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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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一堂に会する

 ――夜、深夜前といった時間帯に、俺は行動を開始する。使い魔を用いてリリシャの動向は把握している。間違いなく彼女は動こうとしている。


 よって、それに合わせ行動を開始したわけだが……宿を抜け出し宵闇の中を歩き出す。

 程なくして教会付近に到着。まだリリシャの姿は見えないが……あ、出てきた。


 腰に剣を差し、胸当てや具足で身を固めた完全武装状態のリリシャを見て、俺はどうするか考える。このまま鉢合わせとかした場合……気が立っているだろうし、どうなるかわからない。ここは密かに追っかけて様子を見るか。


 ひとまず彼女の様子を観察。町には魔法を使った街灯がいくつか存在するのだが……それにより見える表情は極めて厳しく、また使命感を帯びているようにも見える。この町の状況を憂いているからこその顔つきなわけだが、城へ向かったらどうなるのかを知っている俺は、複雑な気持ちになる。


 町を出ようとしたタイミングで話しかけるか……? そんな風に考えていた時、リリシャ以外が発する足音が彼女の進行方向から聞こえた。しかも具足などの金属的な音も混じっており……あれ、これって――


「やはりか」


 声はバルザード。さらにエイナもいる。騎士二人を見て、リリシャは驚いた顔を見せた。


「あなた方は……どうしてここに?」


 俺も同意見だった。本来エイナ達は彼女の動きに介入しないはずなのだが……?


「なあに、ちょっとした推測だよ」


 バルザードが応じる。


「私達に相当な剣幕で応じた以上、事態を相当憂慮しているのは明白。加え旅人と話をした後、相談した結果……俺達が来たことをきっかけとして、伯爵の城に乗り込もうと考えているのでは、という結論に至ったわけだ」


 ……もしかして、俺との会話がきっかけでこういう結果に? それほど深く干渉したわけではないが……エイナ達にとっては、重要なことだったようだ。


 物陰から会話する様子を窺う俺。上手くすれば飛び出すタイミングが出てくるかもしれない。


「……その旅人も、この辺りにいるんじゃないか?」


 うおお、出現するタイミングも向こうから用意してくれるらしい。これは好都合。


「旅人も?」


 エイナが聞き返す。どうやらバルザードだけの推測みたいだが……俺は今しかないと思い、姿を現す。


「そっちは、俺が来るという根拠が何かあったのか?」

「お、現れたな」


 バルザードが笑う。対するリリシャやエイナは驚いている。


「なあに、この場所と縁がありそうなあんたのことだ。気になって様子を見に来たなんて可能性も高いと思っただけだ」


 ……鋭いというよりは騎士としての勘、といったところだろうか。そういえばバルザードは勘の鋭さで事態の核心に迫る時があったな。

 俺は彼に対し肩をすくめた後、口を開いた。


「ま、そういうことだよ……ただ俺がリリシャさんの前に出ても伯爵の回し者だと判断され切られる可能性もあったから、様子を窺っていたんだ」

「町から出そうになったら止める気だったのか?」

「一応ね。ただまあ」


 と、俺はリリシャを見る。


「この人が説得で止まるとは思えなかったんだけど」

「……どういう行動をするかあなた方にわかってしまうくらいに、私は思いつめていたようね」


 リリシャが言う。騎士や俺を見て、小さく息をついた。


「なるほど、あなた方の意見はわかった……だけど、私の考えは変わらないわ」

「なら、付き合おう」


 バルザードが発言。それに合わせエイナも声を発する。


「私も同意です。お一人で行動するのは……いくらなんでも危険でしょう」


 その言葉に、リリシャは沈黙する。部外者を同行させるわけには――という雰囲気だったが、ここで俺が発言した。


「たぶんだけど、このまま黙っていてもついてくると思うぞ。見つかった時点で運が悪かったということだ」

「ですね」


 エイナが同意。すると彼女は俺に目を向け、


「あなたも?」

「……ここまで関わった以上、俺も付き合うさ。一応これでも魔族を倒した経験もある……サポート役だけどな」

「討伐経験があるという人間は少ない。私達としてもご教授願いたいものだな」


 バルザードが言う。俺は笑い返した後、リリシャへと告げる。


「リリシャさん、俺達三人は自分達の意思でついていこうと思っている。あなたが単独で行動するのは危険だと思っているし、なおかつ止まる気もないんだろ? 俺達としてはここまで来た以上放っておけないし……もし戦うなら、共にということでどうだ?」

