたものであり……おそらく中級汎用技の『ブラストカウンター』だ。長剣技と大剣技に共通する技であり、相手の攻撃を防ぎつつ魔力強化によって増加した剣速により反撃する――魔力消費が大きいので乱発はできず、反撃可能な攻撃もそれなりに限定されるので使いにくいが、当たれば非常に強力な技だ。


 また、もしかすると厚みのある長剣により大剣技を使えるのかもしれない――彼の攻撃が当たる。クリティカルでもしたのか、ハイスケルトンは一撃でバラバラに砕かれた。


 ――彼はゲームで攻撃特化の能力を持っていた。しかし『三強』と呼ばれるのは他に理由がある。それは彼の所持スキルに関係している。


 ゲームではキャラの中に固有スキルというものを所持している場合がある。例えばフィリの仲間になったカティなら『薬草知識』というスキルを持っており、回復アイテムの効果が五パーセント上昇する。そのスキルもレベルが上がれば強化され、最終的には十パーセントになったはず。またレベルが上がれば『魔力上昇』というステータスの魔力をスキルによって多少だが増加させるスキルを得る。


 他にもキャルンの場合は『逃走経路確保』ということで逃走確率が僅かに上昇し、さらに『回避率上昇』と自身の回避力を上昇させるスキルを得るなど、それなりに違いもある。ただ個性を持たせるほど驚異的な特性を持っている人間は少ないため、目立つことはあまりなかった。


 その中バルザードのスキルは例外。彼のスキルは『剛体』という名称で、一定のダメージ以下はノックバックしないという特性を所持している。


 ノックバック――攻撃を受ければのけぞるわけだが、ダメージの値が極端に低い場合はのけぞらずに動くことができる。だがバルザードの場合は最初の時点でもダメージが総HPの三分の一以下のダメージまではのけぞらないという能力を所持している。これが最終的に二分の一のダメージまでのけぞらないようになる。余程の事がない限りノックバックせず殴り合いができる。


 攻撃され続け押し負ける可能性もあるわけだが、そこは元々高いステータスとHP、さらに装備で容易に対処できる。おまけに彼は攻撃を受ければ受ける程攻撃力が上昇していく『憤怒』というスキルも覚える。

 これはダメージの値ではなく攻撃回数によって強化されるため、ノーダメージでも攻撃力がどんどん増加していく。この二つのスキルによってどれだけゲームで敵が倒されたか……間違いなく、優遇されたキャラだった。


 ゲームは少なからず製作者の好みが反映されるため、彼が非常に気に入られたキャラなのだろう……実際バルザードが好きだったと公言する開発スタッフがいたはず。悪い言い方をすると、ひいきされたキャラだというわけだ。


 しかし、現実世界となった今ではどうか……ハイスケルトンが反撃に移る。剣戟をまともに受ければそれなりのダメージとなるはずだが――


 バルザードが動く。ただその動作は明らかに攻撃を行おうとする構え。魔物の剣が当たる……と思った直後、左肩にハイスケルトンの剣が叩き込まれた。


「――効かんよ」


 バルザードは一言発した後、何事もなかったかのように横薙ぎを繰り出し、魔物を吹き飛ばした。おそらく魔力障壁によりダメージを消した……って、現実になってもゴリ押し戦法かよ! これには驚かされた。


 そうした観察をしつつ、俺は魔力が漏れ出ない出力で『ホーリーショット』を使いリリシャが吹き飛ばした敵を的確に倒していく。さらにエイナはバルザードと共にハイスケルトンと交戦。こちらは彼のように力押しではなく、攻撃を避けながら剣を決める。しかもその剣は下級魔導技『聖光剣』が備わっており――魔導技を使うところはソフィアと似ているかもしれない。


 時間にしておよそ五分程度。魔法陣によって生み出された魔物は全て倒した。


「……ふむ、楽勝だな」


 バルザードが言う。エイナも同調するように頷きつつも、厳しい表情。リリシャも険しい顔を見せ、警戒感を滲ませている。

 魔物がここにいる以上、魔族が関連していると思ったことだろう。それは正解だ。


「先に進もう」


 俺が述べる。全員何も言わずに城の入口へと歩を進める。


 正門に辿り着くと、その扉が勝手に開いた。やはり誘っている……この調子だと、アーザックの所まであっという間に行けそうな気もしてくる。

 中は明かりが多少ついてはいるが、どこか薄暗く不気味な雰囲気。気圧されているわけではないだろうけど、室内の状況にリリシャ達は窺うように視線を巡らせる。


 魔物の姿は今のところない。さらに直進すると大扉があるのだが……そこもまた開いている。やはり迎え入れる気のようだ。

 屋敷の中へ踏み込む。気温は決して低くないはずだが、瘴気のような魔力が漂っているためか、ずいぶんと冷たく感じる。それが緊張感を維持させることに繋がり、少しずつ大扉へと向かっていく。


 その時、周囲の床に魔法陣。魔物――そう悟った瞬間、自然と俺達は背中合わせとなり、迎え撃つ態勢となった。

 直後現れたのはハイスケルトンに、黒いレッサーデーモン。数は多いが、十分対処はできる――そう思いながら、向かってくる魔物へ攻撃を繰り出した。


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