地味な仕事
その後、ガルクやデヴァルスがリーゼ達を連れて部屋を出た。彼の指示通りに待つ間、
デヴァルスの指示通りに待っていると、彼が一人で戻ってきて、まず俺達を見回した。
「試練は以上……ルオンさんにとっては忙しい日だったが、神霊ガルクが試練を受けた面々に説明を施しているから、これ以降は戦いもなしだな」
「これからどうするんだ?」
「後はひたすら地味な仕事だ。各自で検証行い戦いの準備を進める……ルオンさんは手に入れた武具についての検証だな。できれば数日前には形にして、全種族が集って準備をしておきたいところだ」
そもそもそれがどこまで進むのかもわからないのだが――
「根本的に……それで間に合うのか?」
「正直、賭けには違いない……が、ルオンさんが迷宮で手に入れた物などを含め、良い方向に話が進んでいるとは思う」
デヴァルスとしても魔降の武具については期待しているみたいだな。
「……なら、早速作業を始めるとするか」
「ああ。この場にいる者達は、各種族と一緒に作業を進めてくれ。あ、ソフィア王女については直に他に手を貸してくれる精霊が来るそうだから、それまでは神霊ガルクと作業だな」
「わかりました……ここからは、時間との勝負ですね」
「下手すると徹夜になるかもしれないな。ま、決戦の時に体調を整えればいいし、少しくらいは無理することになるか」
デヴァルスは現時点で結構無理をしているだろ……と言いたかったのだが、彼は笑みを浮かべる。
「俺の作業としては大して負担になっていないから心配するな……それじゃあ、早速作業を始めよう――」
そこから、俺達は星神の使徒を打倒すべく作業を始めた……のだが、魔降の武具の検証とか、あるいはどういう風に力を結集させるかなど、理論構築や研究なので、基本的にデスクワークである。絵面だけならひたすら地味である。
組織においてこういうデスクワークをやっていたことも無論あったのだが、時間が差し迫っている中で仕事をするというのは、例えるなら納入しなければならない品物が未完成で、期日が迫っているような感じで、なんだか焦りたくなってくるのだが……、
「作業は進んでいるかしら?」
俺の作業スペースにカティが訪れた。ちなみに俺は部屋で一人黙々と、というわけではなく組織にある大広間の一角にあるテーブルに資料を山積みして作業をしている。他の面々も似たようなもので、これは疑問点などをすぐに訊けるようにするためだ。
「ああ、まあ進んではいるけど……間に合うのか、というくらいに歩みは遅い。そっちは?」
「似たようなものよ。けどまあ、慣れないことをやる以上は仕方がないわよね」
「ちなみにだが、どっちを担当するんだ?」
「私は幻獣側。人間の力は主にリーゼ王女を始めとした戦士が。幻獣側を魔力の調整などがしやすい魔法使いが行うことになったわ」
「ああ、それは的確な人選だな……」
「ルオンの方は、見ているとひたすら机に向かって作業をしているわね」
「色々とデータをもらって、どういう風に使うかを検証している最中だからな。まだ実戦段階にまで至っていない。ひとまずそこへいくのが目標なんだが……」
そもそもこれを作成した魔降についてほとんどわかっていないので、この道具の特性などをきちんと調査しないといけない。これが天使の作った物であるとか、竜の残した遺物であるならその種族に相談すればいいのだが、あいにく魔降なんて存在はこの場にいないので、調査に時間を費やしているわけだ。
「最悪、この武具を使うことなく立ち回るくらいの覚悟はしないといけないかもしれない……デヴァルスさんからもそういうケースに至る可能性は考慮しておけ、と言われたし」
「あらゆる状況に備えて準備……か。それにしては時間がなさ過ぎるわよね」
「まったくだ。カティも痛感しているだろ?」
「そうね」
と、カティは机に置かれた資料に手を触れながら語る。
「組織に所属して、決して手を抜いていたわけではないけれど……もっと研究を深めておけば、とは思ったわね」
「今回の事例はあまりに唐突だ。仕方がないさ……とはいえ、星神との戦いではこういう自体に陥る危険性があるってことがわかったわけだ。次からは対応力も鍛えないといけないな」
「相手はとんでもなく強大なのに、臨機応変に……というのは、無茶苦茶よね」
「ああ、そうだな」
苦笑しながら俺は心底同意した。
「少し、休憩するか……カティはどうだ?」
「私は休憩の終わりに話し掛けたから」
「そっか。軽く水でも飲むか……」
甘い物とか欲しい……ここはバールクス王国の王城なのでお菓子とかもちろんあるし、場合によっては高級な果物もあったりする。うん、食堂にでも行ってつまんでこようか。
思考するのに糖分は必要になるからな……うん、そうしよう。というわけで食堂へ。とりあえずクッキーでもあれば……などと思って訪れると、そこには思わぬ光景が。
「……なんというか」
天使と竜が意見交換していたり、あるいは精霊と魔族……というかエーメルが話し込んでいるという光景が。異文化交流みたいな感じだけど、事情を知らない人がここへ来たら卒倒しそうな光景だな。
「……ん?」
と、エーメルがめざとくこちらに気付いた。
「どうしたんだ?」
「休憩だよ。クッキーでももらって栄養を補給しようかと」
よくよく見れば彼女のテーブルには食べかけのケーキが一つ。
「それ、もらったのか?」
「ちょっと前に用意してくれたんだよ。組織のメンバーもその時間に来てもらってったぞ」
「マジか……気付かなかった」
ということは望み薄だろうか。集中してて気付かなかったのだ、と思いつつも行こうとしたら、
「あ、そうだ。一つ訊きたかったんだが」
「……どうした?」
「そんな警戒するような話じゃない。星神のこととは関係ないことだからな……いや、こういう菓子を魔界に持ち込んだら、いい商売になるんじゃないかと思って」
商売、か……。
「そもそも魔界と人間が具体的に交流しているわけじゃないからな……いや、待て。それってつまり、自分が食べたいから言ってるのか?」
「正解」
「無茶言うなよ……」
……こういう風に、食べ物とかで交流した方が成功するのだろうか? そんなことを思った時、幻獣ジンがこちらへやってくることに気付いた。




