復活の準備
ジンの島に眠る情報を得てから、およそ一日。結局情報を処理するだけで精一杯で、それを基にしてどうするのかなどは、さすがにできなかった。
個人的には国が消え失せたことについて、疑問を抱いたが……そこに星神が関連しているとしたら、これから起こる未来の出来事――即ち、世界の崩壊が過去にも起きていた可能性がある。
「歴史の流れとしては」
と、ソフィアはお茶を飲みながら俺と話をする。
「古代、天使や魔族を生み出した国々は戦争により分裂し、その後後継とも言える国家でさえ消え失せた……ジンさんの言う通り、星神が絡んでいる可能性はあるかと思います」
「何か根拠はあるか?」
「根拠と言うには弱いかもしれませんが……国々の崩壊の際、天使や魔族は無事だったようですね……例えば国家が崩壊するような星神の力を目の当たりにした天使達が、それに興味を抱きシェルジア大陸で調べ始めた、と考えれば天使の行動については説明できませんか?」
ああ、確かに歴史の流れとしては納得がいくな。
「天使が調べたことについては、その一端をアンヴェレートさんから聞くとして……得られた情報としてはこのくらいでしょうか」
「そうだな。結論を出すのは無理だけど、色々と有意義なものだった……後はアンヴェレートに関することだけだな」
ソフィアは頷く。情報は得たので今日中には帰ることにしよう。
その旨をジンへ伝えると彼は了承し、
「なら昼前くらいにはここを出立するか。あ、俺もついていくのでよろしく」
「ジンも?」
「天使様の復活は是非この目で見たいからな」
ああ、なるほど……というわけで俺達は共に拠点の島へと戻ることとなった。
島へ戻りデヴァルスへ報告。まだ準備に時間が必要とのことだったので島内で待つことにする。思わぬ形で長期間滞在することになったわけだが、組織の仲間達にとっては良い刺激になったようだ。
というのも幻獣ルグとの戦いで色々と発見があったらしく、各々が滞在期間中に鍛錬を始めた。そんな様子を見ながら俺は宿泊施設の入口付近で椅子に座る。そして、俺の様子を見て近くを飛び回っていたユノーが一言。
「おじいちゃんみたい」
「ほっとけよ……もうすぐ主と会えるみたいだけど、どうだ?」
「元々もう会えないと思っていたわけだし、あたしとしてはラッキーかなと思うけど……マスターは、あたしのことをどう思っているのかなあ」
「邪険に扱うことはないと思うよ……むしろこっちに激高してもおかしくないが」
眠ったと思ったらまた目覚めさせるわけだからな……こちらのセリフに対し、ユノーは明るい表情で、
「大丈夫大丈夫。マスターならあらそうの一言で終わるよ」
「そんなものか……? ま、どういう展開にしろ復活させることは決まっているからな……後は成功することを祈るしかない」
会話を行いながら、デヴァルスが準備を終えるまでひたすら待つことになり――数日が経過した後、天使達が総出で魔法陣を描き始めた。
「これはアンヴェレートを復活させるための?」
「そういうことだ。結構なリソースを使うし、絶対に成功させないと」
笑いながら語るデヴァルス。魔法陣……と最初は思ったのだが、中央に位置する円形の魔法陣から、複雑な紋様を四方八方に描き広げていく。
それはまるで一個の巨大な地上絵のようだった。なんとなく使い魔を使って上から眺めると……具体的な絵柄があるわけではないのだけれど、徐々に絵が広がっていく様は、この絵柄自体が一個の生き物のように思えてしまうくらい、ずいぶんと不思議な感覚を抱く。
「これ、描いているのはどういう魔法なんだ?」
「この術式をきちんと発動させるには、様々な術式が必要になってくる。魔法を成功させるために試行錯誤していたら、魔法陣の規模そのものが想定以上のものになってしまってさ」
「……魂を呼び寄せる儀式というのは、天使でも大変ってことだ」
「そうだな。さて、ルオンさん。少し話は逸れるが、魂……その魂が多数眠る、聖域と呼ばれる場所のことを知っているか?」
「聖域?」
首を傾げる俺にデヴァルスはニヤリとしながら説明する。
「伝承レベルの話なんだが、この世界のどこかには魂を引き寄せ、保護する場所があるという話だ」
「……そこに辿り着けたら、誰でも蘇らせることができるとか?」
「さすがにそれは無茶だと思うぞ。仮にこの話が本当なら、魔力は溶け合って一つになっている……そこから誰かの魂を抜き出すのは困難だろうからな」
「ああ、なるほど……で、なぜ今になって聖域の話を?」
「いや、この話を思い出した時にふと思ったんだよ。もしそんな場所があるとしたら……そこはきっと、地底なんじゃないかと思ってさ」
「……つまり星神が、魂の聖域って所だと?」
「そう思っただけさ……だが膨大な魔力が地底に眠っているのだとしたら、あながち間違った解釈ではないのかもしれない」
確かに、デヴァルスの言ったように解釈することはできるかもしれないな……。
「正直なところ、星神という言葉を聞いて……言い得て妙だと思いながら、同時に恐ろしさも感じた。地底に眠る力……その表現であれば、この世界のどこかにある力の固まりを倒すだけでいいって解釈もできるが、星神なんて聞くと実際に星そのものを相手にしているような気分になる」
「俺はそれで正解だと思うぞ」
こちらの指摘にデヴァルスは押し黙る。なおかつ傍にいたソフィアもまた、厳しい表情になった。
「だが、世界の崩壊を止めるには戦うしかない。俺が保有する知識を考慮するに、天使や魔族達も無事では済まない……つまり、今この星にいる者達を守るには、戦わなければならない」
「……ま、そういうことだな」
「断片的ではあるけど情報も集まり始めている。今はまだそれがどういう風に役に立つのかわからないけど……ここで得られた情報は絶対役に立つ」
これは勘だが、古代の文明から天使と魔族……そして賢者。具体的な証拠はないにしても、星神という存在でこれらが繋がっているように思える。ソフィアが語ったように天使達は星神に興味を持っていたかもしれないし、だからこそアンヴェレートの情報は、非常に役立つかもしれない。
「準備ができたな」
デヴァルスが言う。上空から見ると、宿泊施設前にある平原を埋め尽くすほどの規模だった。
「始めよう……ルオンさん達は、成功を祈っていてくれ――」




