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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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迷宮への誘い

 そこからカティが応援を呼んで資料探しを継続したのだが……確信的な情報を得るには至らない。魔降という存在自体が書物でも伝承扱いであり、悩みどころであった。


「存在していれば、すぐにでも行動するの?」


 書物を目の前で山積みにするカティが俺へ問い掛けてくる。ちなみに図書館には組織メンバーで暇していた面々のほぼ全員が集まっていた。


「すぐに、かどうかはわからないけど……というより、ここまで資料で情報が得られないなら、デヴァルスさんとかに尋ねてみて……確証がなかったら、やめておくべきか」

「他に思いあたることがなければ、当たってみるのもアリだと思うけれど」


 カティはそう進言してくるけど……うーん、微妙なところだ。

 俺としては資料で情報が得られたのなら、デヴァルスへ告げてそちらへ向かうという構図を思い浮かべていたのだが、ここまで情報がないと厳しいな。


「それに俺のはあくまで候補だからな……デヴァルスさん達が集うまでまだ日はある。ここで情報がなければ――」

「ゼナス諸島だし、ルオンさんだけなら一日で帰って来れそうだが」


 そんな発言がアルトからもたらされる。俺はそれに小さく息をついて、


「島へ赴くだけなら不可能じゃないけどな……しかしそこから迷宮攻略をしなければならないことを勘案すると、数日くらいは消費してもおかしくない。だったら確証があるかをしっかり見定めたい」


 ゲームだと厄介だったがその迷宮自体、入る度に仕様が変わるというローグライク的な迷宮だった。現実で仮に迷宮があったとしても、さすがに入る度に構造が変わるなんて仕組みになっているとは思えないのだが、短期間で攻略する以上は問題が生じる。


 というのも、入る度に変わるという構造であった以上はゲームによる知識がほとんど意味を成さない。俺は魔王との戦いにおいて――五大魔族の居城とかではゲームの知識を利用して構造を把握できた。三作目の大半の迷宮は基本的に固定的なダンジョン構造になっているので知識が有効に働くわけだが、今回対象の迷宮についてはそうもいかない。


 階層については……全部で二十層だったかな。ローグ系のゲームだと百層とか、そういうクラスの大規模な迷宮だって存在していたのだけれど、『ダーク・ガーデン』のこの迷宮についてはそこまでじゃない。

 もっとも、構造が変わる上に敵も強いしでゲームにおいてはひたすら厄介だった。ここはさすが隠しダンジョンといったところではあるのだが、もし構造変化の特性がなかったとしても、面倒なのは確実だ。


「一つ思うんだけど」


 と、ふいに会話に割り込んできたのは、横で本を読むキャルンだった。


「ルオン単独で赴く場合、ゼナス諸島へ行って目的の場所に入り込んで……数日で可能かな?」

「……攻略自体は可能だとは思うけど、時間をできるだけ短縮するという前提なら、かなりややこしいことになるな」


 つまりゲームみたいにリアルタイムアタック……RTAを余儀なくされるわけだから。

 現実でそんなことできるのか疑問なんだけど、もしそれをやるにしても準備は相当必要だろう……いや、もしもの場合に備えて何かしら道具とか準備しておけば、いけないこともないのか?


「――ルオン様」


 そこへ、ソフィアが図書館へとやって来た。


「天使の方から通達が。到着できるのは明後日になると」

『魔界側からも返信が来た』


 と、いきなりテーブルの上に子ガルクが現われ、ソフィアに続いて話す。


『こちらも明後日だ……つまり、残り七日ほどということになる』

「猶予はほとんどないな……この間に俺達は策が成功しそうな手段を色々検討しなければならない」

『ところで、これは何をしているのだ?』


 俺達が資料探しをしているのを見てガルクが疑問を呈する。ソフィアもまた同じ表情。ここに俺がいるとだけ聞いてやって来たのか。

 で、俺は両者に詳細を伝える。すると、


『ほう、魔降か』

「ガルク、何か知っているか?」

『我も実在していたかどうかと言われると、わからん。仮にそういう存在がいたとして、異端である故に秘匿されている可能性もある』

「ああ、そういう線もあり得るな」

『しかしルオン殿の言う武具があるのなら、またとない候補であることは間違いない』

「けど、それを狙って……何もなかったとしたら無駄骨になるぞ。時間がない以上、確証がなければ動くべきではないんじゃないか?」

『ルオン殿の言うことも一理ある……のだが、幸いながら多少なりとも時間がある』

「いや、残り十日もないんだし――」

『そうではない。デヴァルス殿達が到着するまでに二日ある。その間ならば、まだ自由に行動できると思わないか?』


 ……おいおい、それはつまり。


「策の検証とかを組織の面々に任せ、俺は迷宮にアタックしろってことか?」

『ルオン殿の魔力の質などについては既にこの組織が把握している。それを基にして検証自体は行える……つまり、ルオン殿は自由に動ける立場というわけだ』

「他にも、ソフィアなんかは行動できるわね」


 と、カティが補足。待ってくれ、この流れは――


「ただ、ソフィアの場合は外出する時は許可がいるのでは?」

「なんとかします」


 行く気のソフィア。うん、彼女ならそういう回答をするよな。


「というか、ゼナス諸島へ行って迷宮に潜って……それを二日で?」

『ゼナス諸島へ向かうのであるなら、こちらも色々と工面できる。精霊達の力を使うことができるからな』

「……ちなみに、それを使えばどのくらいの時間だ?」

『半日も掛からない』


 つまり、一日は迷宮攻略に使えるわけか……行く前提となれば、今からでも立ち上がって行動するべきだけど――


『ゼナス諸島へ赴くための準備については、こちらも数時間で行える……いや、行えるというよりは無理矢理どうにかできる』

「その間に俺は迷宮攻略に必要な物を集める……か?」


 無茶苦茶もいいところだが、RTAってそういうものではないかと俺の心がささやいている。まさしくゲーム脳である。


「どうしますか?」


 ソフィアが問う。正直、無駄になる可能性の方が高い……ような気がする。魔降という存在がいなかったら迷宮自体ないかもしれない。

 けど、二日……俺自身、グダグダ考え続けるよりも動いた方がいいのは理解できる。そして今、俺が自由に動ける最後の時間でもある。


 仮に迷宮があって武具があったとしてもそれが使えないケースだってあるが……現状、無茶して探っていかなければならないのも事実。

 よって、


「……わかった」


 俺はガルクとソフィアへ、そう返事をした。


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