「……それで、本当にいいの?」


 エイナとバルザードは即座に首肯。俺も続けて同意し――リリシャはそこで踏ん切りがついたようだった。


「わかった……あなた方がそう言うのなら」


 ――ここからが本当の勝負である。なぜかというと、彼女が単身乗り込んだ伯爵の城の状況はまったくわからないからだ。


 ゲームでは彼女を追い主人公達も城に足を踏み入れるわけだが、魔族に関わる魔物が出現し苦しめる……つまり完全なダンジョンとなっている。構造自体中々複雑で、ゲームに存在する全ダンジョンでも三本の指に入るくらいにはややこしい。


 ただ、リリシャが訪れた時は違うだろう。というのも、ゲームでは城の中央にある謁見の間に続く扉に結界が張ってあったため主人公達は遠回りする他なかった。だがアーザック伯爵の狙いがリリシャ本人だとすると、そのまま謁見の間に通す可能性だって考えられる。


 しかし俺やエイナ達がいるとなると、その辺りどうなるかわからない……なおかつリリシャをどう殺めたのかという部分もゲームで語られたことはない。おそらく謁見の間に罠を仕掛けていると推測しているのだが……。


 罠がどういうものなのかも疑問。ただ俺は回避できるはず。麻痺などのステータス異常は護符で防げる。魔法で拘束するという場合は、アーザック自身の魔力の多寡によって成功率や魔法の持続率が決定する。奴の能力は頭に入っているが、俺の方が強いのは間違いなく、通用しない。


 こういう形となった以上、リリシャを含め全員無事に帰す必要がある。なおかつ、今ここでリリシャと共に行くことでアーザック伯爵と決着をつける必要があるだろう。そのために、いくらか対策をしておくか。


「ちょっと待ってくれないか」


 移動し始めようとしたリリシャ達に俺は声を上げる。


「伯爵って人がどんな人物なのかはよく知らないが、用心はした方がいいだろ。少しくらい準備をしても罰は当たらない」

「準備? しかし店なども閉まって――」


 リリシャの言葉に対し、俺は左手をかざす。


「召喚魔法の応用で色々とアクセサリの入っている収納箱をこの場に召喚できる……罠の一つや二つあってもおかしくない。睡眠系の魔法や麻痺を防ぐアイテムくらいは持っていてもいいだろう」


 ステータスの対策はやっておいた方がいいだろう……というわけで全員分にそうしたステータス異常を防ぐアイテムを渡しておく。


「ごめんなさい、色々と」


 リリシャが言う。俺はそれに「平気」と答えた後、エイナ達へ視線を向ける。


「伯爵はたぶん、厄介な相手だと思う……そっちは大丈夫か?」

「こちらのセリフだ。もし危ないと思ったら引き返してもらうからな」

「わかっているさ……それじゃあ行こう」


 気付けば四人……パーティーを組んで伯爵退治をすることになった。


 ただここで疑問が一つ。リリシャは仲間にならない人物だが、その強さは如何ほどのものか……名が通っている以上は、十分な実力を保有しているとは思うが――もし戦いとなったら、その辺りを観察してみるのもいいだろう。


 俺達四人は町を出る。伯爵の城への道は静まり返り、魔物の気配もまったくない。だがいつ何時出現してもおかしくない雰囲気であり、張りつめた空気の中、城へと向かった。


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