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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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危険な戦術

 氷の魔法が全身を覆うよりも先に、俺は足下に魔法を炸裂させて氷そのものを破壊。脱出すると同時、立っていた場所に氷の大樹ができあがる。

 魔法の出力そのものは本物である俺と大差ないな。相当な技術力であり、心底面倒なものを生み出したと思う――


 偽物が剣を薙ぐ。俺はそれを防ぎながらも刀身に秘められた魔力を探る。

 俺の持つ剣を完全に模倣とまではいかないが、仲間達が食らえばひとたまりもない威力を持っているのは間違いない。そういえば俺自身、この剣を食らったらどうなるかは検証とかしていなかったな……まあ自分自身と比喩ではなく戦うなんて展開、ないと思っていたから当然なんだが。


 できることなら剣は全て弾くべきだな。魔法攻撃についてはまあ防御はできると思うのだが……問題は俺自身が防御ができるということは、俺の力を再現した偽物も攻撃を防げるということに他ならない。


「ただ、こっちにはアドバンテージもある」


 それはレスベイルの存在。どうやら偽物は鎧天使まで真似ることはできなかったので、この力を利用すれば偽物を倒せるだけの力を生み出せるはずだ。

 現在レスベイルは防御に徹しているが、その力の一部分をこちらへ向けることは可能。頭の中で指示を送った瞬間、レスベイルから魔力が流れ込んできた。


 直後、俺は剣を一閃。なおも執拗に攻め立ててくる偽物と剣を合わせ――押し返した。

 いける、と判断した矢先、偽物からさらなる魔力が。純粋な魔力勝負ではレスベイルがいる俺には勝てないはずなのだが、どうする気か。


 そう思った矢先、凄まじい気配が広間を満たす。それですぐに俺は察した。これは――


「なるほど、これは厄介だな……!」


 声を漏らしながら剣を引き、一度後退を選択。途端、偽物は魔力の噴出を中断した。


「ルオン! 今のは!?」


 そして後方から声。リーゼのようだ。


「……魔力量だけを考えれば、レスベイルをコピーできていない偽物の方が絶対的に少ない。だが、こいつは俺にはない切り札がある」

「切り札……!?」

「ああ。命を省みないという切り札が」


 人というのは、体内に存在する魔力全てを使い切る、ということはできない。例えば切り札の魔法を使って「もう明かりも生み出せない」というすっからかんの状態に陥ったとする。だがそれでも体の中には魔力が一割二割は残っている。


 この世界の人――いや、この世界に存在する動植物には全て魔力が宿っている。それを利用し魔法として使うのが人間であり天使や魔族であったりするわけだが、魔力が完全に枯渇した場合は下手すると死んでしまう危険性がある。より具体的に言えば魔力をゼロにすることによって体がきちんと働かなくなり、外部から魔力供給がないと心肺停止といった状態に陥るのだ。


 つまり肉体を支えるには魔力も必要だということ……精霊などは最たるものだ。彼らは魔力の塊なので、体にある魔力を全部使ったら文字通り消滅してしまう。物語だと精霊などが命と引き替えに魔法を、などという場面が存在するのだが、そういった事例が現実にもあり得るということだ。


 これは人間にも同じことが言える。普通魔力を使うにしても体が本能的にストップをかけて全部使わないようにしている。だがそれを意図的に魔法か何かで排除して、魔法を使うことはできる。これなら普段よりも強力な魔法を行使できるわけだが、それと引き換えに肉体に相当なダメージが跳ね返ってくる。そのダメージによっては死亡するというわけだ。


 だから前世の世界における物語で「生命エネルギーを力に変える」とかいう大技を、この世界では実現できるわけだ……もっとも俺としてはやろうと思わないし、これまで必要性もなかった上にそんなことをして死んでしまっては意味がない。


 ただし、目の前の偽物はそういうわけじゃない……先ほどレスベイルの魔力を受け強化した俺に対し、偽物は俺が持っている魔力を全開放して応じようとした。つまり本来はストップが掛かるはずの一割二割……その魔力も攻撃に回すというわけだ。

 それを局所的に、火山が噴火するような一瞬の爆発的な攻撃力に変換することによって、こちらの全力とも互角に渡り合える……偽物でなければ到底実現不可能な、無茶苦茶な戦法である。


「となると、持久戦に持ち込んだ方がいいか……?」


 魔力量はいくらなんでも限界がある。俺自身なのだからレスベイルの魔力をもらいつつ相手の攻撃を受け続ければ、いずれ向こうは魔力切れを起こして倒せるだろう。確実性を求めるならば、それがベストだ。

 ただ――なんとなくだけど、そういうやり方は違うような気もする。魔降の言葉。世界を救うだけの力を得る以上、目の前の偽物にも真正面から応じてこそ、資格があるのではないか。


「……映像しか見ていない存在に気を当てられる、というのも変な感じだが――」

『ルオン殿の思うようにすればいいだろう。誰も止めはしないさ』


 ガルクの声が聞こえた。俺の考えをしかと読んでいるらしい。


『魔降という存在にどうやら悪意がないのは確かなようだ……この試練にどれほどの意味があるのかは我にもわからん。だが、どうやら真っ直ぐに当たってこそ、武具を得る資格を得ることに繋がる、ということかもしれん』

「そうだな……でも目の前の敵を真っ向から打ち砕くのは、骨が折れそうだ」


 何せ相手は自分……向こうがコピーできなかったものも確かに存在するが、逆に俺には成し得ないようなやり方を躊躇なく実行する。現状は互角と見積もっても構わないだろう。


「どういったところで上回るのか……こんな場所まで来て、頭を必死に働かせることになるとは」


 まさしく極限状態だが、個人的には悪くない気もしてくる。決して苦痛な戦いではない。むしろ悪意がなく製作者の意図がわかる分だけ、こちらとしては気が楽な感覚も抱く。

 偽物はこちらの出方を窺う気なのか、少しばかり動きを止めた。どうやら考える時間についてはあるようだ。なら――


 呼吸を整える……自分との戦い。どういった推移をたどっていくのか正直予想もつかないが……若干高揚感みたいなものも抱き始めた。それを抑えるように俺は剣を強く握り締め、どうするかを決断する。


「いくぞ、魔降」


 偽物を作った魔降へ向けて告げる。それと同時、コピーの背後に魔降の映像が浮かび上がったような錯覚を抱きつつ――俺は、床を蹴り自分自身へと肉薄した。


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