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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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六つの力

 拠点へと戻り俺達はデヴァルス達の帰りを待つことに。無論、その間も星神の使徒を観察し続ける。島を喰らう姿は脅威そのものであり、なおかつ昼夜問わず動き続ける様子。その速度から考えると数日ほどで島がなくなってしまうかもしれない。


「――待たせた」


 そうしてデヴァルス他、天使が戻ってくる。幻獣ジンやテラも拠点を訪れ、俺達は使徒が見つかった日の朝みたいに会議室へ入り、話し合いを行う。


「進化する獣……それが星神の使徒の本質であることは間違いない。正直、現在俺達の手に負える存在ではないが、このまま放置すれば際限なく強くなっていく。とにかくできるだけ早く止めなければならない」

「具体的な案はあるのか?」


 質問したのはジン。腕組みをして険しい表情から、事態の大きさに憂慮していることがわかる。

 仮に幻獣ルグの知識を用いて近い島から喰おうと考えているのなら、いつ自分の島が襲われるかわからない状況だ。そうしたことが幾度となく続けば、幻獣の暮らすこの周辺に陸地が存在しなくなる……そうなったら、今度は大陸を狙うだろう。


「現時点で思い浮かぶのは一つ」


 そう言いながらデヴァルスはテーブルに紙を広げる。地図でも描くような大きさのもので、彼はそこに筆を立てて、魔法陣のような物を書き始めた。


「理論構築は頭の中でやったんだが、なにぶん初めてやることだから粗も多い。今後検討することで修正はしていくだろう」


 そう語りながら彼は魔法陣を描いていくのだが……六芒星に近しい紋様に加え、魔法陣の中央に何やら複雑な文字を書き始める。


「簡単に言うと、巨大な魔法陣を構築し、陣を描いた土地から魔力を収束。加え、外周部に力を注ぐ存在を配置し、中央に立つ者へと魔力を注ぎ、魔法などの威力を強化する……そういう手法だ」


 そういうやり方自体はこれまでにもあったように思えるが……デヴァルスの話には続きがあった。


「この策の根幹はあらゆる力を束ね、収束させること。それは精霊、天使、幻獣……そうした者達が結集し、力を集中させることで莫大な攻撃力を与えるという感じだろうか」

「あらゆる種族、か。しかし種族が違えば当然互いの魔力で反発するんじゃないか?」


 質問したのはエーメル。彼女――魔族なんて最たるものだな。

 そんな彼女に対しデヴァルスは神妙な顔つきで頷き、


「ああ、それは確かに……ただ使徒相手に消滅させるだけの力を込めるには、おそらくこれしかないだろう」

「中央に位置する存在は尋常じゃない負荷が掛かるね」

「中央――ここに誰が立つかは既に決まっている」

「……俺か」


 自分自身を指差して、俺が言及。デヴァルスは即座に頷く。

 で、組織の面々や幻獣を含め、誰も驚いた様子はない。むしろそれが至極当然だという雰囲気である。


「ルオンさんが持つ天封の剣……それに魔力を収束させるか、あるいは他に膨大な魔力を抱える器を作るか……」

「俺の剣はどれだけ効力があるかわかっていないのだが問題なんだよな……限界がどこまでなのか不明だし、仮にこの策を実行しても、剣が壊れるなんてことは避けたいが」

「なら剣も作るしかないな」


 断言。デヴァルスの言葉には覚悟が見えたが、どれだけの時間が掛かるのか。


「けれど、実効性はあるのかしら?」


 次にデヴァルスへ話し掛けたのは、リーゼ。


「理論構築はできていると語っていたけれど、混ぜ合わせられるものなの?」

「そこについては、これから検討を重ねていくことになるが……確実に言えることとしては、ただ単純に天使や幻獣が直接魔力を込めてもルオンさんの力と反発する。よって、緩衝材となる存在を置く」

「緩衝材……?」

「武器でも人間でも、何でもいい。ルオンさんへ魔力が円滑に注ぎ込まれるような存在を起点にして、魔力を収束させていく」


 と、そこでデヴァルスはソフィアへ視線を移した。


「ソフィア王女がもっともわかりやすい例だ。精霊や神霊の力をそのままルオンさんに押しつけても十全に力を発揮することは難しい。しかしソフィア王女ならば……融合魔法で共に魔力収束などを行っている人物が仲介すれば、膨大な精霊や神霊の力もルオンさんの所へ到達しても上手く馴染めるように仕組みを作れる」


 なるほど、理屈はある程度理解できた……となると、他の人選としては、


「竜の力は、ロミルダかな」


 そう言ってロミルダに目をやると、彼女は幾分緊張した顔を示した。


「竜の力を結集させた武具がある。それを利用すれば、他に竜が集まって魔力を集結させてもいけるかもしれない。加え、武具の構造などについてはアナスタシア公爵が把握しているだろうから、俺が力を制御できるような調整だってできるかもしれない」

「そして天使についてはレスベイル、ですね」


 ソフィアからの言及。うん、俺自身が創造した存在ならば、上手く天使の力を制御することができるだろうな。


「三つの種族についてはどうにかなりそうだけど……問題は魔族と幻獣か」

「そもそも幻獣というのは総称で、その内訳はバラバラだ」


 と、ジンは肩をすくめながら言及。


「実際は幻獣内でも成り立ちが全く違うため、俺達の力を統合して……というのは、非現実的にも思える」

「だが、それをしなければ間違いなく敗北する」


 デヴァルスが告げる。それにジンとテラは沈黙した。


「現在、星神の使徒は島を喰らい続けている。島がなくなれば次の矛先は別の島だ……時間的な余裕がほとんどない中で無茶を言うのはわかっているが、それをするために頑張ってもらえないか」


 デヴァルスも幻獣についてはわからないことだらけだからな……と、そこでジンは息をつき、


「……ま、存亡の危機だ。できる限りのことはしてみるさ」

「すまないな……そして残る魔族についてと、あと一つ」

「一つ?」

「人間の、力だ」


 そうデヴァルスは述べる。人間の力、というのは――


「種族の力を結集させるのならば、人間もまた該当するだろう?」

「……天使や神霊の力に匹敵するものがあるかどうかは、わからないぞ?」

「それでも調べてみる価値はある。人間は長きに渡り繁栄を続けてきた。そこには必ずこの戦いで必要な、力を持つものが眠っていると思う」


 人間、か……それを含めれば全部で六つ。その力を一つにして、使徒を破る……確証はないが、希望があると思わせる内容だ。


「……問題は、どのくらいの期間があれば完成するのか」


 デヴァルスはさらに続ける。


「こうした技法を完成させることは、たぶんできるとは思う……もっともそれは膨大な時間を掛ければの話。今回は時間制限がある以上、どこかで見切りを付ける必要がある。さらに魔法を使うための場所なども確保しなければならない。どこまでやるのか、その判断をこれから相談することにしよう――」


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