共鳴と使徒
――翌朝、俺は夜明け前に起床した。昨夜は早い時間に眠ったのでこれだけ早くても体調的に問題はない。
支度を整え、海岸へと出る。そこで、気付く。真正面……豆粒同然ではあるが、海から何かがこの島へと迫ってきている。
「来たか……」
いよいよ始まる。その時俺と同じように支度を済ませた組織の面々と、各種族達がやってくる。
「おはようございます、ルオン様」
「おはようソフィア。眠れたか?」
「はい、ひとまずは……いよいよですね」
「早速だが、準備を開始してくれ」
デヴァルスが指示を出す。それにより、俺達は『共鳴』状態を作り出すために動き始めた。以前バールクス王国で布陣した内容そのまま、中継者を配置。俺は中心にいて、じっと星神の使徒を観察し続ける。
少しずつその姿が大きくなっていく。準備は滞りなく進んでいるので、間近に迫るまでには攻撃を始めることができそうだ。
「――ルオンさん、今一度確認する」
ここでデヴァルスが口を開く。
「中継者を介して『共鳴』状態による魔法攻撃を行う……再生能力を強引に押し切るだけの威力を出せるため、一発で倒そうという必要性はない。また一度『共鳴』状態に入ったら維持するためはそれほど難しくはない……というより訓練したからな。攻撃する場合はルオンさんの判断でやって構わない」
「わかった。問題は『共鳴』を維持できる時間だけど……」
「さすがに一分とか二分とか、そんなレベルではないから安心してくれ。集中力の問題であるため、中継者を含め魔力を注ぐ側がどこまで保てるか……魔力を放出し続けるのも大変だが、この面子ならば多少時間が掛かっても問題ないだろう」
人間以外は魔力が潤沢だし、人間については技術を結集した道具を活用しているので、誰かが延々と魔力を提供するとか、そういうことにはなっていないからな。ただ集中力を維持し続ける必要から、まあ長くて一時間くらいだろうか。
正直そのくらいの時間があれば十分過ぎるし、さすがに決着はつくだろう。もしそれでもどうにかならなかった場合は、他に方法を考えなくてはいけないが……この島も既に幻獣達は避難を済ませているし、移動して次の対策を講じるしかないか。
残る懸念としては、星神の使徒について。最初の攻撃である程度特性を理解したわけだが、攻撃し続けることによって……致命傷を与えることによってどうなるかは未知数だ。高速再生が速まるくらいならばまだマシ。もし自爆でもしようものなら……まあ、その辺りはデヴァルスだって考えているようだし、相応の準備を行っている様子。いざとなれば『共鳴』状態の俺が援護すればいいだろうし、なんとかなるか。
「攻撃開始の合図はどうする?」
「まだ距離はあるが……魔法が届くのであれば今からでもいいぞ」
あまりに近すぎると俺が使用した魔法の余波がここまで届くよな……そんな風に考える間にも、星神の使徒の姿が大きくなっていく。
それほど経たずしてここまで辿り着きそうだな。なら、
「わかった。なら魔法を撃ち込んでみようか」
「よし、では準備を始める」
デヴァルスが告げると魔力収束を開始する。『共鳴』状態に入るプロセスについては散々やってきたし、この場にいる誰もが手慣れた作業。やがて中継者へと魔力が送り込まれ、それを俺が受け取り魔降の武具へ収束させていく……再現なく魔力を吸い続ける武具。改めて恐ろしいと思いながら、俺は頭の中で魔法を使うべく準備を行う。
使用するのは『ラグナレク』の応用バージョンといったところ。光属性ではなく完璧な無属性だが、光属性最上級魔法に類似した見た目を持つ。というかまあ、使い慣れた魔法を真似た方が戦いやすいだろうというのが理由なのだが。
俺の頭上で空間が歪み始めた。普通ならば白い光に包まれた大剣なのだが、今回は色合いも違っていた。薄い青と呼べばいいか……スカイブルー的な色合いをした光の剣が、俺の頭上に顕現した。
魔力は『共鳴』状態であるため非常に落ち着いている。制御も問題なく、いつでも射出できそうだと考えた時、星神の使徒へ視線を移す。
その姿が近づくにつれて改めて……その迫力が凄まじいものだと改めて思い知る。アレを討てるだけの力を得ることができるのか……そう十日前は思ったものだが、今は違う。
正直、無茶苦茶動き回り長い十日間と言えた。しかし、行動の一つ一つが無駄ではなかった……こうして『共鳴』という手法すら得た俺達。確実に手応えがある……だからこそ、
「全員、用意はいいか?」
俺の言葉に誰もが頷く。星神の使徒は俺達の存在を感知しているとは思うのだが、変わらぬ歩調で島へと近づいてくる。
あるいは『共鳴』状態であるため表層的に魔力だけで評価をした結果、取るに足らないと判断しているのかもしれない。そうであればこちらとしては都合がいい。星神の使徒に警戒されたらどういう動きをされるかわからないからな。
星神の使徒をよくよく観察すると、その姿が以前とまったく変わらないものであることはわかる……幻獣からの攻撃を受け続けたにも関わらず、その姿が変わっていないことは再生能力が恐ろしいものだと理解できる。
ただ、ずっと使徒を見据え続けて……俺はなんだか予感がした。確かに外見は変わっていない。しかし、その内部については変化がないのか?
もし攻撃を受け続けることが内部に何かしら変化があるのだとしたら……もっとも俺達の『共鳴』に対応はしていないだろう。強力な魔法を受ければそれだけのダメージを与えられるのは間違いないのだが、問題は食らった後だ。
ただ再生するだけではなく、何かしら変化があるとしたら……そうなったら、こちらも相応の覚悟を決めなければならないだろうか。
「距離的には、もう魔法が当たるくらいか……」
そうデヴァルスが呟いた時、星神の使徒の頭部が一瞬だけ動いた。どうやら俺達のことを捕捉した……のだが、歩みはまったく止まらなかった。
「どうやら、こちらのことは無視するようだな。ま、出力そのものはそれほど高くないからな……さて、ルオンさん」
「ああ」
「一撃食らわせてやれ」
――誰もが、意思を一つにした。決めろと。
俺は頷き、魔力を収束させる。直後、大剣が頭上に出現し――直後、星神の使徒が小さく唸る。それと同時に、俺は魔法を――放った。




