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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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巨獣

 前回の作戦時には星神の使徒を横から見ていたわけだが、今回は真正面から向かい合う形となる。巨大な存在が徐々に近づいてくる光景は、見る者を震撼させるだけの威圧感がある。


 俺は使徒を見ながら作戦を今一度頭の中で整理する。まずデヴァルス達が能力封じを行い、その上で俺とソフィアの魔法を行使。敵の体を破壊して動きを止める感じに動く。

 再生を封じてしまえば、魔力集積点が移動されても十二分に対処は可能だ。


 というわけで能力封じを優先するわけだが……デヴァルスは俺達に移動を促す。


「島から離れ海上で待機していてくれ。配下の天使達も周囲に展開し、いつでも逃げられるようにする」

「魔法発動の時、島にいなくてもいいと?」

「ああ、既に仕込みは完了しているし、こっちは心配しなくていい……能力封じと共に動きも止める。ルオンさん達は海上で準備を行い、いつでも魔法が使えるような状態に」

「わかった」


 俺とソフィア、加えカティやラディにクウザ。あとイグノスとロミルダといった遠距離魔法を行使できる組織メンバーは、揃って海上へ移動。全員が総出で準備を始める。

 まず俺とソフィアは当然融合魔法。威力を底上げしたはいいけど、どこまで通用するか。


 それに加え、今回は俺達以外にも魔法を放つ人物がいる。まずはカティ。彼女は単独ではあるが魔力を収束させ、魔法を溜めている。

 とはいえ彼女は攻撃魔法ではない。さすがに彼女が単独で魔法を放ってもあまり意味を成さないため、支援という形になった。簡単に言えば魔力の補助。強化魔法により俺達の攻撃力をさらに底上げする。


 それはイグノスも同じ。こちらは俺達ではなく、クウザとラディの二人を対象。そして二人は足下に魔法陣を組んでいる。海面ではあるのだが、天使達の魔法により魔力で魔法陣を描いている。

 二人の魔力が足下に集まっていく。なおかつ海中に存在する魔力を引き上げている。俺達の魔法を上回ることは厳しいが……それでも十分な攻撃力になるはずだ。


 そして残るはロミルダ。彼女は単独で持っている宝玉の力でありったけの力を注ぐ。その魔力がもっとも周囲に反響しており、海面をわずかながら波立たせている。

 こちらも融合魔法と比較すれば威力は低いのだが、決して侮れない力を持っている。俺達は合計三つの魔法を収束させているわけだが……まず俺とソフィアの攻撃で頭部を射抜き、動きを止める。次いでデヴァルスから魔力集積点の報告があれば、そこへ狙いを定め魔法を照射。もし狙える位置にない場合は、攻撃を放って動きをさらに縫い止めながら攻め立てる。


 それぞれ連発は難しい攻撃なのだが、三組の魔法ならある程度連続して魔法を発射できる。たださすがに何十発と撃つのは結構厳しいとは思うが……。

 ともあれ、三組の魔法により攻撃されれば、使徒に対してもある程度は――と、デヴァルスは期待をしているみたいなのだが、そもそも彼自身今回の策について成功率は低いと見積もっていたわけだし、俺達の魔法がどれほど通用するのか――


「最初に言っておくけど」


 と、俺は仲間達へ伝える。


「今回の作戦自体、成功率そのものは低い。こっちは全力でやっているけど、駄目でも落ち込む必要はない」

「正直、私達も本当に倒せるかわからないんだけどね」


 と、カティは苦笑しながら話す。


「私達は別にプレッシャーを感じているわけではないからね……そういうルオン達はどうなの?」

「正直、得体の知れない怖さがあるからな……情報がほとんどない状態で星神という存在と戦っているわけだし」


 元々俺はこの世界の情報を持ってやって来た。それらを有効活用して強くなり、魔王を打ち破った。それ以降も知識を利用する機会は多かったわけだけど、今回ばかりはそうもいかない。

 俺の前世としての知識が今回有効な場面は非常に少ないと思う……となれば残っているのは無類の強さのみ。今まで通用していた場面は多かったが……いや、俺の力を上手く高めれば、いけるのか?


 これまでの敵の特性によって倒せない敵というのは確かにいたけれど、今回は押し留めることすらできないからな……その状況下で俺はどこまでできるのか――


「ルオン様が全て気負う必要はないと思いますが」


 と、ソフィアはふいに話し始める。


「今まで、ルオン様が主導的な形……組織の長という立場上、これからもそういう形になってしまうのは事実ですが、これからの戦いでは、その……存分に頼って頂ければ。私達では頼りないかもしれませんが……」

「いや、そうは思わないよ。ありがとう」


 礼を述べるとソフィアは微笑む。その時、ラディとクウザの魔法が完成したようで、魔法陣の魔力が安定し始めた。


「よし、こっちは完了だ……ルオンさんはどうだ?」


 クウザの質問に俺は感触を確認。


「あともう少しだな。ロミルダ、そっちはどうだ?」

「うん、もうすぐ」


 ロミルダの腕に集まっている魔力もずいぶんと多い。彼女の持つ武具はそれこそ竜達の力を結集したもの。とはいえあれほどの規模相手にどこまで通用するのかは未知数だ。

 これはある意味、現在組織が持ってる能力を測るのに最適なのかもしれない。巨大質量を前にしてどこまで攻撃だけで立ち向かえるのか……。


 使徒がいよいよ島に到達する。その圧倒的な存在感に対し、島さえも小さく見えてしまうほど。


「なんだか、現実感がないわね」


 カティが感想を述べる。あまりにも大きすぎて絵とか空想の産物に思えてしまうのだろうな。

 俺もその言葉にちょっとばかり同意見を抱きながら……使徒がゆっくりと島へと近づく。その口を大きく開け、今にも喰らい尽くそうとする。


 その時だった。島全体から――魔力が生じた。それにより使徒の動きも一瞬止まる。


 獲物に食らいつこうとした獣が、想定外の変化によりフリーズした。何事か――そんな胸中を読み取ることができた。ただ理性的な雰囲気ではない。島へ向かったことからも幻獣ルグの記憶を保有しているのは間違いないが、その動きからは理性的な行動は見受けられない。

 知能そのものは獣同然になっているということだろうか……? 胸中で色々と疑問を抱きながら、デヴァルス達の策を待つ……いよいよ、決戦の時だった。


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