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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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勝負の約束

 アンヴェレート復活の後、俺達と幻獣はさらに情報交換を行い……星神との戦いにおいて、色々進展することを確信した。


『天使の知識は非常に有用だな。これで星神打倒へ向け一歩進むことができた』


 そうテラは結論づける。デヴァルスもまた同意見のようであり、ここでの成果は想定していたよりも遙かに良い物だった。


 結果、ようやく俺達は幻獣の棲まうこの地域を離れることが決定し……最後の夜を迎えた。

 そこでちょっとした宴みたいなものを催した後、何事もなく就寝。そして――俺は、


「やあ」


 声が聞こえた。同時にこれが夢であると俺は頭の中で理解する。

 友人へ挨拶するような呼び声に対し、目線を向けると……そこには、鏡に映ったような俺自身の姿があった。


「……星神か」

「正解、と言っていいのかな。その呼称を自称したことはないんだけど」


 苦笑しながら応じる星神。俺はそれに対し半ばにらみつけるように、


「夢の中に干渉できる……か。そうやって人の頭の中を覗いていたりするのか?」

「今回は例外だよ。君達は僕が力を与えた幻獣……ルグとかいう名前だったかな? そいつと戦ったことで、少しばかり僕との距離が近くなった。その縁を利用してこんな風に干渉できるようになった……でもこれはたった一度きり。縁を結ぶだけの魔力は、一回やると霧散してしまうからね」

「で、突然現われて何をする気だ?」

「夢の中だから特にできることはない。精々話をするだけさ」

「……ならまず訊くぞ。アランはどうした?」


 堕天使との戦いの最後、目の前の存在によって姿を消した転生者。問い質すと、星神は笑った。


「彼は……まあ、君が行ってきた所業などを説明したら、ひたすら剣を振るようになってね」

「何?」

「有り体言えば、彼は嫉妬したのさ。同じ転生者にも関わらず、隔絶とした実力差がある……君は強くなれる手法を転生した時から知っていたことによって、無類の強さを得た。だけど、アランは違った」

「同じ転生者として、負けられないと思ったと?」

「そんな表現なら良いのだけれどね。内心はもっとドロドロしているのではないかな?」


 ――俺と彼は境遇も根本的に違う。そもそも俺は星神を倒そうなどと思って強くなったわけではなく、最初はとにかく必要に迫られて、だった。

 ただ、そんなことを言及してもアランの考えは変わらないんだろうな。


「もし次に出会う時があったら、間違いなく君達は剣を交わすことになる。覚悟はしておいた方がいいよ。転生者ということで温情など与えていたら、足下をすくわれる羽目になる」

「お前が力を与えるから、だろ?」


 問い掛けに星神は何も答えない。とはいえ言外に肯定しているのは間違いない。


「では次の話……というか本題に入ろうか。ずいぶんと僕を打倒するためにやっているようだね。幻獣と手を組んだことで元堕天使……僕の情報を持つ存在も復活させることに成功したようだ」

「警告でもしに来たのか? これ以上知ろうとするなら、容赦はしないと」

「いやいや、さすがにそんな風に干渉するつもりはないよ。無論、向かってくるのならば僕としても迎え撃つつもりだし、相応の覚悟をしてもらいたいのだけれど……ただね、個人的には信奉者達について思うところがあってね」

「信奉する存在が消え失せて悲しいとか? お前、そんな感情を抱くのか」

「悲しいとまではいかないな。僕を支持する存在がいなくなって残念、といったところか……で、だ。ルグは僕も多少ながら力を与えた存在だ。だからこそ、もうちょっとだけ頑張ってもらいたい、と思ってさ」

「……何を、するつもりだ」


 不穏なものを感じ、目つきが鋭くなる。それに星神はなおも笑みを浮かべ、


「勝負をしないか」

「勝負?」

「ああ。この夢から覚めたら、どういうことなのかすぐに理解できるはずだ……内容は至極単純で、敵を倒すだけ。もし君達が勝ったのなら……相応の報酬を用意している。というより、その敵には僕に関する情報が色々とあるからね。交戦し、勝つだけで有益なものを得られるはずだ」

「……そんなことはないと思った上で尋ねるが、もしこっちが負けたらどうなるんだ?」

「何も。僕は基本能動的に手出しはしない……今回はルグが頼ってきたから協力して上げただけで、誰かの願いや要求がない限り、僕は地底から手を出すことはしないから僕からは何もしないよ。ただまあ、負けたら心底面倒なことになるのは確かだね。加え、僕と戦う資格はなかったということじゃないかな」


 力を与えた存在に負けるのだから、本体には絶対に敵わないってことか。


「……わかった、というよりそれは強制なんだろ?」

「ああ、そうだね」

「ならこんな形で話をする理由はないんじゃないか?」

「そうかい?」


 ――こいつは結局、自分が面白いと思ったことを何気なく実行するのか。


 理由を求めても意味はないのだろう。そもそも地底の力という存在自体が異質で、俺達人間のような自我を持っているのかもわからない。

 目の前の存在は俺に化けているため、勘違いしてしまいそうになるが……俺達人間とはまったく違う。思考パターンなど推測するだけ無駄か。


「ああ、理解したよ。なら受けて立とう」

「こういう時、続くセリフは首を洗って待っていろ、かな?」


 小首を傾げ語る星神。それに俺はさらに視線を鋭くして……突如、夢から覚めた。


「……まったく」


 小さく呟くと起き上がる。寝起きだというのに、まるで今まで睡眠などしていなかったように目が冴えて、覚醒している。

 外を見れば、夜明け前……俺は宴を早い段階から抜け出して休んでいたから睡眠時間は十分なのだが、


「……起きるか」


 ベッドから出て支度を済ませる。その後、他の皆を起こさないようにそっと宿泊施設を出た。

 先ほどの夢……何が起こるのか。疑問を抱きながらも足が動く。とりあえず散歩ということで、海岸へと向かうことにする。


 少し歩けばあっさりと白い砂浜が現われる。昨夜は長い時間騒いでいたので、さすがに誰もいないか……と思っていたのだが、先客がいた。

 そちらへ歩を進める。足音で開いてもすぐに察知して、首がこっちを向いた。


「あら、どうしたの?」


 アンヴェレートだった。ユノーは周囲にいなくて単独。俺は「起きてしまった」と答えながら、彼女の横に立った。


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