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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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使命感

 三人となった形ではあったが、俺達は比較的簡単に魔物の対処に成功、仕掛けを解除するために先へと進む。

 スイッチまでは簡単な迷路になっているのだが、ここに罠は設置されておらず、多少時間を要するくらいで問題はなさそうだった。


「――ねえ、こちらの会話は向こうに聞こえるの?」


 歩いていると、ふいにリーゼが俺へ話し掛けてきた。


「え? 会話?」

「ええ。使い魔がいるのよね?」

「会話を行うための使い魔は向こうに派遣したけど、俺が調整しないと会話はできないぞ」


 何か気になることが……と思っていたら、リーゼは「なら」と告げ、


「あっち側に会話が聞かれていないのなら、いいわ」

「……どうしたんだ?」

「秘密の相談……ってほどでもないけど、聞きたいことがあって」


 ――あ、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。


「つまるところ、ソフィアとの関係について」

「あ、私も興味あるわね」


 カティも同調する。なんというか……。


「いや、迷宮攻略中だし」

「この状況ならそれほど問題はないでしょう? 向こうの進捗状況だって確認しながらだし、このくらい雑談するのはいいでしょう」


 ……たぶん、ソフィアに訊いてもはぐらかされるだけなので、こっちに矛先を向けてきた感じなのだろう。

 ここでなんとなく、バレないように向こうとの会話をつなげてソフィアに叱ってもらおうかと考えたのだが、どうやらリーゼは察したらしく、


「とりあえず密かに向こう側と会話ができるようになって、ソフィアがこの一件に関して何か言及したら……わかってるわよね?」


 微笑みながら語るリーゼは無茶苦茶怖いんだけど……。


「……色気のある話は微塵も出てこないぞ?」

「別にそこは期待していないのだけど」


 期待していないのか……。


「組織で仕事してるルオンとソフィアを見れば、婚約者にはなったけどそれきり、っていうのは予想できるし」


 ――まあ、その指摘は正解である。


 そもそも魔界へ行く手前まではその辺りのことで色々やっていたのだが、気付いたら組織運営の方に重点が置かれてあやふやな状態になってしまっている。俺とソフィアの関係が切れたわけではないし、むしろ仕事をこなしている俺に対する評価は城内で上がっているような話も聞くし、周囲は祝福してくれてるみたいなのだが……、


「俺もソフィアも、星神との戦いに使命感を抱いているからな」

「使命感?」

「……ソフィアへ直接明言したわけじゃないけどさ、俺はこう考え始めたんだ……この世界に俺は転生した。それにおそらくだけど、星神が関係している。にわかには信じがたいけど……そうであれば、俺はこの世界でどういう使命を背負っているのか……」


 そう語った後、俺はリーゼとカティを一瞥。


「知識でこの世界がいずれ無茶苦茶になることを知っている。加え、その時期がそう遠くないものであることもなんとなく推察できる……で、あれば俺の使命は星神を打倒することじゃないか、ってさ」

「だから、使命感ね」

「そうだ……最初は魔王を倒すこと――いや、死なないために強くなっただけだった。けど、俺が転生したのはそこで終わりなんかじゃなかった。魔王との戦いは、ある意味で終わりであり、始まりでもあったんだ」


 これまで、世界を旅してきた。それは正直言って計画的なものではなく、完全に場当たり的な要素が強かったけど……結果、星神という世界に崩壊を撒き散らす存在に対し、様々な種族が一つになろうとしている。


「この世界に転生した理由についてはまだわからない……けど、もしかすると……俺のことを故意に転生させたのであれば、星神を倒して欲しかったのでは、と思ったんだ……さすがに考えすぎなのかもしれないけど」

「だから使命か……なら、ソフィアの方は?」

「ソフィアは俺がいなければどうなっていたか事の一切を知っている。自分は魔王との戦いで死んでしまうはずだった。けれど知識を持った俺によって生き延びることができた……だからこそ、俺と共に戦うのが当然だと」

「ソフィアらしいわね」

「ああ、確かに。でも、今はそういう心情からは脱していると思う……彼女はきっと、俺と同じようにこの世界を救うべく、戦っている。俺の従者ではなく、俺の背中を守る魔法剣士として」


 そこに王女とか、あるいは冒険者とかそういう身分はまったく存在していない。人の理を排した関係……それが今の俺とソフィアではないだろうか。


「ただ、なんというか……周りからしたらそれでいいのか、って思うかもしれないけど」

「ソフィアは満足なんだと思うわよ。世界を救う……あの子は世界の危機的状況を知れば、自分のできることをやろうとするだろうし。だからルオンと共に戦っている……でも、他にも理由はあるでしょう」

「それは?」

「ルオンと共に一緒にいれるから。あなたと共に戦えるから、彼女は真っ直ぐ星神との戦いへ向かっている」


 俺と、か……と、ここで沈黙していたカティが苦笑する。


「本当、色気のない話」

「ええ、まったくよ」

「最初に言ったじゃないか……色気のない話だって」


 期待するだけ損だ――と言おうとした矢先、リーゼは俺へ人差し指を突きつけ、


「そこで、提案があるの」

「提案?」

「ソフィアは現状に満足していると思うわ。想い人の隣で戦える……なんというか、ちょっと変わった関係ではあるけど、喜んでいるのならそれでいい。でもね、やっぱりというか、女性としてルオンと共にいたいという気持ちもあるはずよ」

「そうかもしれないけど……」

「でも、ルオンは修行ばっかりで女性とお付き合いしてどうするかなんてよくわからない」

「悪かったな」


 そもそも相手は王女様である。もっとよくわからない。

 一緒に旅とかしていて価値観などは少しくらいはわかっているけど、俺自身は庶民的な性格が強いし隔たりがあるのは間違いない。


「なら、私が色々とエスコートしてあげようかと思って」

「……申し出はありがたいような気もするけど、何を考えている?」

「あら、裏があると思ってるの?」

「ソフィアじゃなくて俺に提案しているところを見ると、何か思惑があるんじゃないか?」


 そんな推論を述べたところ、リーゼは首を左右に振り、


「ないない。ちなみにカティも参加する?」

「いいわね」


 余計怪しくなった。


「ね、別に二人の関係を乱そうってわけじゃないから」


 リーゼはにこやかに語る……何か考えているのは明白だけど、少なくともソフィアを喜ばせようとしているのは確かだろう。ま、彼女が喜ぶのならば、俺としても別にいいか。


「……ああ、わかったよ」

「よし、ならこの戦いが終わったらね」


 終わったら、何をするんだろう……気になったけど、リーゼはそれ以上語ることはなかった。


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