花を求めて
翌朝改めてソフィアと話をして、城側とも折衝した結果、俺自身も竜鳴花という花を手に入れるために動くことになった。
結果、フェルノ山まで出向くことに……以前、色々と騒動を巻き起こした前科もあるので、意外な展開になった。
「お父様が色々と気を遣ってくれたようです」
と、ソフィアは述べた。クローディウス王が?
「戦い詰めで、気分転換も必要だろうと。あ、私も帯同しますよ」
「主役が双方とも出るのか……」
そう考えるとなんだか奇妙である。
「ただし、騎士と共に行動することが条件です」
「それはまあ、当然だろうな……騎士というのは誰が?」
「エイナを始めとした親衛隊ですね」
それなら問題はなさそうかな。
「一緒に行動する以外で何か制約は?」
「特にありません。ただその、騎士達は緊張するかと思いますが」
「俺とソフィアが一緒に行動するから?」
「はい。加え、場合によると他の方も参加しそうな勢いですが」
「誰かが言い出したな?」
指摘にソフィアは神妙に頷いた。
「なんといいますか、私やルオン様が行くということで、是非自分もと言い出す方が」
「候補としてはリーゼとかユノーとか、アンヴェレートとか、デヴァルスとか?」
苦笑し始めるソフィア。どうやら正解らしい。
「花を摘みに行くだけだよな?」
「そうなんですが……あ、ジン様なども言っていますね」
「観光気分じゃないか?」
「たぶんその通りかと思います」
というかデヴァルスは帰ったはずなのでは……? と思っていたら、
「あ、デヴァルスさんは用事があるということでもう少しの間滞在するそうです。とはいえ、今回帯同するというのは半ば冗談でしたので、一緒に行くことはないかと思います」
「そっか……結果として、誰が一緒に行くことになったんだ?」
――彼女の話によると、リーゼとユノーが帯同するらしい。なぜそのメンバーなのかという疑問はあるのだが、決まったことだしいいか。
「出発はいつだ?」
「二日後です」
「じゃあそれまでは星神について調べておくよ」
「はい」
返事をして結論が決まる。よって、俺は仕事に戻ることにした。
数日後、俺は支度を済ませ集合場所である城門前へ赴く。俺とソフィアは旅をしていた時の格好であり、リーゼやエイナについては完全武装。そしてユノーはなんだか浮かれ気分で周囲を飛び回っている。
「……なぜそんなにウキウキなんだ?」
「いや、なんというか面白そうだから」
「別に町へ繰り出すわけじゃないんだけどな……」
彼女としては何か琴線に触れたものがあったということなのか。
「というわけで、よろしく頼むわ」
リーゼがにこやかに語る。背後では俺とソフィアに加えてリーゼという王女まで加わったことにより親衛隊がなんだか緊張しているのが見える。
エイナは大丈夫なのか……と思って視線を移すと彼女は難しい表情をしているけれど、どこか慣れた様子。
たぶん、俺が見てないところでリーゼは無茶をやっているのかもしれないなあ。あるいはソフィアの従者として振り回された経験が活きているのか……あんまり役立って欲しくなさそうな経験だけど。
「では、参りましょうか」
エイナが先導する形で告げる。俺達は一斉に頷くと、ゆっくりと歩き始めた。
とはいえこの状況で町中を進むと大騒ぎするので、馬車に乗り込む。目的地までは馬車を乗り継いで進むことになる。俺とかソフィアなら、移動魔法を使えばいいのだが、さすがに空気は読む。
予定的には往復で十日くらいとは言っていた。その十日間何もしないというわけではなく、道中で訓練もするし星神に関する考察などはする。資料などを持ち込むのはあまりできないが、ガルクとかと話をして考察することなどはできるのだ。
馬車に乗り込むと、俺達は座り込んで話をすることに。この場にいるのは俺とソフィア、エイナとリーゼにユノー。俺以外全員見事に女性である。
「しかしリーゼ……よく許可されたな」
「帯同について? 割とあっさりと納得してくれたけど」
「一緒に行くことについて、何か理由があるのか?」
問われてリーゼは一考し、
「まあ、そうね。あるわよ」
「何で返答に間が空くんだ?」
リーゼは笑う。これはなんというか、リーゼが帯同するのに使った理由とかもテキトーな内容かもしれないな……そんな風に考えると強引な気もしてくる。
ふと、俺は以前魔降の迷宮でリーゼやカティに詰問されたことを思い出す。あの事態を考慮すると、リーゼはソフィア絡みになると結構無茶をやり始める傾向にあるな。迷宮の話についても今のところは取りざたされていないけど……彼女の事だからしっかりと憶えているだろうし、いつか何かの形で行動に移すだろう。
普段はしっかりした物言いと筋の通った意見を述べるため、組織の中でもかなり信頼における人物なのだが……俺やソフィアのことについては少々事情が変わってくる。例えばエイナとかだってソフィアと他とでは接する態度を変えるけど、従者という立場である以上は至極当然の話なので違和感はない。ただリーゼの場合は少し違う。
その辺りのことが関係して、今回一緒に行動することになったのかな……まあ例えば変に出しゃばって場を混乱させるような真似はしないと思うので、とりあえず問題はないと思うことにしよう。
「そういえば、一つ」
ここでユノーが声を発した。
「祭事、だっけ? 花を摘んで戻ったらすぐにやるの?」
「他に必要な物は揃えていますし、私達が戻ってくるまでに用意もできていることでしょう」
と、ソフィアが応じる。
「よって、すぐにでも……でしょうね。とはいえ、ルオン様については現状と変わらず活動できますよ」
「組織の施設内にいれば、問題はなさそうだな……後はリーベイト聖王国についてだけど」
「あちらと交易はしていますので、話はできるかと思います。英雄が使者となれば、話をする価値があると思わせることは可能でしょうし」
問題は、そこからか。果たして俺の口八丁で情報収集できるのか。
「私も一緒に行きますし、頑張りましょう」
「そうだな……というか、ソフィアが同行するのは確定か?」
「もちろんです」
立場から考えれば英雄の俺と王女かつ婚約者の彼女が一緒に来訪するのは至極当然か……ただソフィアとしてはもし駄目だと言われても絶対についてくるだろうなあ、と思うと内心で苦笑したくなった。




