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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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使徒の進化

 グオオオオオ――そんな雄叫びのような声が聞こえた。頭部など既に抉られているはずだが……いや、それは声ではなかったのかもしれない。魔力が発する反響音。あるいは、使徒が高速再生を行うことで生じる歪みによるものだろうか。

 光が消えた先に、使徒の体がずいぶんと削られているのがわかったのだが……何やら、おかしい。使徒の体を構成する肉の塊が、遠方からわかるほどに動いている。


「何だ……!?」


 明らかな異変。何が起こったのか注視していると、その体に明確な変化が。高速再生の能力を活かしてなのか、恐ろしい速度で体を改変していく。それによって生じたのは……、


「人間、か……!?」


 手足を持つような人間の形へと変貌する。直立するため獣のような姿と比べて高さはある。けれど肉体そのものを俺の魔法で削っているため、魔物ほどの威圧感はない。

 頭部と思しき部分も形成されてはいるが、そこに顔を構成するパーツは存在せず、できの悪い泥人形のような出で立ちだった。


「一気に形を変えた……が、意味はあるのか?」


 俺は呟きながら魔法を行使。真っ直ぐ光の剣が星神の使徒へ駆け抜けていく。仲間達についてはまだまだ余裕はある。連発してもまだ問題はない。

 そこで、使徒は思わぬ反応を見せた。光の剣が突き進んでくる――それに対し、使徒は両腕をかざしたのだ。まさか、受け止めようというのか――


 刹那、閃光と轟音が炸裂し、使徒の姿がかき消えた。ともあれ先ほどのようにただ頭から魔法を受けるだけではない……進化、しているのか。


「人型を模した理由はわかりませんが」


 ふいにソフィアが考察を始める。


「少なくとも、防ごうとした……新たな力を得たのは間違いありませんね」

「とはいえ、さすがにあれだけの質量を持つ魔法を正面から受ければ……」


 デヴァルスが呟く。その間に光が消え、使徒の姿が見えた。両腕が消し飛び、さらに貫通したのか体に大きな穴が空いていた。

 だが、次の瞬間使徒は両腕の再生を始める。それも恐ろしい速度であり、バキバキバキと音がここにも聞こえてくる……そうやって無理矢理腕を生み出している。


 どういう原理なのか……と思いながらも俺はさらなる魔法を放った。こちらはひたすら魔法を使い、使徒を消し飛ばすべく攻勢を仕掛けるだけだ。

 光の剣が再び海上を駆け抜けて巨体へ直撃する――が、俺はなんとなく理解した。どうやらあいつは、再生速度を極限まで強化して、耐えきろうとしている――


 再び光が消える。俺の推測は正解で、先ほどと同じように両腕が消え、体に穴が空いている。しかしこちらが魔法を使うよりも先に再生が始まっている。


「おい、あれ大丈夫なのか……!?」


 そんな声がアルトからもたらされた。全員、不安に思ったはず。しかし、


「いや、魔力は確実に消耗している。ルオンさんの攻撃に耐えられるだけの再生能力を利用するには、相応の魔力が必要らしい」


 と、デヴァルスが俺達へ解説した。


「どうやら、消耗戦の様相を呈してきたな……あちらの魔力が尽きるのが先か、島に到達されてしまうか。いざとなればこちらは逃げればいいが……」


 そう語る間に俺はさらに魔法を使用。閃光が生じ、嫌に聞き慣れてしまった爆音を耳に入れていると、さらにデヴァルスが解説する。


「姿を変え、堪え忍びながらこちらへ近づいてくるだろう。問題はあれ以上小さくなると、今度は回避能力を得てしまう可能性がある」

「よけられるようになってしまったら面倒だな……どうする?」

「回避の可能性はもちろん考慮している。ルオンさんの魔法を遠隔で軌道を歪ませる」

「そんなことできるのか?」

「多少なりともリソースは使うが……天使達の魔力が入り込んでいるからこそ、できる所業だ」


 自分達の魔力が内在しているため、制御が多少なりともできるというわけか。デヴァルスは配下の天使達へ指示を送る。今の段階ではまだ余裕で当てられるが、今のうちに準備をというわけだ。

 先の先を読んで動く必要があるか……やがて使徒を捉える。魔法によって削られ歪になってはいるが、人間の形はかろうじて保っている。


 ただ、一つ気になることが。俺は使い魔を使徒の横側から観察する形で展開させているのだが、魔法が直撃した前と後では少しだけ前に進んでいる。魔法を受けながら、なおも進もうとしているのか。

 近づかれれば大変なことになるのは間違いないし、これ以上接近させないようにしないと……再び魔法行使。これだけ撃つと手順も最適化され、一発目に放った時と比べてもスムーズに攻撃を行うことができている。使徒は体を身じろぎさせて魔法を流すかよけるかしようとしたが――直撃。再び光の柱が海上に生まれる。


 確実に魔力は減っている。このまま削り続ければいかに高速再生能力を持つ使徒であろうとも滅ぶしかない。なおかつ、魔力を減らし続ければ接近されても対応できるくらいになるかもしれない。

 というか、そういう展開にする他ないだろう……さらに射出される魔法。だが使徒も耐えきるためか、再生途中の腕をかざす。


 そこで、使徒から魔力を感じた。反撃……と一瞬思ったがどうやらそれは俺の魔法を届く前に破壊するか、多少なりとも魔力を相殺させるか……そういう意図を持っているらしかった。

 だが、その攻撃を光の剣は容易く突き破った――たぶん再生能力に魔力をつぎ込んでいるため、思ったよりも威力が出ていないのだろう。防御にリソースを回している今の状況であれば、多少近づかれてもどうにかなるかもしれないが……、


 何度目かわからない光の柱が使徒を中心に生じる。最初と比べてずいぶんと体は小さくなっているが、まだ巨大であるのは間違いなく、ともすれば一気に接近される可能性がある。むしろ体を小さくすることで移動速度を上昇させるとか考えてもおかしくはない。

 そうなったらデヴァルスの準備に期待するしかないだろうか……そうこうする内に天使達の準備が完了。


「まだ、魔法を試す余裕がある。デヴァルスさん、今のうちに操作できるかやってみないか?」

「そうだな……一度、試そう」


 彼が同意した直後、攻撃を耐えた使徒が見えた。即座に魔力を消耗し再生を始める相手……それに対しこちらは、一片の容赦もなく次の魔法を放った。


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