夜襲と考察
考えている余裕はない――そう判断した俺は、思考を切り替えて即座に魔物達の迎撃を開始する。敵は武装している上、装備内容も判然としないところはあるのだが、これまで戦ってきた経験を踏まえれば、油断しない限り問題はないはずだ。
包囲を狭めようと突撃を行う魔物に、俺は正面から向き合う。昼間と同様ウェアウルフ系の敵だが……いや、後方にはスケルトンらしき魔物もいるな。
敵の位置などを確認しつつ、俺は間近に迫るウェアウルフへ視線を送る。相手の得物は長剣で、俺を間合いに入れた瞬間に上段からの振り降ろしを決める。
それを俺は見極めて――あえて受けた。どれほどの能力なのかを見極めるためなのだが……受けた瞬間、多少なりとも衝撃が生まれた。
武具の能力が思った以上に強力で、魔力が剣を通して伝わってきた。とはいえ肝心の魔物の方がこの武器の能力を扱い切れていない雰囲気がある。上段からの振り降ろしだが、そこにあまり力が乗っていない……ここから考察できることは、この魔物も昼間交戦した個体と同じように技量面においてはそれほどでもないという事実。
やっぱりなんだかチグハグな存在ではあるのだが……まあ魔物を生成している者が魔族なのか人間なのかわからないが、天使の武具などを研究している以上は剣術などを扱えるわけではないので、魔物にそうした知識を与えることができていないということだろう。
これはこれで戦いやすいからいいのだが……首謀者はこの事実に気付いているのだろうか? 疑問を抱きながらも俺は魔物の剣を切り払う。
武具そのものは強固であり、破壊することはできない。とはいえ魔物の技量が高くないため、即座の切り返しで斬撃を叩き込むことはできた。魔物は武器を取り落とし、その武器すらも消え失せる。天使の武具の力を魔物に取り込ませているのは凄まじい技術であることは間違いないのだが、未完成なのか魔物が使いこなせていないな……いや、これは完全に馴染んでいないってことなのか?
色々と考察しながら俺は魔物を切り伏せるわけだが……ソフィアやリーゼについてはどうだろうか。使い魔を通して観察してみると、二人は連携攻撃により魔物を手早く撃破していた。
俺の魔法を防いだということで、警戒しながらの攻防。正直魔物の練度が低いので慎重にならなくても倒すことは可能だと思うのだが……と、ここでソフィアが真正面からやってくるスケルトンを警戒し始める。
「魔力が違う……?」
呟きながら迎撃を行う。まず剣をかわしながら反撃するのだが、魔物の動きは鈍くあっさりと骨を両断することに成功。何かしら他の個体とは違う気配を見出したようだが、その真価が発揮されるようなことはなかった。
俺の方もソフィアと同じように違和感を抱く魔物を捉える。確かに魔力が違う……けど、剣を打ち合ってみるとやっぱり武器の能力は高いけど、それ以外はサッパリというもの。拍子抜けするくらいのものなのだが……、
「ガルク、怪しい個体はいるか? 襲撃する魔物達は陽動で、本命が別にいるという可能性もあるが」
気配を探ってみるがそれらしい個体はいないのだが、
『……やや距離はあるが、怪しい魔物はいる』
「怪しい?」
『他とは明らかに異なる気配だ。おそらくだがオリジナルだろうか』
「魔物のオリジナルということか?」
『いや、違う。オリジナルである天使の武具を所持する魔物ということだ』
それはまた……ただ、そうなると疑問がよぎる。
「魔物に天使の武具を持たせることができるのなら、最初からこんな魔物を生成する必要はないんじゃないか?」
『武具が無限にあるわけではないだろう。魔物の生成に天使の武具の能力を用いることで、武具の量産に近い結果を生み出そうとしたのかもしれん』
なるほど、それなら理解できるの……ただ、そういう推察なら、
「この魔物を使役する存在は、これだけ特別な魔物をどうする気なんだろうな?」
『単に魔物を多数生成するのであれば……何かしらの実験という可能性も考えられなくはない。魔物を使役する術を得たリチャル殿のこともあるし、色々と理由は推測できる。だがルオン殿達を襲い、今この村を攻めているとすれば――』
「どう考えても敵対勢力……下手すると村か町かを襲うために、魔物を生み出したってことだな」
もしかするとその対象は周辺の町ではなく、バールクス王国の首都であるフィリンテレスなのかもしれない……俺はいくらか不安を抱きつつも魔物を倒していく。例えば増殖などはしないようで、倒せば倒すほどに気配は少なくなっていく。
とはいえ個体が結構多かったのか、後続から敵が次々と……こうなると村人達が不安になるのだが、俺達をすり抜けた個体は全てエイナやレスベイルの餌食になっている。問題はなさそうだな。
『魔物達は多少なりとも統制が執れている。民家を壊して回るようなことをしていないのがその証拠だ』
「中央へ向かおうとしているのだから、人間の気配を見つけて殺せ、とでも指示しているんだろうな。問題はこれが簡易命令的なものなのか、それとも使役している存在が直接命令しているのか」
『さすがにこれだけの数を一度に……とくれば、魔族級でなければ厳しいとは思うのだが』
と、魔物の動きに変化が。俺を視界に捉えたら問答無用で襲い掛かってきていたのだが、そうではなく魔物達は俺をどうにか避けるようになった。
「……見ているな、明らかに」
『うむ、戦いの途中で命令を変えている。簡易的な命令ではこうはいかないだろう』
「ということは、上手くやれば見つけられそうだけど……」
『拠点から指示をしている可能性もゼロではない。ただし、この考察だと使役をする存在は人間ではなく魔族だな』
「魔力を多大に抱えていないと無理な話だからな……さて」
俺は避けようとする魔物に追いすがり一撃で滅していく。敵の武器は面倒だが、技量が低いために一撃で倒すことはできる。残る敵はガルクが発見したオリジナルの魔物か。
天使の武具だけは本物であったなら、しっかり警戒はしなければならないだろう……やがて俺にも異質な魔力を感じ取ることができた。よって、先手必勝――魔物が仕掛けるより先に、俺は目標の魔物へ疾駆した。




