迷宮の特性
「まずは迷宮へ赴き行って帰ってくるまでの荷物が必要だ」
俺はソフィアとガルクへそう告げる。場所は相変わらず図書館だが、カティ達は資料を探して回っている。
「そして移動手段は……ガルク、精霊の力はここから使えるのか?」
『いや、海を渡る手段だ』
「なら大陸の端まではリチャルの竜を使おう。また同行願うことにして、攻略後すぐに戻ってきてもらう手はずを整えてもらう。で、迷宮攻略に加えその島……該当する迷宮のある場所は無人島だから、念のためにリチャルの護衛についても必要だ」
「リチャルさんは魔力の検証もしなければいけませんよね……それは他の種族の方々が来るまで待機ということになるでしょうか」
「もし竜の使役する能力を俺に譲渡できるなら、それでもいい。まずはリチャルと相談だな。で、迷宮入口で待機する者と俺と共に迷宮に入る者……合わせて計十人程度か?」
『迷宮攻略にはどのくらいの人数が必要だ?』
ガルクの問い。俺は少しばかり考え、
「多くても六人か七人かな。さすがに一人や二人では攻略そのものはできたとしても時間が掛かるだろうし、かといって十人二十人とかだと迷宮内での移動がずいぶんと鈍るだろ。だから六人か七人……そのくらいがいいな」
「ルオン様単独では厳しいと?」
「攻略そのものは……そうだな、単独だと無理な場面があるかもしれない。敵が強いというよりは面倒なギミックがあって」
ゲーム三作目に登場した迷宮は数多くあったけど、単純にゴリ押しで攻略できるような物も結構ある。そういう場所なら限界までステータスを上げてしまえばボスも楽勝だったのだが、今回挑戦する迷宮は少しばかり厄介なのだ。
というのも、迷宮内にパズル的な要素が組み込まれている。例えば一層目をクリアした後、次は魔物の出現はなく何かしら謎解きをしなければ先へ進めない、という風なもの。俺の頭の中には一応どういうギミックがあるのかを含め一通りなんとなーく憶えてはいるのだが、現実とゲームで一緒とは思えない。今までの経験からしてゲームと比べ複雑化している可能性が高い。もしそうなら俺の記憶については当てにならないので、自力で解かなければいけなくなる。
しかもその中にはパーティーメンバーを分けて攻略しなければならない場所もあった。ゲームのギミックだと二手に分かれて仕掛けを解いていき、最後に到達したスイッチか何かを同時に押す。これで扉を開くという仕掛けだ。
この場合、俺とレスベイルならばいけるとは思うのだが……二手どころか三手とか必要になったらどうしようもない。なおかつ謎解きについては一人よりも二人、三人といた方が解決する可能性が高い。三人寄れば文殊の知恵というわけだ。
また、それ以外にもこの迷宮は総合力を問うものだったためか、非常に面倒なギミックも存在した。三作目には罠を感知するためには魔力や速さなどとは別にあるステータスが必要だったのだが、それに能力を割り振った場合、他の能力が落ちる。というのも割り振れるパラメーターの上限があったので、無双しにくくなる。よってゴリ押しが通用するケースの多かったゲームでこのパラメーターを軽視する人が多かった。
それまでの迷宮だと罠を踏んでも物理防御とかを上げていれば耐えられたとか、ゴリ押しで通じる場面が多かったのでその選択は正解だったが、この迷宮の面倒なところは罠を踏むと通路が延長するとか、最悪の場合下へと進む階段が移動するとか、嫌がらせ的な罠が多数ある。言わば進路妨害するタイプで、それまでゴリ押しで突き進んできたプレイヤーを恐怖のどん底に叩き落とす。
ちなみに俺もそれをやられた一人だ……このゲームをやっていた当時、脳筋スタイルが好きだったのでそういう結果となってしまったのだが……ちなみに対処方としては罠感知系のパラメーターが高いキャラクターを一から作成した。無茶苦茶時間が掛かりました。
と、その辺りの説明を行うと、ソフィアは「なるほど」と納得の声を上げた。
「単純に武力が必要なだけでなく、色々な技能が必要だと」
「そういうこと。非常に面倒な仕掛けがたくさんある迷宮だから、いかなる状況にも対応できるメンバーが必要だ」
「いかなる状況……とはいえ現在組織メンバー以外でここにやって来た方はいませんから、この城内にいる人員で対応するしかないですね」
「敵との戦いについては俺やソフィア、レスベイルがいればなんとかなると思う。だからサポートできる……それでいて自衛もできる戦力が望ましい」
「難しいですね……」
ハードルが高いのは仕方がない。けれど、そういう人員がいなければRTAは厳しい。
理想の攻略法としては罠を常に感知して未然に防ぎ突き進む……仕掛けについては俺の記憶などを頼りに糸口を見出して……という形になるだろうか。敵の強さについては確かに隠しダンジョンなので強いのだが、俺やソフィアならばおそらく大丈夫。ここにも多少懸念はあるのだが、俺やレスベイルもいるからまあどうにかなる範囲だとは思う。
「パズルとかそういうのが得意な人員……となると、誰が候補に挙がる?」
「エイナとかは不器用なので無理ですね……私はパズルくらいなら可もなく不可もなくですが、これから赴く迷宮の難易度がどれほどなのかわからないので、どうとも言えません」
「……一度メンバーを招集して話し合うか」
「そうですね」
「なら、迷宮入りする人はそこで決めることにしようか……」
「他に必要なものは?」
「とにかく移動途中に加え迷宮内をノンストップで攻略するために食料とか道具とかが欲しいな。少しばかり無茶をしなければいけないから、外にいる人員を含め……十人程度に必要な物資が行き渡る手配をしないと」
「そこは私がやりましょう。必要な道具についてはどのように選定しますか?」
「うーん、体力回復を行う薬とかは俺もそう詳しくないからなあ……ソフィア、どうだ?」
「私も決して知識豊富というわけではありませんが……なら城で詳しい人を探しましょうか」
段取りが決まっていく。まずはメンバー選定のための招集と、それと同時並行で迷宮へ踏み込むための準備だ。
ということで俺はまずカティに声を掛ける。組織メンバーを集める指示を行い、彼女は了承。ソフィアは図書館をいち早く出て物資調達の準備を開始。その一方で俺は、カティと協力してメンバーを集めるため動き始めることにした。




