魔物の武具
俺達の目の前に出現したのは、人型の魔物……ウェアウルフと呼ばれる類いの魔物であり、なおかつ武装していた。
この武装というのが曲者であり、どうやら普通の存在でないことが明確にわかる。
「……どうしますか?」
ソフィアが尋ねる。気付けば同型の魔物が取り囲んでおり、俺達を獲物として逃がすまいとしている。
騎士達は剣を抜き放ち戦闘態勢に入っているのだが……さて、どう立ち回るべきか考えたいところだが、時間的な余裕はなさそうだ。魔物達は一歩俺達へ近づく。
俺は武装へ目を移す。剣と盾に加え鎧まで……魔力が存在しているのは明白であり、単なる鉄製の物でないことは明らかだ。
「……少し、調べる必要があるかもしれないな」
視線を変えないまま俺は呟く。魔物達へ武器を渡す……などという輩が存在しているのはなんとも面倒である。
「一度、俺が仕掛けてみて――」
作戦を告げようとした矢先、先んじて魔物が攻め込んできた。統制がとれているようで、俺達の機先を制するかのように一斉に攻撃してくる。
範囲系の攻撃魔法を使うべきか――と一瞬悩んだ後に、牽制的な意味を込めて騎士の間近に迫る魔物へ『ライトニング』を発動した。俺やソフィアならばどういう動きをされても対応できる。しかし、騎士達は対応できるかどうかわからなかったので、まずはそちらのフォローをしたわけだ。
結果は――俺の魔法が一体の魔物へ迫る。刹那、魔法に対し敵は反応。避けるか防ぐか思ったのだが……あろうことか魔物は、俺の魔法を振り払うべく剣を薙いだ。
いや、さすがにそれは――と思った矢先、予想外の出来事が生じる。雷撃は真っ直ぐ魔物へ向かい、剣とぶつかったのだが、突然パシリと音が生じたかと思うと、かき消えた。
それはつまり、牽制的な魔法を、真正面から打ち破ったことを意味する。
「こいつ……!?」
今の魔法はさすがに全力ではないにしろ、目の前の魔物が易々と……この一事で普通の魔物でないことは理解できた。
「かなりの強敵のようですね……これは……!?」
エイナは驚きながら騎士に指示を出し、応戦する。直後、騎士と魔物がぶつかり合ったのだが……それにより敵を押し返すことに成功した。
魔物の動きはどこか練度がなく、騎士の攻撃に対応できていない……なおかつ斬撃が魔物の皮膚に当たればダメージを与えている……よって俺は、
「武器が強いのか……?」
じっと魔物達が持つ武具を見据える。何か特別な魔力を秘めているようには見えないのだが、
「ガルク、何か感じるか?」
『うーむ、我の目にも特段魔力があるように見えぬが……あえてそういう風にしていると解釈もできる』
「魔力が漏れないように?」
『意図的にそうした形で作成したと……だがなぜそのようにしたのかはわかりかねるが』
ともあれ、面倒事なのは確定か……武器の能力に反して魔物の能力はそれほど高くない。これならおそらく連携すれば勝負がつくはずだ。
「このまま押し切れ!」
エイナがいけると判断し叫ぶ。魔物の武器には注意しながら攻撃し続ける。そこでようやく一体魔物を倒したのだが、武具も魔物と一緒に消えた。ただ魔物と武具の魔力が結びつかないので、魔物が魔力を作っているのではなく魔物が消えると武具そのものを抹消するという仕掛けになっているのだろう。
能力と武器の効力が釣り合っていないちぐはぐな存在ではあるのだが……それが逆に疑問を持たせる。
これはどうやら単純に花を摘むだけではまずそうだな……この山で何かが起こっている。それを解明する必要がありそうだった――
程なくして俺達は魔物の殲滅に成功する。そこでまずは協議を始めた。
「ルオン殿、これは一体……?」
首を傾げるエイナ。そこで俺は、
「武具については牽制とはいえ俺の魔法を弾くだけの効力があった……強力な物だと理解できる。けれど、それに対し魔物は正直言って弱かった」
「そこが疑問ですね。ずいぶんとアンバランスでしたが」
「武具を開発して、魔物を生成し動かしていた……という可能性か。問題はその開発者がこの山の近くにいるのかどうか」
『……うーむ』
唐突に頭の中でガルクが唸り始める。それに対し問い掛けようとした矢先、右肩に子ガルクが出現した。
『これはもしかすると、面倒事かもしれんぞ』
「……俺の推測でも結構面倒だけど、それ以上か?」
『うむ。武具についてだが、ルオン殿言う通り開発したものだろう。しかし、問題はその魔力の質だ』
「質?」
『魔物が滅びていく中で、わずかながら感じた魔力……それは天使のものだ』
「天使……? ということは天使の武具を使っている?」
『それを参考にして武具を作成しているのかもしれん。何のためなのかはわからんが』
「魔物を生成しているってことは、人間か魔族だよな?」
『そうだな……魔物の魔力自体は魔物由来だと感じたが、人間が魔族の魔法を使用して、という可能性もあるため、主犯者を捕まえてみなければわからん』
……さすがに魔族である可能性は低いだろう。魔界が現在俺達に友好的だし。ただ、先代魔王の残党とかが山のどこかに隠れていて……などという展開なら、あり得ない話ではないか?
「どうする?」
エイナに尋ねる。このまま進んでさっさと花を摘んで帰るか、少しだけでも調べるか。あるいは一度引き返して詳しく調査するのか。
俺達はあくまで祭事に必要な花を摘みに来ただけ。調査をするような装備ではないし、さすがにこの状況下で調べようとは思わない。ただ、俺達は魔物と接触してしまった。これを相手が気付いていれば、俺達が引き上げた後に何か行動してもおかしくはない。
さすがにここは無理できないよな……ソフィアも同じ意見なのか、沈黙を守っていた。山へ登るにしても調査ならば現状の戦力ではさすがにまずいと理解しているようだ。
ここは騎士達の判断に委ねよう……エイナ達は相談を開始する。俺やソフィア、リーゼについてはその行方を見守ることに。
降って湧いたようなトラブルではあるのだが、果たして……数分後、結論が出たようでエイナ達は俺達へと振り向き、口を開いた。




