破壊能力
こちらが動き始めた時、エーメルはニヤリとしながら追撃を仕掛ける。とにかく攻めの一手でどこまでやれるか……それを試しているようだ。
大剣が再び俺へと迫る……そこでこちらは先ほどとは異なり剣をかざし受けようとした。
まともに剣が激突すれば、エーメルの技法で足下をすくわれるかもしれないが、今回はきちんと考えがあった。
刃同士が激突しようとする――その時、俺とエーメルとの間に風が生じた。発生源は俺の剣から。無論これは先ほど解放した魔力によるもの。とはいえ単に風をまとわせる魔法なので、エーメルは攻め立てようとする。
しかし、動かない……俺とエーメルの剣は数センチを隔て、動かなくなった。
「何……!?」
「その技法、強力だが一つ推測できたことがある……たぶん、剣が触れていなければ発動しないんだろ?」
エーメルの表情が少し強ばる。図星らしい。
「重力魔法か、その他の仕掛けか……まだ完全に断定はできないが、どうやら刃に触れることで発動する。なら、使わせないように鍔迫り合いを防げばいいだけの話だ」
俺としても失念していた属性系統なので、色々と参考になる――重力系の魔法はゲームにも一応存在したけど、『エルダーズ・ソード』シリーズにおいては重力増加により素早さを下げるとか、どちらかというと支援系の役割が多かった。
他のゲームでは強力な魔法だったりするのだが、この世界においてそれほど価値のあるものではない……が、魔王クロワはそれに目をつけ、戦術に組み込んだということか?
剣を切り払う。旋風が生じエーメルはそれにより後退。
「……ふむ、さすがに分析を誤魔化していても答えが早いな」
あっさりと同意するエーメル。正解なのか。
「ただ、クロワ本人も結構な自信作だと言っていたんだが……どうだ?」
「悪くはないと思うぞ。重力系の魔法により魔力障壁を破壊する……これは、星神の使徒に対する彼なりの答えか?」
「そういった解釈もできるな……破壊能力は魔族にとって専売特許。その力をどう活用するかを熟慮した結果が、この技法だ」
そう説明を行った後、エーメルは大剣を構え直した。
「では、どうする?」
問い掛けられながら考える――面白いアプローチだと思った。デヴァルスとかガルクなんかも色々考えているはずだが、重力という概念からの切り口をしているとは思えないし、俺の魔力障壁を容易く破壊したことからも使徒に対し一定の効果があるかもしれない。
もっとも仕組みさえわかれば俺も対応はできる……今度はこちらから踏み込む。さっきと同様に風をまとわせ、彼女へ向け剣を放った。
エーメルはそれに応じるのだが……先ほどと同じく剣同士が触れない。状況を打開したいはずだが、エーメルとしては苦い顔。
たぶんクロワとしては剣を当てなければ効果を発動しないよう調整している。無差別に重力を加える技法をしようしても周囲に被害が出るか、あるいは効果が薄いか……何かしらの理由があって触れたら発動と限定している……もっとも完璧に対策をしたければ遠距離攻撃に切り替えるだけでいい。距離を置き魔法を連打すればいかにエーメルとて耐えきることは難しいだろう。
ただ、彼女の方は強引に攻め立てることもできるので、遠距離専門の魔術師とかだとさすがに厳しいかな? そんなことを考えながら俺は風をエーメルへと浴びせる。完全に剣の力を封じられた彼女としては、打てる手立てはそう多くない。
まあそんな状況下でもエーメルは笑っているので、なんというか……どうにか俺に一矢報いようと大剣を刃へ当てるべく四苦八苦する。けれどこちらも手を緩める気はなく……やがて彼女の体を弾き飛ばした。
無論、本来ならそれで体勢など崩れるようなことはないのだが……強引に攻め立てようとした矢先のタイミングであり、彼女も姿勢を正すのが一歩遅れた。
そこへ俺は首筋に剣を突きつける。それにより沈黙が生じ……ソフィアが俺の勝ちを宣言。戦いは終了した。
「いやいや、本当に楽しかった」
ものすごく満足そうにエーメルは語る。
「で、そちらも新たな技法について認識できたか?」
「ああ、なかなか面白いな。それに」
と、剣を握っていた右手を閉じたり開いたりする。剣を合わせていた間だが……技法を使うためにエーメルが故意にやったことだとは思うのだが、魔力を過剰に感じ取れた。
その感触がずいぶんと残っている。相手に分析の余地を与えるので、敵同士なら本来隙を見せないために余計な魔力は抑え込むのだが……たぶん、これが狙いなんだろうな。
あえて魔族の魔力を体に当てることで俺に種族の特性を体に認識させる。で、使徒との決戦の際に、体で覚えたそれが魔力収束の役に立つというわけだ。
やり方そのものは強引ではあるのだが、確かにこれは戦わないと理解できないものではあるな……まあ他に方法がなかったのかと問い質したくはなるけど。
「エーメルさんとの戦いはこれで終わりですね」
ソフィアが締めの言葉を発する。ただ当然ながらこれで終わりではない。まだまだ順番を待っている。
「次は?」
「では俺が」
ユスカが前に出た。その手にはこの組織に所属していた時とは異なる、ずいぶん装飾された剣を握っている。
「……アナスタシア、その剣が仕掛けか?」
なんとなく尋ねると彼女は嬉しそうに、
「そうじゃな。効果については見てのお楽しみじゃ」
こっちはこっちで楽しそうだなあ……というか、エーメルは渡された技法を試したくしてうずうずしていた感じだけど、こっちは実験の成果をしっかり見たくてワクワクしている雰囲気だ。
共通しているのは子どものように純粋な眼でキラキラしていることか……戦う俺からすれば心底厄介だと思うのだが、この際仕方がないか。
「よろしく」
「はい」
挨拶にユスカは律儀に答え、武器を構える。
彼の技量については組織の一員なので把握済み。ただ新たな武器がどういうものなのか……それによって立ち回り方も変わってくるだろうし、一度忘れた方がいいかもしれないな。
たぶんアナスタシアとしては奇抜なやり方で来るだろうし……というか間違いなく来る。よって、一挙手一投足を観察し、絶対に変化を見逃さないようにしたい。
そう思った矢先、ユスカが動く――その瞬間、エーメルとは違いユスカは最初から俺にとって予想外の動きを示した。




