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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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神官戦士と騎士

 神官戦士のリリシャがいる場所は、アーザック伯爵が住む城に程近い町、エカリ――といっても、規模としては城下町などという代物ではなく、宿場町を多少拡張させ人口を増やした、といった程度のもの。元々アーザックの領地は農村地帯で、大きな都市がないような場所。その中で言えば、伯爵の城の近くに存在するこの町は大きいと言えるかもしれない。


 俺はイベントが完全に始まる前に到着することに成功。時刻は朝。快晴とまではいかないが晴れた日。

 町へと入り周囲を見回す。重税などの影響か通りを歩く住民達の表情も暗い。不平不満を訴える者だっていてもおかしくないのだが……それをお触れで封じているためか、誰もが口を閉ざしている様子。


 その中、神官戦士であるリリシャは一人気を吐いているという状況だったはず……アーザック自身彼女については相当警戒していた、とゲーム上で語っていた。彼女の始末については魔族から指示を受けていたはずなので、彼女が独自に動かなくともいずれ騒動が起こっていたのは間違いない。


 最終的に彼女は一人赴き、その結果無残に……伯爵の城に踏み込んだら治外法権も同然であるため、やりたい放題というわけだ。またアーザックは彼女の力に興味を示し、殺した後はその体に残った魔力を利用してさらに自身を強化しようとしていた……という話も存在する。


 力……アーザックが魔族に求めたのは力。人間側の反抗が厄介であると認識した魔族達は、侵略を繰り返しつつ時に力や報酬を餌にして人間達を言葉巧みに懐柔し、戦わずして倒すという手法も行っていた。アーザックもそうやって丸め込まれた一人というわけだ。


 だが俺が来た以上、そんなことはさせない……教会に足を踏み入れる。敷地内に足を踏み入れると、シスターの一人が声を掛けてきた。


「お祈りでしょうか?」

「ああ、いえ。ちょっと久しぶりに立ち寄った者で、教会がどうなっているか見たかっただけです」


 俺の言葉にシスターは「そうですか」と答える。警戒心はない様子。

 中に入ろうかなと思った――その矢先、大声が聞こえてきた。


「――とにかく、私は――」

「いけない! 君が町を離れたら――」

「しかし、あの横暴を許しては――」


 男性の声と女性の声。男性の方はやや年齢を重ねた太い声で、おそらく神父だろう。一方の女性はしっとりとした若い女性の声音。もっとも今は感情に流されているのかずいぶんと攻撃的な雰囲気。


 外に聞こえてしまったためか、シスターは苦笑する。


「申し訳ありません。少々立て込んでおりまして」

「……この町に存在している、お触れについてですか?」


 こちらの言及にシスターは頷く。


「はい。色々と大変なのはご理解されていると思います。揉め事に遭遇したくなければ、すぐに町を立ち去った方がいいかと思います」


 その言葉にこちらは頷き――その時、俺は後方から気配を感じ取った。

 来たか……頭の中で呟きつつ振り返る。


 タイミング的に俺の到着とほぼ同じだった……教会の敷地前に、二人の騎士の姿が。


 片方はエイナ。ただ城を抜け出した時と比べて勇壮さが増し、さらに魔法によりコーティングされている青い鎧を着ている。

 そしてもう一人は白銀の鎧に身を包んだ、二メートルはあるかという程の体格を持った、重騎士。名前はバルザード=アガストル。ゲーム上にいた『三強』の一人である。


 兜を被っていないので顔立ちも見える。年齢は四十前後だろうか。皺が僅かに存在する濃い顔立ちと、燃えるような赤い髪。豪放という言葉が何より似合う御仁で、剣を腰に差しているが、戦斧でもかついでいる方がよほど似合うだろうと思う。


「ここだな」

「の、ようですね。バルザードさん、私がまずは交渉しますので」


 二人が会話を行う……使い魔の報告では、エイナが騎士団の中心的人物の一人となりつつあると報告があった。賢者の血筋なども関係しているのだろうし、またその成長能力の高さを期待されているのかもしれない。


