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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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驕り

 作戦会議はそこから数時間続いた。相手が規格外であるが故にこちらも規格外の方法で対抗するわけだが……やはりどうしたって時間が掛かる。現状使徒は島を喰らい続けているが、今は放置する他ない。

 そしてデヴァルスの提案に乗っかることにしたわけだが、内容は壮大だ。話し合いはどこまでも続き、果てがなかった。


「はー、わかってはいたが結論を出すのが難しいな」


 頭をボリボリとかきながらデヴァルスは呟く。

 組織の面々も、机の上で考え込む子ガルクも、誰もが議論し悩んでいる。そうした中で、魔族の力についてどうするかは一つの結論を導き出した。


「正直、俺にどこまでやれるのかわからないが……」


 それはオルディアの存在。他にもエーメルが候補に挙がったのだが当の彼女は「断る」とのことだった。


「私は確かにルオンのことは知っているが、魔王候補だったわけだし、立場としてふさわしくない」


 そういう主張であり、また他の者も納得した結果、オルディアに落ち着いた。

 人間と魔族の間に生まれた存在であることに加え、何より賢者の血筋であること――その二つにより、ソフィアなどと不測の事態に陥ってもフォローができるのでは、ということになったのだ。


 彼には魔王城で手に入れた腕輪――魔王の息子であるクロワは弓矢と言っていた武具を使うことになる。ただ、


「そもそも弓矢を扱ったことはないのだが」


 うん、それは俺も知っている。ゲームでは剣だけだったからな。


「いや、その腕輪の力を今回の作戦で発揮するというだけで、弓矢として扱うのとは少し違うから、なんとかなるんじゃないか?」

「しかし、さすがに武具について習熟する必要性はあるだろう?」


 あー、それもそうか。


「……カティ、腕輪について検証はしたよな?」

「どういう特性なのかはデヴァルスさん立ち会いの下で以前やったわよ。私が担当したわ」


 誰に使うかなどすぐさま決めることはできなかったのだが、使用者が現われることに備えて色々と性能を確かめた。それに基づけば、


「現魔王であるクロワは弓矢と称したが、厳密に言うとこれは矢をつがえて攻撃するような物ではない……剣を用いての攻撃だって可能だ」

「扱い方に変化を加えることができるのか?」

「そういうこと。俺から言わせれば、腕輪は単なる飛び道具だ」


 より正確に言えば、大砲……だろうか。腕輪の内部に存在する爆発的な魔力をまとい、強力な砲撃を行う。ただ、規模などを考えると例えば魔王候補ビゼルが作り上げた兵器。あれの方が強力のようにも思える。しかし、


「実はあの武器には強力な機能が備わっていた」

「機能?」

「魔物や幻獣のように、魔力的な存在に対し威力が上がる。どれほど、と説明するのは難しいけど……二倍や三倍じゃ効かないくらいだ」


 魔王がどういう意図でこうした武具を作り上げたのかはわからないが、もし星神に対抗するために生み出されたものであるとするならば……こういう特性であることは頷けるし、また魔界にあった兵器よりも、星神相手には――使徒に対しても十全に効果を発揮するかもしれない。


「よって、オルディアの腕輪を託す……けど、自在に扱うための訓練は必要だよな」

『その期間が如何ほどかについては、現在検証している』


 テラが述べる。ジンと顔を突き合わせて地図とにらめっこをしている。


『現在島を喰らう使徒の魔力を探っている。最初に観測した段階と、ルオン殿達の攻撃を受けた状態。さらに島を喰らうことによって得られる魔力……それらを推計し、どれほど強化されるかを導き出す』


 島一つ喰らうことで、どれほど強くなるか……もし思ったほど強くならないのだとしたら、準備期間も長くなりそうだが……もっとも幻獣のすみかが潰れてしまうので、できることならすぐに対処するべきか――


『……うむ、この増加量を考慮すれば……』

「ひとまず、攻撃そのものは無駄じゃなかったみたいだな」


 と、ジンが発言。どういうことだ?


「ルオンさん達の攻撃により、使徒は魔力を大きく減少させたのは間違いない。ならば強力な攻撃を繰り返しやり続ければ、いつかは……と思いたいところだが、魔力の総量を考えれば非現実的。で、島を喰らって得ている魔力量は、どうやらそう多くはないようだ」

「……島全部を喰ったら、どれくらい回復する?」

「そうだな、最初に観測した段階と比べ多少強化される、といった具合か。ただあれだけの巨大さだ。多少といっても俺達からすれば増加する魔力量は相当な規模になるが」


 ひとまず、攻撃により多少なりとも強化を食い止められたのか。


「よって、島一つではそれほど強化はされない……が、さすがに二つ三つと喰らっていけば話は別だ」

「そこについては、こちらでどうにかする」


 と、ジンが話し始める。どうにか、とは――


「高速再生があるため足止めは不可能だが、再生の度に魔力を消費する以上は強化を抑えることができる。それについてはこっちで断続的に攻撃を続け、使徒の能力をどうにか上昇させないようにする」

『とはいえ、あまり期待はしないでくれ』


 今度はテラが語り始める。


『星神との直接対決に備え、準備していたものを使う……多少なりとも健闘はするかもしれないが、こちらで用意したものではルオン殿達のような破壊を生み出すのは厳しいかもしれない』

「それほどまでに使徒は……星神は、想定以上の相手だってことか」

『そうだな……ある意味、幻獣――他の種族とは異なることで驕りを抱いていたのかもしれない』

「ま、それは同意だな」


 と、ジンが続く。


「俺の能力が通用しなかったように、もし戦っていれば下手すると幻獣が全滅していた。懸念を抱いておきながら、俺達は心のどこかで甘く見ていたのさ。幻獣達が集えば攻略は容易い、とな」


 そう語った後、ジンは深々とため息を吐いた。


「この戦いで、嫌でも自覚できてしまった……が、無謀な戦を仕掛けて全滅するなんて悲劇を避けることはできたんだ。そこは良しとしようじゃないか」

「……話を戻しますが」


 次にソフィアが口を開いた。


「能力強化を抑え込むと言いましたが、それでは島を喰らい続けることに変わりはありませんよね?」

「そこはまあ、仕方がない部分だな。さすがに犠牲というか犠牲となる島をゼロにはできない……ただその代償に見合う結果を、出したいところだ」

「どの程度の期間、強化を食い止められるとお思いですか?」

「そうだな……」


 ジンは沈黙する。俺達が沈黙を守る中、彼はやがてソフィアへ返答を行った。


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