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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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天使と魔族

 ずいぶんと荘厳な造りをする神殿内を歩んでいくと、ある場所を境に魔力に変化が。今まではひたすら濃度の高い魔力がまとわりついていたのだが、ここでは突然そういう気配が消えた。

 魔法で空間そのものを保護しているみたいだな……一番奥には壁面に埋め込まれる形で本棚が存在していた。


「個人的に思うのは、建物の大きさに不釣り合いな資料の数だな」


 ジンが述べる。棚は幅も高さも結構あって、そこで資料の類いが詰め込まれている。ただジンの言う通り、神殿の規模からするとずいぶんと少なく思えてしまう。


「資料も全部ではないのが一点と、この神殿以外にも施設があって人の往来があったのでここまで大きいというのが俺の推測だ……で、まず重要なのは、この神殿にある資料がいつの時代のものなのか、だ」

「天使と魔族に関することだから、俺達の想像できないくらい昔かな」


 ゲームだと……裏設定的な資料しかなかったはずだけど、確か古代の時代……天使や魔族が争う時代があり、そこから天使が繁栄した時代があり、その次に魔王が活発に動く時代がある。その時に登場したのがゲームでもキーワードとなっている賢者だ。


「うん、ここにある資料は天使や魔族が生まれた当時のことが記してある。古代、と言って差し支えない遠い過去の話だ」


 ……俺の前世にも、古代と呼ばれる段階で様々な文明が世界各地で興隆した。その中には当時の技術でどうやって建造したのかなど、オーパーツ的な物が存在していた……そこから宇宙人云々とかに結びつけている人もいたけど、あまり興味がなかったので詳しくは知らない。

 で、この世界にも古代と呼ばれる時代があり、現代とは異なる文明を築き上げていたようだ。


「資料から読み取れるのは、今よりも世界が魔力に満ちていたらしい……つまり先ほど語った、幻獣が生まれる環境だったわけだ」

「そうした中で天使と魔族は生まれた?」

「まあそうだな……順を追って説明していこう。その当時、人間は多数国家を形成していたんだが、そうした中で大陸間で戦争をやっている大国が存在していた」

「またずいぶんと派手なことをやるな……そもそも海を隔てての戦争って、できるのか?」

「当時は大気中にずいぶんと魔力もあったから、兵員や物資を魔法によって大量輸送できたみたいだな」


 へえ、それは面白い。魔力が濃いとそんなメリットもあるんだな……興味あるけど空気に含まれる魔力を用いているのなら、今使うのはさすがに現実的ではないか。


「古代文明の魔法技術は、それこそ外界の魔力に頼ったものだった。それにより今とは異なる文化を形成したみたいだな」

「そういった技術が継承されていないのは、国が滅んだことにより文化が喪失したためか、それとも魔力の枯渇か?」

「そこについては後々説明しよう……で、その戦争というのは、それこそかなり無茶苦茶やっていたらしい。資料には戦争の経過を記したものもあるんだが、まあひどい有様だったようだ」

「……あの、質問が」


 ここでソフィアが手を上げる。


「戦争の理由は何ですか? 双方の国が世界の覇権を得ようとする……という理由ですか?」

「領土的野心があったから、と考えるのが普通だが、どうやらそれが主因ではない……いや、領土を奪うことは結果的にそういう形となっただけであり、お互いが双方の領土に存在するものを狙っていたようだ」

「それは一体……?」

「資料では『幻想樹』と呼ばれているものだ。挿絵が描かれているが、見るか?」


 資料を差し出す。俺が手に取り見ると、そこには巨大な一本の大木が描かれていた。


「天を衝くとされる巨大な樹木だったらしい。これを狙っていたのは、この樹木自体が魔力を大量生成するから、だそうだ」

「魔力を……? もしかしてその当時魔力濃度が高かったのは――」

「どれだけ巨大だろうと樹木が世界を魔力で満たすとは思えないが……ともあれ、古代文明にとって『幻想樹』は特別なものであり、なくてはならないもの……それこそ、戦争を起こす理由になるほどだ」

「魔力を放出するという点が事実だとすれば、その『幻想樹』というのが文明の起点になっていたのかもしれないな」

「戦争の理由になるくらいだから、そういうことなんだろう」


 ジンはこちらの言葉に同意すると、俺が握る資料を取ると棚に戻し、別の資料を手に取った。


「続きを話そう……戦争は大規模かつ、広範囲によって起きたために被害も甚大で双方が疲弊する結果となった。しかしいつどの時代でも争いが絶えないように、何度でも戦いを繰り返した……講和条約を結んだなんて話もなく、結果的に双方の国は自国の民が窮乏するまで戦い続けた」

「どうしてそこまで……」

「さあな……そして、両国とも埒が明かないと判断し戦いは自然と収まった……が、それはあくまで表向き。実際は熾烈な兵器開発を始めたわけだ」


 冷戦、というやつか。


「そうした中で、双方とも新たな兵器の候補は考えついていた……当時から既に精霊などは存在していたんだが、彼らが発生する理由は、人間の魂と自然に存在する魔力が結びついたから、という結論を得ていた」

「人間の魂と……?」


 つまり人間の魔力か。


「魂とは人が死んだ際に生じる魔力とでも言えばいいか。それらが濃い魔力と結びつくことで、精霊となった……今は環境が違うため、特定の魔力が濃い場所くらいでしかそういう風には生まれないみたいだが。ともかくそういう現象から、上手く魂を利用して人を強くできないかと考えたわけだ」

「生体兵器、というやつか」


 俺はちょっとばかり苦々しく呟くと、ジンは頷き、


「――俺達の一族もまた、そういう研究の末に生まれた存在だ」


 驚くべきことを口にした……と同時、ジンが次に何を語りたいのか如実に理解できた。


「つまり、そうした研究の果てに……」

「そうだ。大地の力と強い結びつきを行うことで生まれたのが魔族。そして空の魔力と結びついたのが、天使……彼らは、古代文明における研究の末に生まれた、人工的な種族だ」


 荒唐無稽な話、と思ってしまうが……なるほど、秘匿するというのはなんとなく理解できる。

 ただ、この情報をどうして後世に残そうとしたのだろうか? そんな疑問を頭の中で掠める間に、ジンはさらに続ける。


「これが天使と魔族の起源……ま、現在は天使も魔族もそんなことを忘れているみたいだし、なおかつ自分達がどう生まれたのかわからない様子だな……では、彼らが誕生したことにより、戦争にどのような変化があったか、説明しよう――」


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