新たな仕掛け
――そこから、迷宮攻略は淡々と続いた。次の階層については俺の記憶で対応できるものであったため、難なく鍵を開き、三層目と同じように魔物と交戦。これまで見ていなかった魔物だったのだが、数が少なくこちらは俺の知識により無傷で突破した。
その下の階層についてはまたも嫌がらせのような罠ばかり……しかしこの時点で仲間達も適応し始めた。というか魔物の数は少ないので、しっかり気配を探り罠を解除すればいいので安全ではある。
もっとも、最速攻略を目論んでいる俺達からすれば面倒この上ないが……ただまあ魔物によって妨害されているわけでもないし、言うほど時間が掛かっているわけでもない。問題はなさそうだ。
事前情報がなければ十中八九しんどいだろうな、とは思う。俺の知識があるし、仕掛けにも対応できているから順調に進んでいるのであって、情報が皆無だったら罠によって仲間達が最悪バラバラになっていたかもしれない。ただ今からでも想定とは異なる敵が出現してもおかしくはない。俺は気を引き締め直す。
そこからさらに下の階層へと突き進むわけだが……罠ばかりの階層で魔物を一通り倒した結果、休めるような状態になった。よって、小休止ということで階段を下りる前に一度休憩することに。
「少しずつ、疲労が蓄積しているのがわかるわね」
魔力を回復する薬を飲みながら、カティは呟いた。
「ほんのちょっとずつだし、今は薬もあるからどうにかできるけど……これが延々と続けばどこかで集中の糸が途切れる。その時、この迷宮の罠は牙をむくのでしょうね」
「ああ、間違いない」
こちらは同意しながら周囲に目を配る。俺については体力、魔力双方問題はない。強力な魔物相手に昼夜問わず戦い続けたこともあるくらいだからな。現状で一番疲労が少ないのは俺で間違いない。
ソフィアやリーゼ、オルディアについても戦闘時の動きは一切変わっていないので戦いに支障が出ることは、今のところない。ただしこれはあくまで『今』の話。以降、少しずつ溜まっていた疲労がどこかで表に出てくれば、思わぬ形で足下をすくわれることになる。
なおかつ魔物も確実に強くなっている。これを踏まえれば、俺達が疲れたところを狙ってくるような罠が仕込まれていてもおかしくない。というかたぶん、意地悪な性格が出ている迷宮では、絶対にやってくる。
「……なんというか、不思議な迷宮だな」
そう呟いたのはクウザ。彼もまた薬を飲みながら迷宮を見回している。
「絶対に最下層へ来させない……そんな固い意志を持っているようにも感じられるけど、ルオンさんのように知識さえあれば攻略は可能だ。これは侵入者よけというより、侵入者を試しているようにも思える」
うん、俺もそう思った。よってこっちは「そうだな」と返事をした。
「魔降が残した武具……それを授けるに足る人物を探している、ってことなのかもしれない」
「それほどまでに強力な物、ってことでいいんだよな?」
「問題は俺達の活用の仕方だ。さすがに魔降だって星神の使徒……あれほど巨大な相手に使うなんて想定していないだろ」
果たしてここまで頑張った結果、俺達にとって価値のある物が手に入るのか……まあ無駄足になることを前提として入り込んでいるわけだし、ここについては今更か。
「使徒は……幻獣達は頑張っているのかな」
今頃必死に食い止めているだろう……俺達がこうして迷宮に潜っている間にも使徒の進行は続いているからな。
「良い結果になることを祈りましょう」
ソフィアが述べる。うん、そうだな。
「よし、そろそろ休憩もいいか……しんどい罠ばっかりだし、時間は掛かっているが諸々想定内の範囲だ。けど、迷宮に潜って結構時間も経っている。薬なんかで徹夜だろうが無理に体を動かすことはできるけど、そういう無茶をしていると当然どこかで問題も生じてくる……何かあったらすぐに言うこと」
念押ししておいてから、俺達は階段を下っていく。次の仕掛けは何なのか――
今度は真正面に扉が現われた。三層目のようなギミックのある階層だ。
加えて左右に通路があり、なおかつ壁面に何やら紋様が刻まれている。それらには特段意味はないようにも思えるが、これはゲームにもあったものだ。
「……二手に分かれるやつだな」
「ルオン様が話し合いの時に言っていたものですね。どうしますか?」
「ひとまず二手に分かれるだけで済みそうだから、チーム分けをしよう。先へ進む間に魔物との戦闘もあるから、戦力についても均等にしておきたいな」
――結果、俺とリーゼとカティ。そしてソフィアと残りの仲間という編成になった。俺の方はレスベイルもいるし、戦力がソフィア側に偏っていても問題はない。
「通話できる使い魔をそちらに用意するから、俺が適宜指示しながら動くことにする。何か質問はあるか?」
「仕掛けそのものについては事前に伺っていますが、同時に通路奥に存在するスイッチを触ればいいんですよね?」
「ああ。より正確に言えば同時というよりは、一定時間以内に、という感じかな」
ゲームだと一定の行動以内に仕掛けに触れなければリセットされるという仕組みだった。これにより単独で攻略するのは不可能となっている。
「早速向かうぞ。魔物の種類に変化があった場合はすぐに伝えてくれ」
「はい、ルオン様、お気を付けて」
「ソフィアも」
互いに言葉を交わして二手に分かれる。俺が左手ソフィアが右。ギミックそのものは左右で大差がないはずだが、もし何かあれば逐一動くことにしようか。
使い魔の視点でソフィア達が進んでいく光景が見える。うん、ひとまず使い魔の遠隔操作についても問題はないな。
「――お出ましね」
その時、リーゼから声が。真正面に魔物が出現、直近の階層で出現した魔物だった。
ここへ来るまでで既に動きの最適化は済ませているので三人であっても対処は容易。俺はカティに罠がないかを確認するよう通達しながら、魔物へ向け剣を構え――交戦を、開始した。




