孤高の戦士
『三強』の一人であるクウザは『放浪の魔法使い』という異名を所持し、ゲーム中様々な場所で遭遇する。そのため仲間にすることができる場所がシナリオの進み具合で変化してしまう。ランダムではなく一定の法則があって場所が変わるのだが、その法則がわからないとどこに行けば会えるのかわからず、仲間にするのが面倒というキャラである。
彼が『三強』である理由は、とある特殊能力が関係している。それについては現実となった今も残っているだろうと俺は思っているので、シルヴィと異なり確実に『三強』という称号にふさわしい力を持っていると考えているのだが――
「知り合いなのかい?」
シルヴィが問う。対する俺は小さく首を振り、
「いや、知らない人物だった」
返答しつつ、クウザのことを考える……おそらく彼自身、色々とイベントに関与しているのだろう。放浪しているためゲームに存在していたイベントに足を突っ込む可能性が高く、その一つがシルヴィのイベントだったのかもしれない。
「わかった……えっと、他に魔族や悪魔に関する質問はある?」
「いや、いいよ……もう一つ質問をしても?」
「いいよ」
「単に戦士としてこの場所にいるより、魔族や悪魔と戦った方が強くなれると思うかい?」
――シルヴィ自身、ある戦士を追って強くなるべくここで修行している。その戦士は彼女の村を焼いた張本人……シルヴィも中々ハードな過去を持った人物だ。
サブイベントでその戦士と遭遇し一騎打ちを行う場合もある。その結果彼女は固有技を覚えるのだが……その技の有用性は低いので、イベントをこなさない人も多い。
そして目の前のシルヴィは、俺の言葉を聞いて考えている様子――彼女にとっては、魔族や悪魔との戦いも目的に至るための道ということか。俺と剣を合わせたことで、どうするか思考し始めたようだが……俺をモデルケースにするのは問題あると思うんだが。
「……色々と話、ありがとう」
やがてシルヴィが言う。それと共に彼女は銀貨を数枚代金としてテーブルの上に置き、立ち上がる。
「それでは、失礼させてもらうよ」
――見送れば、このままシルヴィを仲間にするような機会が無くなりそうな雰囲気だ。彼女に関する仲間イベントも終わり、それを主導したクウザも仲間にしなかった……魔族や魔物という存在に関心がある様子だが、ここで別れたら誰かと共に戦うことがない可能性もある。
どうする――俺は歩き去ろうとする姿を見て考える。レベル的には中級技を習得している以上、十分なはず。現実となった状況で彼女の能力はやや不利だが……それを抜きにしても、ステータス的には見劣りしないのは間違いないだろう。先ほどの賭け試合。そこで戦士を圧倒する姿を思い返せば……考える間にシルヴィが歩む。
一歩一歩彼女が店を出ようと歩いていく。どうする――必死に考え、俺は――
「……ちょっと待った!」
声を上げる。彼女が店から出ようとしたところだった。
その寸前で呼び止める結果となる。俺は立ち上がり、彼女へと近寄る。
「もし、なんだけど」
「君達の仲間に入らないか、ということかい?」
「単刀直入に言うとそうなる……ただ、これは俺の一存では決められない面もある。俺の従者と引き合わせて、だな」
「……ふむ」
口元に手を当て考え始める彼女。俺は内心少なからずドキドキしつつ……言葉を待つ。
「君達の目的は、魔族の打倒だな?」
「そうだ」
「ボク自身、そうしたことに興味があるかと言われると微妙なところだ。けれど、大陸の戦いのために何かしらやらなければならないと思っていたのは事実だ」
……あれ、これって仲間になる時の口上そのものじゃないか。イベント通りに進行しなくても、同じセリフを言う場合だってあるということなのか。
「まだ確定したわけではないようだが……その従者と会ってみて、話をしたい」
「いいぞ」
俺は頷き、シルヴィと共に店を出る。
衝動的に決意してしまったが……何かの縁で偶然遭遇し、剣を合わせた。流れ的にも彼女を仲間に加えることが自然……能力も十分。こうした結果となったことを良しと思おう。
俺はソフィアと引き合わせるためにイーレイの訓練場へと戻る。すると、シルヴィが声を発した。
「この訓練場か」
「知っているのか?」
「利用した事がある」
へえ、そうなんだと心の中で呟きつつ中に入る。受付を通りソフィアの訓練していた場所を見ると、まだやっていた。
「早いな」
イーレイが言う。そして俺の同行者を見て声を上げた。
「珍しい顔だな。どうした?」
「どうも、今回は彼に誘われて」
「孤高の戦士がとうとう戦うのか」
「言い過ぎですよ……ルオン、彼女かい?」
「そうだ」
ソフィアを指差すシルヴィに俺は頷く。すると彼女はじっとソフィアのことを観察する。
「ふむ……剣術と魔法を組み合わせた剣技か。魔導技が主体か?」
「……そういうわけじゃないが、確かに魔導技の使用頻度はそれなりにある」
「そして、精霊とも契約している」
……結構察しがいい。まあ戦士として鍛錬を重ねてきた彼女からすれば、精霊契約者を見破るくらいのことはできるのかもしれない。
そしてシルヴィはソフィアをなおも観察しつつ、呟くように声を発する。
「いいと思う……剣筋は、騎士特有のものだな」
「イーレイさんにも指摘されたな、それ」
「こいつは鋭いからな」
イーレイは語り……ソフィアを呼んだ。
すぐさま訓練を中断し近づくソフィア。外套を脱ぎ軽装となった彼女は首筋から汗が浮き出ており、必死に訓練しているのがわかる。
「どうしましたか……と、この方は――」
言って、ソフィアはシルヴィのことをじっと見返す。
「えっと、私はソフィア=ラトルと申します」
「……シルト=エクアスだ」
シルヴィは無論、偽名で自己紹介。その後俺はシルヴィのことを手で示しつつ、ソフィアに言う。
「仲間になってもらえないか勧誘して……ソフィアの意見を訊きたくて戻ってきた」
「この方を、ですか……事情は、如何ほどまで?」
「魔族と戦うことを目的としているということまで」
「様子から、何やら複雑な事情を抱えていると察する」
シルヴィは、俺とソフィアを交互に見ながら言う。
「とはいえ、詮索はしない。魔族とつながっているなんて話となればお断りだが、精霊契約者である以上そんなこともないだろうし。そちらが望むまで事情については伏せてもらっていても構わない」
「やけに物わかりがいいな」
俺が言及すると、シルヴィはどこか陰を持たせた笑みを浮かべる。
「ボク自身もまた、目的があるからね」
――復讐相手のことだろう。しかし改めて思うのだが、ソフィアもシルヴィも色々と秘密を抱えているような状況。不安材料はその辺りか。
特に俺はシルヴィが女性であることを知っている。何かの拍子にその辺りのことを言及してしまうと、混乱する可能性がある……仲間になると確定した段階で、これについては近いうちに言及しておくべきか。
それと、彼女の復讐相手についての言及も気を付けないと……思いつつ、俺は言う。
「で、ソフィア……俺としてもこの人を単純に加えるだけ、とは思っていない。実力を見たうえで連れてきたけど、今一度確認する。シルト、いいか?」
「構わない」
「なら、その辺りは私に任せろ」
イーレイが言う。なんだか目を輝かせているのだが――
「久しぶりにシルトの実力を見たくなった」
「……単純な技量では、まだあなたの方が上だと思いますけど」
「やってみなければわからない。私が直々に見てやろうじゃないか」
嬉々としてイーレイは語り――改めて、訓練が始まった。