 二人がこちらに気付く。俺は会釈しつつ二人に道を譲る。近づいてくると、まずバルザードがこちらへ一言。


「旅人か?」

「はい。知り合いに会おうと思い」


 それだけ答える……一応、筋の通った理由を考えておいた方がいいだろう。ソフィアの訓練を行う間に、俺は知人が心配になって魔法を使いここまで会いに来た……そんな感じの理由が一番か。


 バルザードは「そうか」と答え、エイナと共に教会へと入っていく。それを見送る俺。もし二人が尋ねたのならイベントが発生するはず……シスターが閉められた扉を見ているのを目に留めつつ、俺は小さく息をつく。


「……色々あるようですね。先ほどの騎士は、ここにいる神官戦士さんを目当てに来たということでしょうか?」


 シスターに訊いてみる。彼女は首を傾げつつも「おそらく」と答えた。

 さて、ここからどうなるかだが……ゲームなら五分も経たずにイベントが発生するのだが――そんなことを思っていた矢先、


「私はあなた達と行くつもりはない!」


 一際大きな声。シスターもびっくりしている。その言葉と共に教会の扉が開いた。

 中から飛び出す一人の人物。艶やかな青い髪に女性の神官戦士が普段着込む青い法衣を身にまとう、女性。


 まとう雰囲気は非常に大人びている……年齢も二十代半ばだったはず。年齢相応……いや、おそらく年齢以上の風格が彼女に宿っている。それは紛れもなく神官戦士としての実力が関係している。


 彼女は俺のことを一瞥しつつも、そのまま歩き去ろうとする。そこへ――


「揉め事?」


 質問してみる。すると相手――リリシャはこちらに首を向け立ち止まった。


「……旅の方ですか?」

「そんなところ」

「この町は大変危険です。すぐに離れた方がいい」


 有無を言わせぬような雰囲気と共に断言。思わず苦笑しそうになったが、どうにか堪える。

 そのままリリシャは教会の敷地を出て歩き出す……彼女は主人公と出会った夜、密かに行動を開始する。それがわかっていれば、俺にも対処しようがある。


「すごい剣幕だったな」


 バルザードの声。見るとエイナと彼が苦笑を伴いこちらに近づいてくるところだった。


「しかし、あの様子では無駄足の可能性が高そうだが……どうする?」

「もう少し、話をしてみましょう……今日はここで一泊ということで」


 歩きながら話をまとめる二人……そこで俺は、二人に声を掛けた。


「騎士みたいだが……さっきの人に用だったのか?」


 こちらの質問に、答えたのはバルザード。


「ああ、そうだ」

「魔族との戦いに備え、協力を仰ぎにきたといった感じか」

「そんなところだが、何か興味があるのか?」


 ――こうして話しかけたのには、エイナ達が今後どう動くのか少しばかり探ってみる意図があった。五大魔族に挑むような決意があると、ソフィアのこともあるので少なからず面倒。さすがに使い魔の観察ではエイナ達の心情まで読むことはできないので、どう考えているのか接触して情報を得たいところだった。


「いや、俺の方は大陸を旅していて……魔族の情勢などが気になったため、話をしてみたいと思ったんだ。良かったら、情報交換といかないか? 先日魔族との戦いを行ったロベイル王国の騒動についても少しばかり話せるが」


 その言葉に、エイナ達は興味を持ったのか、俺のことを注視する。

 さて、どうなるか……やがて二人は顔を見合わせた後、エイナが口を開いた。


「よろしければ、教えてもらえませんか?」

「ああ、構わないよ。俺は騎士さん達の現況について、多少なりとも知りたいな」

「わかりました。答えられない事もありますが……少し話をしましょう」


 よし……俺は心の中で呟き、エイナ達と話をすることになった。


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