魔族の新技法
で、話し合いから翌日の話である。
「よし、来い」
歪めた空間にある訓練場で、俺は剣を右手に提げてそう告げた。
それに対し、近くにいたリーゼが一言。
「……投げやりねえ」
「当たり前だろ……」
正直、色々と理由を付けられてはいたけど、夜になってやっぱり理不尽なのではという気もしてきた。さすがに「やっぱりなしで」と言うのは無理だと思ったのでそれなりに覚悟を持ってここに来たのだが――
「やる気をなくすとか、そういうのじゃなくてさ。もう見た感じ修羅場になるのがわかっているから、脱力するというか……」
俺の前の前にはまず、エーメルがいた。そういえば何か魔王から託されたのだったか。それを試したくてウズウズしているのだろう。
「……楽しそうだな」
「新しい力を得たのだ。それは試したくなるのが人情というものだろう?」
「どうかな……」
まあ彼女だけならいいのだ。問題はその後ろである。なんというか、次の対戦者達が順番待ちをしている……。
「おーい、せめて別所で待っていてもらえるとありがたいんだけど……」
「ここで色々力量などを分析するんだよ。それは必要なことだろう?」
そう告げたのはデヴァルス。当人も何かしら武装しているのか、昨日所持していなかった装飾品をいくつか身につけている。
傍らにはネルもいて、装備の説明をしている……天界の長についても、準備は万端というわけだ。
他には、アナスタシアがいるのだけれど、こちらはどうもユスカに装備を持たせている様子。ただどういうものなのか……ロミルダに竜達の力を結集させた武具を託したわけだが、それと比肩しうる何かが完成したのだろうか?
そこからさらに神霊であるガルクの本体がいる。今回は人間バージョンではなく、狼の姿。さらに、
「……ジン、ここにいていいのか?」
「幻獣の力だって今回の作戦には必要になる。テラに後は任せているし、大丈夫さ」
幻獣ジンの姿も……こうして並んでみると、壮観である。
「――今一度、状況を確認しておこう」
エーメルと対峙する中で、デヴァルスは告げる。
「ルオンさんが得た魔降の武具などについて、色々と調査が必要ではあるが……これからやろうとしていることは、ここに集った種族達が結集して、使徒を一撃で倒せるだけの力を生み出すことにある。現状で最強の攻撃はおそらく神霊や魔王によるものではなく、ルオンさんとソフィア王女の融合魔法だ。無類の強さを持つルオンさんが加われば、途端に最強の一撃になる」
そこまで語ると、デヴァルスは肩をすくめた。
「ただし、その攻撃でも星神の使徒は倒せない……だからこその作戦。ルオンさんに近しい存在が各種族の力を集結させて、それをルオンさんが束ね、攻撃する。無論、中継者であるルオンさんに近しい者達も力もかなり重要だ」
そう述べるとデヴァルスは一度周囲を見回した。
「ここには精霊、竜、天使、魔族の力を結集させた武具が存在する。残る人間と幻獣については考慮する必要はあるのだが……それらの力に加え、これから見せる力なども今回の作戦に組み込む……壮大な計画であり、成功すれば歴史的な偉業であることは間違いない。しかもそれを、十日足らずで完成させなければならない」
「改めて思うが、無茶だよなあ」
そんなボヤキがアルトからもたらされる。途端、デヴァルスは深く頷いた。
「ああ、その通りだが……使徒を超えなければならない。よって今から力を結集させることに必要なため、模擬訓練で各種族の能力を推し量る」
「というわけで俺が相手だ。で、最初の相手はエーメルでいいんだな?」
「ああ」
笑みを浮かべるエーメル。今日はいつにも増して好戦的である。
なんだか大剣も強い存在感を放っている……ん、ちょっと待て?
「エーメル、その大剣」
「気付いたか。そう、既にクロワからもらった技法を収束させている」
彼女は構えた。そこで俺も姿勢を落とし迎え撃つ体勢をとる。
「審判は誰がやる?」
「では、私が」
ソフィアが前に出た。納得の人選であり、周囲が沈黙する。
いきなり音が消え失せ、緊張が空間全体を包む。どういう意図があるのか――結局理由を伝えてはくれなかったが、意味があると信じ今はやるしかないな。
「――始め!」
ソフィアの声。刹那、エーメルが駆けた。
それはまさしく電光石火。瞬きをする時間で俺を間合いに入れると、大剣が横一閃される。
こちらはそれを見極め、まずは受けた。動作は恐ろしく速いが、これまで訓練風景を眺めていた彼女の動きとほとんど変わらない。身体強化を施しているのか、それとも武器に何か仕掛けが……?
「そう警戒しなくていい」
と、エーメルは告げると一度後退する。
「罠があるとか、そういう陰湿な方法じゃないからな」
「……罠というのも立派な戦略だとは思うけど、まあいいや。斬り込んできたのはクロワから受け取った技法について確かめるためか?」
「ああ、そういうこと」
楽しそうに語るエーメル。そこから大剣を軽く素振りする。本格的な死闘というわけではないから、とりあえず悠長な感じではあるな。
「ふむふむ、なるほど……面白いやり方を考案するな、アイツも」
そして何やらブツブツ言い始める。うーん、先ほど剣を受けた感触としては特に変わった感じはなかったんだけど。
「どういう能力なのか、説明はしてくれるのか?」
「ん? それは戦っていればわかること」
剣を構え直す……と同時に、ギシリと彼女の周囲に存在する魔力が歪んだ気がした。
まだどういった能力なのか解明はできないが……クロワがわざわざ用意したものである以上、生半可なものではない。デヴァルスは昨日魔王はまだ未熟と言っていたわけだが、日が浅い彼でも話を聞きつけ相応のものを託したはずだ。俺がよく知るあの魔王が、単純に能力が上がるという技法を託すわけがない。
その能力解明に時間を使うか、それとも技法を正面から突破するべきか……悩み始めた矢先、まるで見計らったかのようにエーメルが疾駆する。次は確実に来る――そう判断しながらも、俺は彼女の剣を受けた。
「さっさと使えということか?」
「別にそういうわけじゃないが……」
ギリギリと剣が噛み合う中で、俺は切り返すか押し込むか判断に迫られる――刹那、俺が決断するより先に、エーメルが握る大剣に変化が現われた。




