騎士の心情
いくつかある宿の中で、俺達は飲食店が併設される場所に入り、話をする。朝食をとっていなかったので、サンドイッチをつまみながら情報交換を行う。
しかし、店で騎士二人と対面して話すというのはなんだか違和感が……しかも片方は半端じゃなくガタイがいい人物なので、威圧感も結構ある。
「――ひとまず、ロベイル王国についてはもう大丈夫のようだな」
こちらの説明を聞いて、バルザードが感想を述べる。俺は首肯し、サンドイッチを一口。
さすがにレドラスを倒したなんて話まで出すと信用してもらえない可能性もあるので、現地でどういうことが起こったのかを話した。
「……二人に確認だが」
そして説明を終えた時点で、俺は問う。
「ロベイル王国の騎士などと、こうした話はしていないのか?」
「現在私達は、彼らと共に戦ってくれないか交渉している最中だよ」
バルザードが返答――確かエイナのシナリオでは、国を追われた騎士達と連携して態勢を立て直すことがシナリオ序盤から中盤にかけて主軸だったはず。今はその過程にあるのだろう。
ある程度騎士達が集まったら、制圧された様々な場所へと向かい反撃を行う――とはいえ場所ごとに難易度が設定されており、エイナの故郷であるバールクス王国の場合だとシナリオ後半になってからじゃないとツライ。
使い魔の報告によると、エイナ達は現状の戦力で南部のいくつかの都市を解放した。今はロベイル王国などと協力交渉をしつつ、仲間集めをしている段階か。
ゲームでは中盤以降は戦力集めに加え、五大魔族との戦いに入る……エイナを主人公にした場合断続的に魔族や悪魔と戦うことになるため、非常に忙しいシナリオとなる。やることが多かったため他の四人より窮屈な印象もあった。しかし戦闘にバリエーションがあったため、バトルを楽しみたい人にはそこそこウケていた記憶がある。
「お話していただきありがとうございます。それで、こちらについてですが――」
今度はエイナが語り出す。もらった情報としては、まだまだ戦力的には不十分といったところだろうか。
おそらくだが、俺達がレドラスを倒したタイミングというのは、エイナ達にとっては早かったのかもしれない。エイナが主人公であった場合、五大魔族に挑めるタイミングはもう少し騎士達の態勢が整っている状態の時だったし……まあ魔族を撃破し人間側の状況が改善しているのは間違いないので、彼女達も今後動きやすくなるだろう。
ふと、エイナ達には今後どう動いてもらうのが望ましいだろうか考える。悩むところだが……少なくとも戦力を整えることはいいことなので、そちら方面で色々頑張ってもらいたいところ。
そしてもしバールクス王国を奪還しようとする動きを見せた場合……ソフィアと引き合わせるべきかどうか。いや、これはその時の状況によって考えた方がいいか。
「――どうしましたか?」
ふいにエイナから問い掛けられる。どことなく仕草などがソフィアと似通っているような気がした。
「ああ、えっと。聞いた情報を頭の中で整理していたんだ」
そう返答し――ひとしきり情報交換をした後、俺にとっての本題に入ることにする。
ゲームにおいて、彼女は亡国の憂き目に遭った騎士達の中心的な存在だった。さらに主人公ということもあってか、意見を言うことも多かった。よって――
「……リリシャさんを仲間に加えようと発案したのは、どっちなんだ?」
「私です」
エイナが言う。それに対し俺は彼女に首を向け、
「最初見た時、エイナさんはバルザードさんの従者かなにかって印象だったんだけど、話を聞いているとエイナさんの方が精力的に動いている様子……ということは、エイナさんの方が主導的な立場なのか?」
「――彼女には、その資格があるという話だよ」
バルザードが言う。俺は興味ありげに視線を移す。
「資格?」
「彼女はバールクス王国の血縁者だ。王女の従妹であり、賢者の血筋……成長度合いからも多くの騎士から評価を受けている」
「私にそれほどの力があるのか、という疑問は常々ありますが」
苦笑に近い表情を浮かべるエイナ。荷が重いという雰囲気も見え隠れするが、弱音を吐くことはない。
「もっとも、現在騎士を率いているのは別の人物……賢者の血筋を持つ私は様々な交渉も有利に働くと考え、色々と協力者を探しているんです」
「なるほど、ね。だからあなたがここに来たと」
納得したように俺は声を上げる……確か、現在騎士をまとめている人物もエイナに一定の評価を下し、彼女の言葉を受け入れるという方針をとっていたはずだ。
ゲーム的には主人公である彼女を自由に動かせるようにするための処置という解釈もあったわけだが、現実となった今では賢者の血筋が大きな役割を担っているらしい。
「この村を訪れた後、あなた方はどう動くつもりだ?」
世間話くらいの雰囲気で問い掛ける。するとエイナは厳しい表情をした。
「共に戦う騎士の中には、今すぐにでも各国に襲い掛かっている魔族に反撃すべきだと主張する者もいますが……私としては、まだ早いのではと思っています」
慎重な意見……彼女の意見も理解はできる。
レベル的には他の主人公達と肩を並べるくらいではあるのだが、戦力的にはまだまだ足りないと考えている様子。魔族の脅威を考えると、慎重になるのも頷ける。
「……バールクス王国の方は、どういった状況なのか把握は?」
さらに尋ねると、エイナは歯を食いしばりながら厳しい表情を示した。
「現在、王と王女が捕らえられている……本当ならば、すぐにでも助けにいきたい。しかし……」
エイナは語る。この様子だと、やはり何よりも優先したいのはバールクス王国の奪還。けれど自身の能力を鑑みて必死にこらえている、という感じか。
「現在、国を制圧した魔族以外にも、居城を構える魔族がいる」
ここでバルザードが語り出した。
「五大魔族と言われる魔王も信頼する幹部だが、そのうちの一つはロベイル王国内で滅んだ。残るは四体。こちらを優先すべきという意見もあるのだが……侵攻を受けながらどうにか耐える国々も何かしら動いている様子であるため、ひとまず情報を収集しどう動くか判断したいところだ」
何かしら――俺はそれで直感する。ガーナイゼに近い五大魔族……様々な国が交差する国境付近に居城を構えるその場所は、魔物も生み出され周辺の国々に影響を与えている。
それに対し、国々が動く……イベントが発動すると国々が連携し居城に対し包囲戦を仕掛ける。個々の国は魔族の侵攻を受け疲弊しているが、一度に集い仕掛けることで、減らされた戦力を補おうというわけだ。
その戦いが、おそらく近いのではないか……周辺を観察している使い魔からは何も報告がきていない。だが水面下で戦いの準備が進んでいる可能性がある。
バルザードやエイナ達がそれに参加するのかはわからないが、そうした情報は入っているのかもしれない。
「リリシャさんは仲間に加わらなかったようだが、今後そちらはどうするんだ?」
話を変えなんとなく質問をしてみると、エイナ達は互いに顔を見合わせる。
「……ひとまず、今後のことを相談しないといけませんね」
「だろうなあ。ま、今日一日くらいは滞在するつもりだ。ゆっくり考えようじゃないか」
そんな会話が成される……二人の様子を見ながら俺は今後のことを考える。
リリシャは夜動く。使い魔で動向を観察しているので、城に行くのならすぐわかる。そのタイミングで干渉することにしよう。
頭の中で今後の段取りを決め、俺はエイナ達に礼を述べた。勝負は夜――よって、俺は待つことにした。




