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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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目覚め

 天使達以外は魔法陣の敷地から出て、事の推移を見守ることにする。遠巻きに確認すると、デヴァルスが陣の中心に何かを置いていた。

 アンヴェレートの魔力を封じ込めていたものだろうか? 疑問を抱きながら見守っていると、やがて魔法陣が発光を始めた。


 昼間であるためその光は太陽の光によってあまり目立たないが……いや、少しずつ光量が増している。やがて大地を覆うほど光が発生し、天使達は光の草原に立っているようにさえ見えた。


「幻想的な光景ですね」


 ソフィアが感想を漏らす。旅をする間に様々な景色を目に焼き付けたが、目前の光景は記憶にしかと刻まれるであろう、幽玄な景色だった。

 やがて地上以外にも変化が。空を見上げれば魔法陣の中心を軸に雲が渦を巻き始めた。空にすら干渉するほどのものか……やがて雲だけでなく風が生じ始め、魔法陣の中心が荒々しくなり始める。


「……これが、天使を復活させるためにやらなきゃいけないことだとすると」


 ふいに、横にいるリーゼが声を上げた。


「尋常じゃないリソースと魔法をつぎこまなければならない……無茶な手法で、理論的には可能でも、私達人間にはおそらく無理ね」

「だろうな。天界の長が参加してやる作業だし、仮に技術を学んでも再現できるかどうか」


 人間を含め一度消えたものを復活させるのは、どれだけ困難なのかという話だな……やがて魔法陣がさらに輝きを増す。魔力も肌で感じるようになり、魔法陣の光も目を細めなければ直視できないくらいになる。

 デヴァルスの姿も光に飲み込まれ――少しして、魔力が風を伴い、この島を駆け抜けた。


「っ……!」


 思わず声を発するほどの衝撃。敵意のない魔力であるため怪我とかはないのだが、それでも声に詰まるほどの濃密な魔力。組織の面々も声をなくし、ただ目前の光景を眺めるしかない。

 しかしその時間は十数秒といったところであり、やがて光が収まっていく。ただ魔力だけは途切れるというより、どこかへ収束していくような雰囲気だ。おそらく中央へと集まり、アンヴェレートを復活させるために注がれていくことだろう。


 視界が元に戻る。魔法陣も光が消え、どうやら役目を終えた様子。そうした中でデヴァルスが立つ中央付近には、なおも魔力が滞留していることが見るだけでわかった。

 その魔力は、少しずつ地面に置かれている物に注がれていく。この魔力が形を成し、アンヴェレートの復活へとつながっていくというわけか。


「……よし、一段落だな」


 デヴァルスの声が聞こえた。そして彼は魔法陣の中央から離れ、俺達のいるところへと近づいてくる。


「膨大な魔力を集約し、アンヴェレートの魂が眠る器へと注いだ。魔力は一度流れをつくってしまえば川と同じで一つの所へと注がれていく。後は待つだけだ」

「もう何もしなくていいのか?」

「経過観察はしなきゃいけないが、成すべきことの大半は終わった。ここから魔力が溜まるのを待つだけだ」

「どのくらい時間は必要だ?」

「精々一日くらいだな。ここでアンヴェレートを復活させたらそのまま幻獣と話し合い、でいいのか?」

「当事者であるアンヴェレートの意見も聞くべきだとは思うけど……そもそも頭の中に情報があるのか、それとも資料的なものがどこかに眠っているのか。もし後者なら、ここから離れることになるが」

「それならその時だ。彼女と話し合って決めるとしよう」


 デヴァルスの言葉に俺は頷く。儀式は成った。後はゆっくり待つことにしよう――






 そこからは宿泊施設の中に入り、魔力がゆっくり収束していくのを眺めるだけとなった。夜になると暗がりだからなのか魔力の流れが視覚化され、魔法陣を中心に淡い光の柱がちょっとずつ地面に収束していく光景が見えた。

 どことなくロマンティックな景色であり、見ていて飽きないものであったのだが……深夜近くになるとその光も弱くなり――朝方には完全に消えていた。そして、


「……どうやら、お目覚めだな」


 デヴァルスの声。建物を出てみると、昨夜魔力が滞留していた場所に、人影があった。

 白いローブ姿の女性……俺からは横顔が見えるのだが、その姿はまさしく堕天使ではない天使バージョンのアンヴェレートだった。


 俺はソフィアを伴いゆっくりと彼女へ歩み寄る。デヴァルスに帯同し、まずは説明をするというわけだ。

 アンヴェレートはまったく動かない。目覚めてすぐということで、これが現実なのかそれとも他の何かか――と、迷っているのかもしれない。


 やがて足音が聞こえたため、こちらに首を向ける。そして彼女は、ひどく見慣れた相手だったためか、眉をひそめ、


「……そちらが死んだわけではなさそうね」

「状況、理解できているのか?」


 なんとなく尋ねてみると、アンヴェレートは肩をすくめ、


「そうね……綺麗な別れ方をしたつもりだけど、どんな方法か……地面の魔法陣を見れば無茶な手段だと一目見てわかるけど、ともかく何らかの手段で私を死の世界から引き戻した……私の魔力を保管して、それを利用したってことかしら」

「察しが早くて助かるよ」


 と、これはデヴァルスの言。


「色々と事情があり、君から情報を得ないといけなくなってしまったわけだ」

「私に? ふむ、心当たりはないけど……堕天使絡みではないのかしら?」

「――俺達は、地底に眠る存在に挑もうとしている」


 こちらが話し始めると、彼女は目を細めた。


「色々調べ、その情報をアンヴェレートが持っているとわかって、実際に復活させた」

「はあ、なるほどね……どこぞの遺跡で私のことが記載されていたと。なるほど、地底の存在か……ま、地底の力を利用し堕天使化した事実を踏まえても、何かしら干渉してもおかしくなかったといったところかしら」

「そうだな……で、肝心の情報についてだけど……あ、いや待て。その前に一つやっておくことがあった」


 ――実はこの時点で、後ろからポカポカと叩く感触があった。無論のこと、ソフィアやデヴァルスではない。


「アンヴェレートに会いたいと言っている天使が」

「私に?」


 そんなヤツはいないだろうという声音。まあ堕天使とまでなった存在に会いたいと思う者が出るとは、普通思わないよな。


「ああ……彼女だ」


 そう言って俺は横へ移動する。そして、


「ど、どうも~」


 何故か他人行儀なユノーの挨拶が、周囲に響いた。


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