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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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理解不能

 辿り着いた幻獣の島は、森はあるがどちらかというと平原の多いような土地だった。見晴らしがよく、戦うには問題なさそうだ。


「準備に入る」


 デヴァルスは部下に指示を送り動き始める……ここから仕込みが完了するまでノンストップであるようだが……準備については任せるしかないので、何も言わず吉報を待つことにしよう。

 そして俺はどうするか……島内をウロウロしていると、ソフィアから話し掛けてきた。


「ルオン様、今後のことについて話をしたいのですが」

「今後……この戦いについてだよな?」

「はい」

「わかった」


 隣同士で立って話をすることに。


「……私自身、今回の戦いについては嫌な予感がします」


 率直な意見。嫌な予感、というのはどこか抽象的ではあるけれど、


「ルオン様に宣戦布告を行い、その上で相手は使徒を仕掛けた……正直、あれほどの存在が容易に倒せるとは思えません」

「……まあ、デヴァルスさんは現在策を講じているけれど、そんな攻撃すら通用しないって可能性は高いよな」


 そもそもあの体は元々幻獣である以上、何かしら耐性があってもおかしくないからな……もしそうだとしたら――


「この作戦が通用しなかった場合の、第二プランっていうのをやらないといけないわけだが……困難な道なのは間違いない」


 ――そもそも星神がどういう意図で今回の戦いを仕掛けたのかわからないが、あの使徒という存在が彼なりに相当な力を入れた存在であることはなんとなくわかる。そうした敵が能力を封じられただけで終わるかどうかというと……。


「力押しで戦うにしろ、情報収集は必要だ」


 そう俺は述べると、空を見上げる。


「能力封じが通用しない場合、それがどういう形で効かないかなどわかれば、対策の立てようもあるさ」

「そうですね……今はわからないことが多すぎる以上、少しでも情報を探らないといけないということですね」


 厳しい表情のソフィア……というか、さすがに現状を考えれば楽観的にはなれないか。


「……ともかく、俺達はできることをやろう。融合魔法について、威力を上げるために試行錯誤を始めようか」

「はい」


 彼女の返事と共に、俺とソフィアは魔法の検証に没頭することとなった――






 その後、星神の速度はまったく変わることなく、一定のペースでこちらへと近づいていく。その結果、島に辿り着くのが三日後の昼とわかった。

 よって、それに向けデヴァルス達は準備を行う。それにテラやジンを始め、他の幻獣達も手を貸すことに。またジンが言及していたとある幻獣の能力……それにより、必要な資材なども得ることができたらしい。


 結果的に作業自体は順調に進んだのだが……正直、どこまでやれるのか不安だ。


「私も、使い魔を使って使徒というのを見てみたけど」


 今回島に同行したカティが俺へ言及する。


「あれは……人の手に負えるものなの?」

「正直俺もどうなんだという気がしないでもないが……それに対する答えは一つだ」

「それは?」

「……これは星神からの挑戦状だ。つまるところ、俺達はあれに勝たなければならない」


 その言葉にカティは口をつぐんだ。

 そう、どれほど絶望的な存在であろうとも、俺達はあれに勝たなければならない……だからこそこうして色々と下準備を行っているわけだ。


「とにかく現時点では情報が少ないし、デヴァルスさんも能力封じについては手探りの部分がある。成功率はそう高くないと考えていいけど……とにかく、やれるところまでやらないと」

「本当、無茶苦茶ね……星神という存在は」

「まったくだ。異質な存在である以上、俺達が戦う相手はこれほどのことができるっていう覚悟は持っておくべきなんだろうな」


 そうした会話を行う間に、デヴァルス達は粛々と準備を進めていく。そうして一日、二日と経ち、天使達の顔に疲労の色が窺え始めた時――


「……ルオンさん、完成した」


 二日目の夜、俺はデヴァルスにそう告げられた。


「急ごしらえではあるが、十分魔法としては機能する。もっとも、これが通用する可能性はわからない……手応えがまったくないかもしれないし、あるいはいいところまでいくかもしれない」

「俺達の方も融合魔法について色々検証して、少しアレンジをしてみた」

「アレンジ?」

「魔力の収束方法を工夫することで、威力を底上げする……一度魔法を行使した時よりは、威力が出せるはずだ」


 といってもあくまで『ラグナレク』を使用することに変わりはないため、そう大きく性能が向上するわけではないが。


「いや、その差が明暗を分けるかもしれないからな……二日という時間のなさだったが、よくやったよ」

「そちらに一つ聞きたいんだけど、デヴァルスさんは成功率何割だと思ってる?」


 彼は難しい顔をする。その反応からすると、あまり良くはないと思っているか。


「そうだな……精々二割あれば良い方じゃないか?」

「それはずいぶんと、悲観的だな……」

「そうか? これでもずいぶん甘く見積もっていると思うぞ」


 と、彼はそう語ると大げさに肩をすくめる。


「星神がこんなことをしでかした理由はわからない……が、一つ言えることがある」

「それは?」

「たぶんだが、自分に勝つためには、世界に存在するあらゆる力を結集しろと語っているんだ。今回能力封じが通用しないのではと推測するのは、これはあくまで天使の力……幻獣の補助はあるが、起点となる技術や術式は天使のものだ」

「天使では駄目だと?」

「違う。絶対に能力を封じるには、天使だけでなく人間や精霊、魔族の力も一つにしなければならない……暗にそう言っているような気がする。ただ」


 彼は頭をかきつつ、


「どうしてそれをわざわざ俺達に教えているのかは、理解できないが」

「……別に教えているつもりはないんじゃないか?」

「しかしあんな存在が登場したことにより、俺達はさらに結束を強めることになる。星神はそれを望んでいるのか……」


 どうなんだろう。ただ嬉々として挑戦状を叩きつけてきた星神の様子からすると、もし戦うのなら全力で――世界の全てを用いて来いと――そちらの方がきっと楽しいから。そんな主張をしているようにも思える。

 だったとしたら、今まで遭遇した経緯などを踏まえればあり得ない話ではないかな……その時、雄叫びが聞こえてきた。もうすぐここに使徒が来る……そう認識すると共に、デヴァルスは部下達に指示を出した。


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