夜の村
話し合いをした夜、外を見回りしている騎士達を窓から眺めながら、俺は今後のことを考える。まずは城から来る増援と合流して、山狩りをすることになるだろう。
山中に敵が潜んでいるのかは不明なのだが、あの山は神聖視されているわけだし、魔物を生み出す存在が近くにいるのはさすがによろしくない。俺達を襲った者は少なくとも捕まえなくてはならないため、援軍が来れば即座に行動開始だ。
それには少なくとも数日必要であるため、待つ間はこの村を拠点にして山の周辺にある村などを回って情報収集でもしようか……などと考えていたのだが、
「……ん?」
ふと起き上がる。周辺はまだ暗く、深夜の時間帯か。
なんとなく気配を感じて俺は目が覚めたのだが……部屋には一人。ソフィアやリーゼは隣の部屋で眠っているはずだ。
少し目を閉じて魔力を探ってみる。すぐさま異変に気付いて俺は身支度を整える。部屋を出たと同時、隣の部屋からソフィアとリーゼが現われた。俺と同じく察したようだ。
「ルオン様……」
「ああ、みたいだな」
主語のない会話を行いながら俺達は家を出る。外は寒いが、感じられる魔力に意識が向いてあまり気にならない。
「そういえばユノーはどうした?」
「部屋から出ないように言ってあります」
「そうか……外に出なければ危険は少ないと思うけど……」
「ソフィア様?」
会話の間にエイナが近づいてくる。
「三人揃って……家の中でも気付かれましたか」
「ええ……魔物のようだけど」
――起きた理由は村の周辺に魔物がいることに気付いたからだ。魔力が少ない個体であれば、察知するのにもう少し接近してからじゃないと厳しいのだが、今回は違う。明らかに魔力が多い。
理由は明白で、今回の魔物も武装している……ガルクが述べた天使の魔力と思しき力により、気付くことができるのだ。
「相手としては夜襲を仕掛けたつもりなのかもしれないけど、あの魔力を隠すことができなければ見つからずに攻撃というのは無理そうだな」
「奇襲は失敗していますが、厄介なことに変わりはない」
エイナが述べる。周囲では騎士が慌ただしく動いているのだが……問題はこちらの兵数と敵の数だ。
俺達は騎士を含め総勢で十名ほど。当たり前だが俺達は祭事に必要な花を手に入れるために来たため、大所帯ではない。取り囲まれた時は魔物の数も互角であったため楽に対処できたわけだが、今回は村を守りながら……しかも魔物の数は多く、なおかつ囲まれている。
一応俺達が滞在するということで、近隣に存在する町から兵士が派遣されてきている。これは地理情報などをもらうためにエイナが呼び寄せたのだが、普通の魔物ならともかく今回の敵は俺の牽制魔法を弾く能力を持つ。ごくごく普通の剣や槍しか持たない兵士を戦力に換算するのは無茶だ。
「エイナ、村人は?」
まずソフィアは重要な点を尋ねる。
「現在村長を起こして対処してもらっています。村の中央には集会所があるのですが、そこへ集まるよう指示を出している最中です。誘導はここを訪れた兵士が」
「うん、それなら犠牲者が出ることはなさそう……なら、私達は――」
「三手に分かれるのがベストかしら」
と、リーゼが提案をした。
「魔物を攻撃する役と、集会所を護衛する役……それが速やかに敵を撃破できる手段だと思うけど」
……まだ魔物はこちらを攻撃していない。均衡状態ではあるが、いずれ仕掛けてくる以上は速やかに準備をしなければならない。そうした中でリーゼの判断はベターな選択か。
「ルオン、どうかしら?」
「……そうだな、では、それで動こうか」
時間もないため即決する。そして分かれ方なのだが、
「俺は単独で動くことにする。ソフィアはリーゼとペアで行動してくれ。エイナは他の騎士達と共に集会所の守護を頼む」
「ルオン様、レスベイルは?」
「こちらも集会所の防衛だ。囲まれている以上、俺達ではカバーしきれず集会所に狙いを定める個体が出てもおかしくないからな」
住民に被害が出ることが何よりまずい。よってそれを食い止めるような布陣で戦うことにする。
ソフィア達はそれに同意し、俺達は行動を開始する。それと同時に魔物達は動き出す。しかし歩調は緩慢で、一気に襲撃するというよりはにじり寄るように包囲を狭めてくるような感じだ。
その中で俺は使い魔を作って騎士達の状況を確認。エイナが指揮をしてまだ集会所へ到達していない村人達を保護する。深夜なので歩みが遅い人も多く、騎士達は村人達のことに集中して戦うことはできない様子。
とはいえ彼らの行動が功を奏して集会所に村人達を集めることに成功。魔物達は家屋を破壊するような真似もしないのでひとまず建物にこもっていれば問題はなさそうだけど……直後、魔物の咆哮が闇夜を切り裂いた。
俺達に対して威嚇をしているようだ。けれどこっちは意に介さず淡々と布陣をする。俺とソフィアは集会所を挟んで立つことになり、集会所の周囲を騎士やエイナ、レスベイルが守るような形だ。なお兵士もいるにはいるが彼らは集会所の中で村人達が外に出ないよう話をするような役目。戦闘は無理そうなので、適材適所といったところか。
騎士の誰かが明かりを用いて周囲を照らす。俺もまた光を生み出すと、前方にいる魔物を視界に捉えた。武装している魔物なのは相変わらず。加えてその気配も昼間に遭遇した個体とそれほど変わらない。
「……魔物による襲撃だが、こういうことにリソースが回せるほど相手は保有している数が多いのか?」
『わからんが、こちらが想定している以上の数かもしれん』
と、俺の呟きにガルクが応じた。
『これは思ったよりも大規模な話なのかもしれないぞ』
「……俺達が来たことで動き出したって雰囲気だけど、そうすると敵としてはずいぶん短絡的だよな」
『確かに。ルオン殿達の詳細を知らなくとも、魔力を探れば脅威的な力を持つ存在だと認識できるだろうし、それが無理でも一度は撃退されたのだ。このような襲撃は悪手だ。しかし』
「しかし?」
聞き返すとガルクは間を置いて、
『例えば――ルオン殿達に恨みがあったとすれば、無茶をしてでもと思うかもしれん』
恨み……もしそうなら相手はどのような存在なのか。それを色々と想像し始めた直後、魔物達が突撃を開始した。




