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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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前世の知識

 完全に時間との勝負となってしまったわけだが、ここで慌てて研究に入るのも良くない。というのも期限は十日しかない以上、一度しか研究についてもチャンスはないと思っていい。そこで間違えてしまったら後戻りがきかなくなるのだ。


 俺達は幻獣の能力を用いて幻獣の領域を脱する――その当該の能力を持つ幻獣は俺達の前に姿を現さなかった。島を訪れると大規模な魔法陣のようなものが存在し、看板が一つあった。

 何語で書かれているのかよくわからない字面だったのだがジンが解説した。それによると、


「そちらの大陸へ戻るように調整をしてある。ただし具体的な場所まで正確に戻すことはできないが、一度だけならこの島へ戻ってこられるようにしてある」


 とのことだった。簡潔に書かれた看板に対しジンは苦笑していた。


「この能力の持ち主はずいぶんと人見知りだからな。実際天使達を戻す際も入り用だということで俺と話をして、当の天使達とは顔を合わせることもなかった」


 そんな感じに述べつつ、ジンは俺達を送り出す。まずは十日――次に辿り着いたのは、シェルジア大陸の北部だった。

 ただバールクス王国の国境付近で、どうやら山の麓。そこでデヴァルス達が移動手段を確保し――俺達は、城へと舞い戻った。


 そこからデヴァルスは「各所へ連絡する」ということで城を立ち去り、俺とソフィアはクローディウス王の所へ。これまでの経緯を簡潔に説明すると、


「予定日数よりも掛かっていたのはそういうことか……そして異常事態というわけか」

「十日後に一度戻る必要があります……それでですが、この城のリソースをお借りすることになるかもしれません」


 組織設立の際に予算などは立ててもらっているのだが、さすがにそれだけじゃ足りないかもしれないからな。


「ふむ、そこは構わない。金額が膨大になれば文句を言う者もいるだろうが、ルオン殿の組織については国の秩序維持に貢献している面もあるからな。説得もそう難しくないだろう」

「……ありがとうございます」

「礼はいらない……さて、事情はわかったが恐るべき状況なのは間違いないな。肝心の対策だが、まだ固まっているわけではないと」

「はい。そこについてこれから協議しないといけません。しかし十日しかない以上、やれることはおそらく一つ……ただしそれも、他の種族が集まってからということになるでしょう」


 それぞれの種族が結集し、それを一つにする……というところまでは策として考案されているが、その手法は無数にある。十日以内にどれか一つに絞り、実際に作業を開始する……ただしそれがきちんと上手くいくかどうかは賭けだ。

 場合によっては十日で終わらない可能性が……いや、終わらない公算の方が高い。


「既に多種族に連絡は行っているのか?」

「デヴァルスさんがやるとのことです。ただし魔界には別の連絡手段を」

『そこは我が担っている』


 と、俺の右肩に子ガルクが出現。


『魔界へ向かう道筋は一つしかなく、そこへ行くには人間では時間も時間も要するからな。天使隊と協力して連絡を行う』

「……十日以内に来てくれるだろうか」


 俺の言及にガルクは『なんとかしてみせる』と返答。まあここはなんとかするしかないか。


「ひとまず体裁についてはどうにかなりそうだけど、問題はそこからだよな」


 人選については多少なりとも決まっているけど、現状を踏まえると足りないものが多すぎる。さすがに十日間では各種族の能力を考察し、形にするくらいで精一杯のような気もしてくる。


「本来は、膨大な研究の果てに辿り着くようなことだ」


 と、俺の心の中の声に同意するように、クローディウス王は語る。


「精霊、竜、天使、魔族……それらの力を一つにするなどというのは、この世界のどこにも存在しないまさしく偉業だ。しかもそれをたった十日で成す……荒唐無稽にも程があるな。奇跡という事柄も幾度もくぐり抜けなければならない」

『――活路があるとすれば』


 ガルクは、俺達へ語る。


『可能性があるとすれば、ルオン殿だ』

「俺……?」

『ルオン殿の力によりそれらの力を束ねる……魔法陣を構築し魔力を高め、しかもそれはルオン殿縁の面々を並べる。付け焼き刃ではあるが、実現する可能性は十二分にあると思う……しかしそれでは足りない』


 断言。ソフィアも同意なのか小さく頷いている。


『その付け焼き刃を星神の使徒の切り札とする以上、もう一歩何かが必要になると我は考える。そしてその一歩は、ルオン殿の知識が必要になるのではないか』

「俺の知識……前世の物語としての知識か?」

『そうだ。今回、ルオン殿はもう活用できないと捨て去っているかもしれないが、価値はあると思うのだ。この世界の住人でなかったルオン殿の視点と知識は、他の誰にも持たない、代えがたいものだからな。巨大な相手なのだ。そうした知識だって必要になると思わないか?』


 再び俺の知識が脚光を浴びる……ってことか。とはいえどういう点で役に立つのか――


「……一度、頭の中を整理する必要がありそうだな」


 と、クローディウス王が最後のまとめに入る。


「時間が十日しかないのは事実だが、策の研究に入るまでにどれだけ急いでも数日を要するだろう。ならばその間、ルオン殿を始め組織の面々は一度自らを振り返り、考えるべきだ。自分を見つめ直す期間とも言えるな」


 悠長ではあるのだが……他にやることもないし、仕方がないか。


「ルオン殿については、知識をひっくり返して考察してみると良いだろう。何かしら活路になるものがあるのなら、それを実践すればいい」

『うむ、こちらもやることはある故、ルオン殿から離れよう。その間にゆっくり考えてくれればいい』

 ガルクも続く……とはいえ、だ。果たして価値があるのかどうか……いや、こんな風に考えるから駄目なのか。


 今までとは違う戦いなのだ。ならばこれまで必要としていなかった事柄に対し、価値が見いだせるかもしれない。


「わかりました……やってみます」


 俺の言葉にクローディウス王は頷く。ソフィアも「自分を見つめ直します」と表明し、話し合いは終わる。

 その後、俺は会議内容を組織の仲間達に伝え、多種族の招集を行う者以外は準備が整うまで自由時間となった。自分の知識……それが星神にどこまで通用するのか。それを計る戦いにもなりそうだった。


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