均一の力
俺の要求に対し、仲間達は相変わらず四苦八苦しながら作業をする。魔力量を六種族で均一にする……口で言うのは簡単なのだが、それを実際にやるとなるとかなり大変みたいだ。
これをやるには当然、魔力量が少ないところに合わせるのがベストだが……一番魔力量が多い場所と少ない場所では結構開きがあるようで、量を少なくするのも大変らしい。
「大丈夫かー?」
時間が掛かっており、俺が問い掛けると「ちょっと待って」とリーゼが声を掛けてくる。やっぱりというかなんというか、人間側が一番大変そうだな。
まあ人間と幻獣の二種族が問題なのはやる前からわかりきっていたけど……考えている間にも作業は進む。突貫工事で中継者を採用したので、大変なのはわかるのだが、
「デヴァルスさん、どうする?」
「もう少し様子をみよう。ひとまず形にできるかを確かめる」
そうした会話からおよそ三分ほど。ずいぶん悪戦苦闘しているなあ、と思っているとようやく均一にできそうな雰囲気となる。
「やっぱり魔力量を一緒にしようとすると、だいぶ減るな」
そんなコメントがデヴァルスから成される。それにガルクが続く。
『うむ、精霊の力についてはおよそ半分ほどまで減ったか』
「半分……となるとここから人間と幻獣が頑張らないといけないってことか」
その指摘にリーゼ達も頷く。彼女達は彼女達で急に渡された武具で魔力調整をやっているわけだし、大変だよな。
「ここから出力を上げるのはそう難しくないと思うぞ。練度が増せばそれだけ自然に出力も上がる」
「とはいえ、十日間で使徒を倒せるまで高められるはわからないだろ?」
「そこは頑張り次第だな」
ふむ、精霊とか天使とかはしっかりとした形に現段階になっている。よって、形だけ体裁を整えた人間と幻獣について重点的にやるべきか。
そんなことを思いつつ、均一になった魔力が中継者を経て届きそうになる。一緒になることで何か変化があったらなあ、などと希望的観測を持って魔力を受けたのだが、
「…………」
「ルオン様? どうしましたか?」
無言になってしまった俺に、ソフィアが疑問を呈する。
「ルオン様?」
「……あー、そうだな」
俺は少しばかり考えた後、
「一つ訊きたいんだが、この調整って誰でもできるのか?」
「現在魔力は均一になっている。ここから少し量を上げる下げるについては、問題なくできるぞ」
と、デヴァルスが述べる。
「加え、どの程度の魔力量なら均一になるかはわかったから、以降は短時間で処理できる」
「わかった。それじゃあ少しだけ出力を上げてくれ。均一にしなくていい」
その要求にデヴァルスやソフィアは訝しげな視線を送ってきたのだが、ひとまず意味はあるのかと質問はせず、作業を始めた。
やがて魔力が増え、それがペンダントへとなだれ込んでくる……うん、これは――
「魔力を均一にした時と、だいぶ違うな」
「違う、とは?」
首を傾げるソフィア。俺はどう説明するべきかと悩んだ後、
「例えるなら……現在はザワザワと波打っているような魔力だが、均一になった瞬間波が止まり、静寂の中に放り込まれたような感覚だった」
「ふむ、魔力量を均一にすることで明確な変化があったと。これは面白いな」
デヴァルスはそう語る。そこで、
「これ、当然ながら六種族が集ってやったことなんて歴史上今までなかっただろうし、初めての事実なんだろうけど……どういう理屈なんだろうか?」
「そこは研究することにより、解明していくしかないな。とはいえ、だ。ここで重要なのは波打っている時と均一になっている時と、どちらがより強いのか、ということだ」
そこだよな。では、どう試すのか。
「ルオンさん、それじゃあ低級の魔法で実験してみようか。天井部分に存在する障壁をより厚くする。それに当ててみて、試そう」
「わかった」
言った直後、天井に存在する障壁が明らかに強化される。
「それじゃあ、各々の種族……出力を上げてくれ」
デヴァルスが指示を出すと同時、一気にペンダントへ魔力がなだれ込んできた。それと同時に俺は右手をかざす。使用する魔法は『ホーリーショット』だ。光弾が生まれると同時、それが天井へ向け射出された。
障壁に直撃すると、ドオン、とずいぶん重たい音が響いた。さすが六種族の魔力を集めた魔法。下級であり、俺がそう力を入れているわけではなかったのだが、それでも障壁を大きく響かせるくらいの威力が出るのか。
「……これでも、全力でやれば障壁を破壊できそうだな」
「そうかもしれませんね」
ソフィアが同意。周囲を見回すとオルディアとかロミルダもしきりに頷いている。
「では、次だ……さっきと同じように魔力を均一にしてくれ」
その言葉により、一気に魔力量がなくなる。今度はあっという間に魔力が収束し、先ほど感じた、静寂の中にあるようなくらい、魔力が静まった。
「成功ですか?」
「ああ、大丈夫そうだ。ありがとう……デヴァルスさん、確認だが現在は先ほどと比べ魔力量はどのくらいだ?」
「神霊ガルクが述べた通り、およそ半分だ」
「これ以上は上げられないんだよな?」
「そうだな。ちなみにだが、先ほどの魔力も全力じゃないぞ」
例えるなら二百が半分になって百になるとかではなく、二十だったものを十に減らしたくらいのものか。
「わかった。その状態を維持してくれ。できそうか?」
「魔力の調整自体はそれほど難しくはないため問題はない」
「そっか。なら――」
手をかざす。先ほどと同様に『ホーリーショット』を生み出すのだが……魔法を撃ち出す前から過程が違っていた。
ペンダントへ収束する魔力が俺の腕を伝う。先ほど出力を上げたものが熱を持っているとしたら、こっちは冷気に近い。普通魔力を流したら熱を持っているような感覚を抱くはずなのだが、そういうものが一切ない。
そして光弾を作成するのだが、これが明らかにさっきとは異なっていた。魔力が収束した時間は一瞬。動作も先ほど以上。魔力量が少ないからという解釈もできるだろうけど、俺は違うと感じた。魔力が均一になったことで、魔力を操作しやすくなったのだ。
そして俺は天井へ光弾を放った。その瞬間、ペンダントへ収束していた魔力が、俺の放った光弾へ一気に注がれた。それは一瞬の出来事。何が起こったのか俺自身も半ば理解できないまま――光弾が天井へ直撃。刹那、凄まじい轟音と室内を揺らす振動が、俺達へと襲い掛かった。




