選抜
資料集めなどに奔走していた面々を一度組織メンバーがいる建物に集め、俺はRTAについて語る。すると、
「総合力か……単純に腕っ節が強ければいいというわけではないところが、面倒ね」
そんな感想がカティからもたらされた。
「ルオンとしては候補など頭に浮かんでいるの?」
「いや、まったく。実のところ組織メンバーの能力についてはわかっているけど、それはあくまで戦闘面だけ。パズルが得意だとか、あるいは罠を感知する能力に長けているとか……そういう技法については考慮の外だったからな。で、その辺り得意な人はいるか?」
と、尋ねてはみたものの自己申告するのは気が引けるかな……と思っていたところ、手を上げる人がいた。リーゼだ。
「一応、パズルなら得意だけど……でも、ルオンの言う迷宮のパズルと私の言うパズルは違うんじゃないかしら?」
「頭を悩ませるのは一緒だし、その辺りはいけると思うよ。なら、リーゼは採用かな」
「いいの? そんなに単純で」
「正直、判断する時間が惜しいというのもあるし……ま、人数がいればたぶん大丈夫だから、得意そうな人を見繕うだけでなんとかなるさ」
「魔力の検証などはどうする?」
と、オルディアが問い掛ける。
「俺については今回星神の使徒に対し行う作戦に組み込まれているが……その際に魔力の検証をすべきだろう?」
「そこについてはデヴァルスさん達が集まってからでも遅くはないさ。というか、オルディアと俺の相性だけで片付く話じゃないからな」
全員集まった後じゃないと検証は難しいだろうし……。
「腕っ節的な意味合いでオルディアも採用しようか。他には……そうだな、強行軍で動けるだけの余裕がないといけないんだよな」
例えばロミルダなんかは……体力を回復できるような薬を用意するにしても、常に迷宮内で集中力を維持しながら動くというのはかなり大変だろう。ということは採用すべきじゃないな。
「この組織へ入る前、迷宮など魔物の巣へ入っているような人間……つまり経験豊富な人材が望ましい。ソフィアはたぶんついてくるだろうからエイナも確定だし、他にはアルトとかフィリとかが該当するか?」
「けど、支援役は必要だろ? ルオンさんの人選だと前衛ばっかりになるぞ」
アルトから指摘。む、言われてみればそうだな……。
「それに罠を感知する能力って、魔法使いの方が適任じゃないか?」
「それならクウザかな。無詠唱魔法で臨機応変に対応できるし。どうだ?」
「どこまでできるかわからないけど、頑張らせてもらうよ。罠については……魔力で構成されているものなら、やりようはあるかな」
これで六人か……。
「ふむ、二人一組になって行動できる感じだけど、もし良ければ四手くらいに分かれることができる編成にしておきたいな。そこまでやる必要性は薄いかもしれないけど」
迷宮が大規模化しているなら、二手どころかその倍の数でギミックを解かなければいけないとかあり得るし。
「なら、そうだな……カティ、いけるか?」
「私?」
「俺とソフィアにエイナ、リーゼとオルディアにクウザ……四つに分かれるなら俺が単独で動き、ソフィアとエイナがペアなのは確定。よって残る四人で前衛後衛で戦うことになるわけだけど……リーゼとオルディアが前衛だし、なら後衛がもう一人欲しい。それにほら、カティは研究分野にも関わっているから、罠を感知するとか、いけないか?」
「うーん、微妙だけれど魔力の解析とかが必要なら役には立てるかしら。でも戦力としては大丈夫かしら?」
「戦いぶりを見ている限りは問題ないと思うよ。今回の迷宮……敵は確かに強いけど、油断しなければいけると思う」
敵の能力とかを考慮すれば、現状の組織メンバーならいける……と思うが、念のため武具などで補強する準備をしておくか。
「俺とソフィア以外は装備を洗い直して強化できそうなものは強化しておこう。他には迷宮外で待っている人員が欲しいが……これもある程度バランスが整った編成が望ましいな」
――結果として、アルトとキャルンにイグノスという三人組と、フィリ、コーリ、ラディというメンバーに落ち着いた。人選については俺の独断だけど、結果的にゲームの主人公勢が出張ることになったな。
ちなみにエーメルについては……護衛として申し分ないけど、迷宮内に入るには好戦的すぎるし、外で待つ役とかさすがに性格的に辛いだろうなあという配慮である。まあ魔界側からこちらに連絡が来ないとも限らないし、もしそういう事態となったら魔族であるエーメルが折衝するのが望ましいという考えもある……のだが、
「エーメル、頼むからもめ事は起こすなよ」
「話をする場合は、だな。わかってる」
「本当にわかっているか?」
「ああ、本当にわかっている」
不安だけど……相手が巨大である点からすれば、彼女もおとなしく従ってくれるか。
他にもユスカとかもアナスタシア辺りが連絡を寄越してくる可能性もゼロじゃないから、待機だ。それに彼らが持つ『創奥義』は派手だし、迷宮など狭い場所で使うには向いていないからな。
「よし、メンバー選定はこれで終了……とはいえ時間もあまりない。全員、装備を確認して最善の物に変えてくれ。ソフィアは薬の手配などを行っているけど……一時間で一度ここに集まろう」
その言葉で全員が部屋を後にする。さて、忙しくなる……というか、ここからはひたすらノンストップで動き続ける必要があるか。
俺は歩きながら他に何が必要なのかを考える。今ここで必死に考えても現地についたら足りないものが出てくるんだろうなあとか思ってしまうけど……とにかくできる限りの準備をしよう。
他に必要なものとしては……頭を悩ませる間に、俺は一つ報告を聞いた。
『ルオン殿、魔界側はやはりどれだけ急いでも二日後だな』
「わかった……あ、俺達がいないことについて伝言をエーメル辺りに残しておく必要があるな」
しかし、こうなると時間は丸二日か……別に二日に固執する必要はないし、場合によっては少し日数を消費しても仕方がないかもしれないが、それでも使徒に対する作戦を検証する時間はしっかり確保したいので、横道に逸れる今回の一件についてはできる限り手早く終わらせたいものだ。
ただ、迷宮攻略とかは天使の遺跡探索を含めやってきたけど、時間に迫られてということは今までなかったので、そういう意味では初めての攻略……しかも強い敵が待っている迷宮だ。
俺の保有する知識が鍵を握りそうだな……よって俺は準備をソフィア達に任せ、できる限りゲームの情報を洗い出すことにした――




