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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語
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彼からの誘い

 精神的ダメージが回復するまでに、丸一日を要した。


 どんだけメンタル弱いんだよというツッコミはあるだろう。けれど、一日経つとさらに傷が深くなり、俺は村の宿のベッドの上でのたうち回る羽目になった。そしてどうにか回復したのが翌日……今後の予定を思い出し、支度を整えた。


 確か物語では、フィリ達が赴く遺跡は半日くらい掛かるはずだった。実際俺が赴いた距離を考えればそのくらいで、遺跡探索に半日と、帰りを含めれば……探索が早ければもしかすると今村に帰ろうとするくらいの状況かもしれない。

 まあさすがに仲間もいるし死ぬことはないだろうと思いつつ……俺は様子を確認するべく外へと出た。


 そして酒場へと辿り着く。俺が座っていた席は空いており、そこに着席すると店員が注文を取りに来た。水と軽食を注文して酒場を見回す。

 メンバーは多少変わっているが、酒場の雰囲気は相変わらずだった。俺は以前の出来事を必死に思い出さないよう努めつつ、店員が運んできたサンドイッチを頬張る。


 うん、当たり前だが俺をネタキャラとするような人物は現れていない様子……ここでふと思ったんだが、酒場は主人公達が訪れる度にメンバーは大体一定だった。ゲームの演出上当然と言えるのだが、その辺りも再現されるのだろうか?

 観察していると、多少なりとも人の出入りはある。けどさすがにモブキャラを明確に憶えているわけでもなく、ゲームそのものではないだろうし再現は難しいか、などと思っていると――


 酒場の扉が開き、フィリ達が現れる。思いの外早かったなどと思いつつ一行の様子を観察していると、彼らは酒場の人間に一瞥もくれず店主のいる奥のカウンターへと向かった。

 そうしていくつか話をする。周囲に雑音がある中で俺は意識を集中させ彼らの様子を窺うと……やがて、店主の驚きの声が聞こえた。


 どうやら遺跡でアイテムを手に入れてきたようだ……彼が五大魔族を倒すのかは不明だが、ひとまずゲームのシナリオ通りに進んでいるということだけは認識できる。


 やがて、フィリを除くメンバーは一度酒場を出た。フィリのシナリオ序盤は、基本冒険者同士ということでパーティーを毎回変えられる。同じメンバーで行くのか、それとも別の人物と組むのか……俺がその中に加わる可能性もある。


 精神的ダメージがまだ癒えていない中ではあるが、心構えだけはしておく。選ばれた中でルオンは冒険者としてのレベルもそれなりといったところで、初心者救済的な面もあった。基本村襲撃と共に死ぬので二周目以降は彼を仲間にするようなこともないのだが……いや、彼を強くするなどという酔狂なプレイヤーもいた気がするけど、それはまた別の話だ。


 フィリは酒場の面々を見回しつつ……俺はなんだか怖くなって彼から視線を逸らした。緊張とは違う、以前まったく成立していなかった会話を思い出し、話し掛けてくんなとすら思ってしまった。

 視界の端でフィリが別の人間を勧誘しているのを目にする。酒場には珍しい黒いローブに赤い髪の女性魔法使い……ふむ、確か名前は――


 思案していると、ふいにフィリと目があった。俺はポーカーフェイスを努めつつ……できているかどうか自分でも怪しいと思ったけど、視線を逸らし水を飲んだ。

 雑音の多い中で足音が近づいてくる。え、ちょっと待て。先日あれだけネタまみれだったのに俺の所に来るの?


「すいません」


 そしてフィリは……俺に声を掛けた。マジか。マジなのか。


「……あ、ああ」


 どうにか平常通りの声を出し俺は首を向ける。


「どうした?」

「名は、フィリといいます……ルオンさん、ですよね? 依頼を請け洞窟へ向かうところなのですが、探索を共にしては頂けないでしょうか?」


 まさかの依頼だよ……俺は必死に顔を普段通りにしつつ、言及する。


「一ついいか? なぜ俺に?」

「あなたが色々と周辺の魔物を倒している姿を見た方がいらっしゃいまして。もしかすると知識が豊富なのではと」


 ……確かに色々と各ダンジョンの下見のために俺は魔物を倒しつつ歩いて回っていた。そうした姿を誰かに見られていたということか。

 現状フィリが声を掛ける以上、まだネタキャラ扱いはされていないと思う……俺の本来どういった人間なのかをしっかりフィリに認知させておき、もし何かあったら干渉できるような態勢を整えておくのがベストだろう。


「……わかった」


 頷く俺。フィリはそれに「お願いします」と応じ、


「では、他の仲間も集めますので……外で、少しばかり待っていてもらえないでしょうか?」

「ああ」


 承諾し、俺は席を立ち外に出る。そこには先ほどフィリと別れたはずの女性戦士が一人。

 革鎧に、金髪碧眼……絵に描いたような美人だが、腕を組んだその姿は中々様になっており、目を合わせると少しドギマギする。


「どうしたの?」


 訝しげな視線の彼女。俺は「すまない」と答え、扉を挟んで反対側に立つ。


「いや、ここで待つように言われたんで。もしや同じような人なのかと」

「ああ、フィリに誘われたのか」


 納得する彼女……そこで俺は名前を引っ張り出す。


 えっと、確かコーリ=ナウセンという名前だ。それなりにステータスもあり、女性キャラだというのに力の成長率が全キャラ中トップ5に入るくらいの豪傑。欠点は魔法防御の低さ。一応最後まで使い続けられるだけの要素は兼ね備えているが、魔法防御の低さを補わなければ苦しい。

 まあゲーム上は結構補強アイテムなんかが手に入ったので、どのキャラも愛があれば強くなるのだが……考えているとフィリが出てきた。赤い髪の女性を引きつれて。


 その女性もまた美人……名はカティ=イーテット。攻守バランスのとれた魔法使いで、支援魔法や回復魔法もきっちり使用できる有能キャラ。

 とはいえ後半はややパラメーター的に見劣りするため、器用貧乏となりがち……まあ、彼女も十分最後まで戦える能力を有してはいる。


「さて、今回はこのメンバーで行くよ」


 フィリが言う。このメンバーでパーティーを組むのは初めてだというのに、なんだか空気は和やかで、共に何度か戦ったことすらあるような気がする。

 これはきっと、フィリの雰囲気もあるのだろう。さすが主人公とでもいえばいいのだろうか……よく考えれば誰もがすんなりパーティーに加わるということは、フィリには人を惹きつける何かがあるのだろう。じゃなければこうしてメンバーを組み替えてあっさりと再編成できるわけがない。


 それから俺達は簡単な自己紹介を済ませる。とりあえずそこは噛まずにできた……かなり緊張していたけど、どうにか表情にも出なかった。


「では、明日の日の出前にこの場所で頼むよ。俺は、必要な道具を買い揃える」


 フィリが告げると女性二人は頷き、俺も遅れて首肯。そうしていったんパーティーは解散となった。


 というわけで、明日は主人公フィリと共に行動することになった……彼の戦いの様子を観察するにも良い機会だし、色々と見させてもらうことにしよう。ちなみに彼らと話す時、ネタキャラにならないよう努力しなければならないのは……深く考えないことにした。



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