それぞれの種族
『理由は一応理解はできる。加え、なぜルオン殿に事情を話さないのか……こまごま説明されては、ルオン殿がデヴァルス殿の望んだとおりに戦ってくれないと判断したのだろう』
「正解だ」
「……理由に筋が通っているのなら、話してもらってもきちんと理解はするけど」
「今回の場合、理由を説明するとルオンさんの動きがおかしなことになる可能性があるからな」
ますますわからないのだが、ガルクは『そうだな』と納得している様子。
こちらとしては何が何だかわからないので理不尽な気もしてくるのだが、天界の長と神霊が「正しい」と言っているため、なんだかこちらも気圧されてしまう……のだが、このままだと俺が矢面に立たされることに。
「他に方法はないのか?」
そう問い掛けるのだが……ここでデヴァルスは突如ガルクに話を振った。
「ちなみにだがガルクさん、この戦いで何かやりたいことはあるか? それぞれの種族が思い思いに何かをやる良い機会だと思うんだが」
『ふむ……実を言うとルオン殿に負けて以降、我も色々と魔法を開発しているのだが』
「おいっ!?」
思わず俺は声を上げた。
「開発!? って、ちょっと待て! その言い方だと俺が実験体になるみたいじゃないか!?」
「みたい、ではなく確実に実験体だな」
デヴァルスの冷静なコメント。いやあの、
「さすがにそんな扱いされるのは……」
「ああ待て、悪い言い回しになってしまったが、利のある話じゃないか? 今、神霊達も強くなる必要性がある。そのために彼らも自己強化を行っているわけで、その力量を試すことは戦力把握の一員になるからな」
ものは言い様ではあるのだが……ただし、無下にはできない内容であるのは間違いない。
「……実験体、という表現で反論したけど、確かに開発自体は悪い事じゃない。でも、それを試すのが今というのは――」
「多種族がこれだけ集って何かを成す……今後、同じようなことがあるのかどうかわからない。組織は星神と対抗するためにこれからも続いていくはずだが、星神との決戦までにこうやって種族の長同士が集って何かをするというのは、何度あるかわからない。ならばこれを機会にやっておく……それ自体は悪い事じゃないし、むしろ必要だろ?」
……いやまあ、それはなんとなく理解できるけど、
「理屈を付けて丸め込むつもりじゃないだろうな?」
「説明もないから疑うのも無理はないが……少なくとも互いに全力を出して手の内を見せることで分析が進むのも事実だ。それに加え、ルオンさんに伝えていない重要な理由もある。ただ繰り返しになるが、その核心部分については知らない方が良いと思うぞ」
……はあ、なんというか天界の長であるが故に妙な説得力があるからタチが悪い。
「ルオン様と、それぞれの種族の代表者が戦う、ということでいいんですか?」
ソフィアが問う。それにデヴァルスは頷き、
「そうだな。で、そこで得られた情報を基にして、今度はルオンさんへ魔力をまとめるための魔法を作っていく……加え、ルオンさんへ魔力を託す者の選定も、だな。各代表者達が結集させた魔力を、ルオンさんに近しい者へ収束させ、束ねまとめる。それをルオンさんへ注ぐ……本当ならそれぞれの長が直接ルオンさんへ魔力を託せればいいわけだが、まったく異なる魔力を結びつけるのはさすがに十日では無理だ。真面目にやるなら十年単位の長い歳月が必要となるだろう。それを打開するため、少々強引ではあるがルオンさんに近しい存在というワンクッション置くことで対処する」
……中継地点を一つ置くわけだから、魔力だって多少無駄が出るだろう。しかしそれを差し引いても結集した力は、俺達が今まで編み出してきた技法や魔法の中で最も威力があることは理解できる。
「問題はそれを十日足らずで可能なのか……決して不可能ではないと思う。ただしそれにはルオンさんを含め、色々とやってもらわなければならないことが多い。今回打診した内容はその内の一つだ」
「……そう言われたら、選択肢は実質無いも同然だと思うんだが」
ため息混じりに告げると、デヴァルスはニコリとなった。
「やる、ってことでいいんだな?」
「楽しそうだな、そっちは」
「そうか? いや、実を言うとこちらも色々と試したいことがあって」
なんだか不安だな、と思いながらもひとまず方針が決まった……が、星神と直に戦うくらい、気合いを入れないとまずそうな感じだな。
「それぞれの種族、誰が戦うのか決めてあるのか?」
「それはこれから確認を行うさ。ただ、魔王はこの話を振ったら今回は難しいとの返答が来たな。新しい魔王であり、まだまだ未熟な点も多い……とはいえ魔界側としては今回に際しできる限りのことをする……ということで、エーメルさんに何かを託したらしい」
「物騒な展開になる予感しかしないんだけど」
彼女に武器とか渡したら、無茶苦茶になるぞ。
「ま、そこは戦ってみてのお楽しみだな……竜族についてアナスタシア公爵が何かしら用意したらしいから、期待していてくれ」
別に期待とか、そういう意識で臨むつもりはないけど……。
「そういえば……星神の使徒はどうなっているんだ?」
「まだ海上で食い止めている。攻撃が予想以上に効果があるようで、上手く足を止めることができているらしい」
「それは朗報だな。でも星神の使徒の歩く速度によっては、予定が早まる可能性もあるよな?」
「無論だ。幻獣達はその辺りを警戒して立ち回っているらしいが……それに、予定よりも遅らせているからといって、こちらの技法完成を遅らせるつもりはないぞ」
「それはわかってる……それじゃあ、いつ戦闘をやる?」
「明日の昼過ぎ。訓練場に集まってもらえればいいさ」
「壊れたりしないかな……拡張された空間内でやるとはいえ、派手にやると城にも被害が出るんじゃないか?」
「責任をもって壊れないよう、こちらが処置をするさ」
自信を持ってデヴァルスは言う。自らが提案した事柄なので、問題ないようセッティングはする、ってことかな。
なんだか迷宮から帰ってきて早々に不穏な感じだけど……必要なことであるのなら、俺としてもやるしかないな。
それに、こちらにとっても訓練にはなるか……そんな風に思いつつ、俺とソフィアはデヴァルスとさらに打ち合わせを行った――




