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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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組織の名

 その日は天使達が作成した建物で体を休め、俺達は一夜を明かした。翌日、幻獣達の協力を得て星神の使徒が次に目標としている島へと辿り着いた。


「ここが決戦の場だ」


 そうデヴァルスは告げた後、天使達へ指示を出して準備を開始する。俺は海岸へと赴き確認するが、まだ使徒の姿は見えない。


「デヴァルスさんが言ったところによると、明朝にはおそらく姿が見えると」


 それまでに準備を重ねて……というわけだが、俺としてはここまで来たらやることは何もない……ので、明日までゆっくり休むことにする。


「ルオン様」


 その中でソフィアが声を掛けてくる。俺の様子を窺うって感じだろうか。


「ソフィア……そっちはどうだ?」

「準備は万全ですよ」


 頼もしい言葉……なのだが、決戦が迫っているためか少しばかり顔が強ばっている。


「緊張は、さすがにしているか」

「そういうルオン様は?」

「俺だって多少は……けれど、やれるだけのことはやったからな。デヴァルスさんも悲観的になっているわけではないし……『共鳴』という新たな技法も得た。成果も十分だし、いけるはずだ」


 それはもしかすると、自分にそう言い聞かせるような形だったのかもしれない……が、ソフィアはそこについては何も言わず、


「組織がなければ、ここまでスムーズに事は進みませんでしたよね」

「そもそも幻獣と話し合うなんて展開もあったかどうか……魔界での戦いを契機に俺達は組織を作り上げたけど、それが結果的に功を奏したか」


 まあいずれは、こういう形で組織を設立していたかもしれないけれど……と、ここで俺は一つ、


「そうだ、ソフィアには先に言っておこうかと思うんだが」

「何をですか?」

「組織について重要なことが決まっていないだろ?」

「名前ですね」


 即答した。それと同時に俺とソフィアは笑い合う。


 今まで色々な仕事に迫られた結果、組織の名前をおざなりにするという、なんとも情けない状況になっていた。まあバールクス王国の城内において組織と言えば俺達のことで通じていたし、不便もなかった。そういう意味で怠けていたとも言えるし、名前がなくとも通用していたし城の人にも迷惑は掛けていないだろということで甘えていた部分もあった。


「今回の戦いで、組織として実績を上げたことになる。魔界の一件はまだ組織の設立前だし、明確な成果の一つだな。ユノーの一件とか、細かいものはあるにしても、組織を設立した大きな理由……その敵と戦ったことについては、十分な実力を示せたことにもなるだろう」

「そうですね。ただ強大すぎる力として、警戒されてしまう可能性もゼロではありませんが」

「そこは例えばカナン王とか、俺達の知り合いを通じて上手く説得していくしかないな。幸いこちらにはリーゼとかもいる。諸国の中で大きな国とか、重要な立ち位置の国とかの王様と交流もある。立ち回り次第だろうけど、どうにかすることはできるだろう」


 さすがに星神との戦いにおいて人間同士で軋轢が生じることは避けたいからな。


「で、実績を上げたとなれば……さらに言えば敵について明確にすることから、国の内外からも俺達の活動を観察するケースもあるだろう。そういう時に組織名くらいはないと、見栄えも悪いし」

「そうですね……それで、どのような名を?」

「そんなに複雑なものじゃない。というか、これ以外の名前はないってものだ……組織名は、『エルダーズ・ソード』だ」


 ソフィアは俺と視線を交わす。そこでこちらは肩をすくめ、


「改めて言うけど、この名前は……俺の前世、この世界のことを物語にしたゲームの名前だ。賢者の血筋や賢者の残した物など、彼という存在を中心とした物語……正直、俺の転生した件などを含め、賢者がどこまで関わっているか不明瞭だ。けどその名前を冠することで俺は、賢者を超える者として……星神を討つ存在として、自分を成り立たせることができるように思う」

「良い理由だと思います」


 ソフィアは告げる。そこで俺は、


「なら、この戦いが終わったら正式表明としようか。リーゼなんかはやっと決まったか、と呆れた顔になりそうだけど」


 笑い始めるソフィア。そこで俺もまた口の端を歪ませた後、話題を変える。


「……なんというか、ここまでバタバタして申し訳ない」

「私とのことですか?」


 婚約云々のことだと察して問う彼女。俺は深々と頷いて、


「魔界から帰還して以降、それこそ駆け抜けるような心境だった……ソフィアもソフィアで落ち着いてはいなかったし」

「私としても仕事がありましたからね……それに、このような戦いだってある。仕方がありません……ただ」


 苦笑する。何が言いたいのかはわかった。

 彼女だって落ち着いて俺と会話を楽しんだりはしたいのだ。状況がそれを許さなかったのもあるけど。


「……この戦いが終われば、きっと星神が世界を破滅するに至った経緯の物語が始まる。そう遠くはないだろう」


 俺は告げる。ソフィアは表情を戻し、俺の言葉に耳を傾ける。


「それについて、どう干渉するか……現在も情報収集しているけれど、物語の全容がわかっていないため、俺としてはどう手を出していいのかわからない。ただ、何かしらの形で触れようとは思う。単なる旅人として、というのも一つの手だとは思うが……国同士の交流という形で、大陸を渡った方が都合が良いかもしれない」


 それは一応根拠がある。まず国と接した方が情報を集めやすいこと。何が起こるかわからない以上、一介の旅人よりも国の中心などに身を置いた方が明らかに情報を得やすいだろう。ただまあ、身の置き方によっては面倒なことになるけれど……そこは上手くやるしかない。

 そしてもう一つ。次のエピソードは前世の俺において新作だったわけだが……冒頭部分については知っているし、重要な人物が誰であるかについてはわかっている。その人物というのは――


「ルオン様に従いましょう。完全に知らずとも、きっかけなどはわかっている……であれば、私達が口を挟む必要性はないと思います」

「そうか……場合によっては組織における権力などを利用する必要性がある。今回の実績が活用できるかはわからないけど……ま、様々な種族と手を結んだんだ。それを利用するか」

「そうですね」


 ソフィアは肯定……そんな風に会話は進んでいく。いつしかソフィアの表情が和らぎ、今日は緊張もほぐれ休むことができそうだった。


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