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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星神の使徒

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答えを導くために

 俺達は再度島を出て、今度は幻獣の島へと向かう。移動手段は使徒と戦った時と同様に天使達の移動魔法……しかし、朝目覚めてからまだ一日も経っていないというのが……時間が恐ろしく長く感じるな。


「島に着いたら俺達は何をすればいい?」


 確認のために問い掛けるとデヴァルスは、


「魔法威力を底上げするために色々と検証してもらえれば……それと星神の使徒が辿り着くまでは三日程度の余裕があるわけだから、体調を万全にしておいてくれ」


 それだけ。準備はデヴァルス達がやるみたいだが……。


「そっちだって過労で倒れたらシャレにならないぞ?」

「無論、無理はしない……いや、無理をしなければならない状況かもしれないな」


 そんな呟きを発した後、デヴァルスは肩をすくめる。


「現状、直接戦って俺は勝てないからな……天界の長と聞けばそれこそ、人間からすれば全知全能の存在であるようにも思われてしまうが……実際は、この程度だったという話だ」

「いや、さすがにあんな世界全てを壊すような存在を相手にして天界の長もあったものではないと思うけど……」


 俺やソフィアは天使の成り立ちも知っているし、天使が全知全能の存在であるなんて認識ではないし。


「そうは言っても、人々は期待してくれるだろ?」

「まあ、そうかもしれないけど……」

「幻獣達だって、天使という存在である以上は色々と期待を掛けてくれているわけだ。それに応じなければならないよな」

「……そこまで無理をする必要はないのでは?」


 ソフィアもフォローを入れる。それにデヴァルスは苦笑し、「ありがとう」と礼を述べた。

 なんというか、彼は天界の長という地位もあるため天使としての責務というか、その存在として色々背負うものがあるってことなんだろうな……人とは異なる世界に住む存在。俺達にはない苦労があるって話か。


「ところで、一ついいですか?」


 ふいにソフィアがデヴァルスへ尋ねる。


「この場において訊くのは今更という気もしますが……天界については大丈夫なんですか?」

「堕天使が襲来とかしたらすぐに連絡が来るようにはなっているし、万が一の備えもしてあるぞ」

「それもありますけど、執政的な意味で」

「まあなんとかなってるさ」


 アバウトである。大丈夫なのかと心配になったが、


「あー、二人が気にする必要はないって。大丈夫だから俺はここにいる。それだけだ」


 ……なんとなく、俺は他の天使を見やる。作業に没頭しているのだが、中には小さくため息を吐く者もいた。苦労してそうだな。

 そうした雑談を行う間に、俺は一つ変化に気付く。幻獣の歩みについて。


「……心なしか、速度が下がったように思えるな」

「ん、下がった?」

「歩幅が短くなっているかな……さすがに歩調は変えないまでも、歩幅が均一というわけにはいかないか」

「そこに変化があったとしても、到着時刻の変更はないだろうな。こっちでも観察しているが、もし歩調が速くなったとか気付いたら、言ってくれ」

「わかった……しかし、三日か。正直言ってあれほどの敵と戦うのだから、もう少し余裕が欲しかったな」


 堕天使の時だってそれなりに準備する時間はあったが、今回はその余裕がほとんどない。


「そこについては、考え方によって多少変わるぞ」

「変わる?」

「現在俺達は島を喰らうことを防ぐために奔走しているわけだが、例えば島の犠牲を多少なりとも覚悟して準備するのも方法としてはアリだ」


 島を喰われること前提に、か。


「幸い使徒の目的はわかっているし、幻獣達も避難はできるので犠牲者はゼロにできる……ただまあ、延々島を喰らい続ける以上、放置すれば際限なく力をつけてしまい勝てなくなる。どこかで見切りを付けて戦わなければならないが」

「……今回の作戦が失敗したら、そういう形になるな」

「ああ」


 そしてデヴァルスは――いや、俺もソフィアもきっとその可能性を考慮し、心構えをしている。ただ正直、どうすればいいのかはおぼろげにしかわからない。

 やれることはそれこそ、あらゆる力を一つに結集することくらいだろうか……ゲーム『エルダーズ・ソード』の一作目は、様々な種族の力を集めた戦いだった。それを現実でもやるということか。


 ただ、ゲームの主人公は精霊や天使の力を自然と結集できていた。何か理由付けがあったかどうかはあまり憶えていないけど……現実ではまずそのハードルをクリアしなければならない。俺とソフィアの融合魔法のように結集すれば相乗効果で威力が上がる可能性は極めて高いが、そこに至るまでにどれだけ難題をクリアしなければならないのか――


「……あれだけ巨大な存在だ。真正面から打ち破るには、相応の魔力量も必要だ」



 と、デヴァルスは苦い表情で語り出す。


「天使や幻獣だけではなく、竜や精霊……そして魔王にも協力を求める必要が出てくるかもしれないな」

「……魔界とも縁はできたわけだし呼ぶことは可能だけど、魔力を束ねるなんて理論的に可能なのか?」

「さあな。検証したことすらない。そんな手法を必要としなかったからだが……それが必須となるなら、覚悟を決めないと」


 覚悟――か。魔王の力と天使の力なんて反発間違いなしだな。正直実現できなさそうだけど……もしその二つが――いや、現在手を組んでいる種族達の力を一つにできれば、どれほどの威力になるか想像もつかない。

 俺とソフィアの融合魔法どころの騒ぎではなくなるだろうし……間違いなく星神に対抗しうる切り札になるだろう。


「……それに合わせて、私達もさらに魔法を磨かなければなりませんね」


 今度はソフィアが口を開く。


「他の種族の方々と釣り合えるような、魔法を作らないと」


 最上級を超える魔法、か……確かに。


「ソフィア、何か案はある?」

「いえ、正直とっかかりもありません」


 目の前が霧に包まれているかのようだ。やれることはあるが、どうすればいいのか……これが期限のないものであるならいくらでも悩めるが、間近に危機が迫っている以上、時間は無駄にできない。どうすればいいのか……その答えを、短い期間で確実に導き出さないといけない。

 ともあれ、今は悩む他ないか……俺はソフィアに「ひたすら考えるしかない」と応じる。彼女はそれに同意したか、深々と頷いて見せた。


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