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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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秘密眠る島

 ジンの迎えによって、俺とソフィアは彼が住む島へと向かうことに。移動については彼の配下による魔法。風の力を応用したもので、俺やソフィアが保有する移動魔法にも似たものだが、速度がずいぶんと違い、あっという間に俺達の拠点である島が見えなくなった。


 その道中で幻獣達の近況について知ったが、あまり動きはないらしい。


「一つ質問していいか?」

「どうぞ。何を尋ねるかはこっちも予想できるが」


 そんな彼のコメントに対し、俺はたぶん彼の予測通りだと思いながら口を開く。


「俺達に対して、他の幻獣は肯定的なのか?」

「少なくとも、俺達だけで星神を始末することができないってことが判明した以上、協力するしか術がないって結論だ……俺やテラのように積極的に関わるとはいかずとも、消極的ながら賛同はしてもらっている」

「敵対してないだけ、良いと解釈しましょう」


 ソフィアの意見にジンは「そうだな」と同意する。


「ま、ルオンさん達のことを邪険に扱う輩はもう出てこないだろ。手を組んだ方がメリットが大きいからな……そもそも俺達は積極的に多種族に関わってこなかっただけで、禁じていたわけでもないし」

「なんだか緩い感じだけど、本当に大丈夫か?」


 不安になって尋ねてみるとジンは「たぶん」と答えた。不安である。

 まあ彼らにとっても異例ってことだろうし、ここはテラやジンの動きに期待するしかないか……そんな風に考えていると島が見えてくる。けれどゴール地点ではないようで、そこを通り過ぎた。


「……俺の島にある物について、喋らないよう制約を課すかもしれないと、少し前に語ったはずだ」


 そうジンは話し始める。


「でも色々と協力してくれる礼として、その辺りはなしでいいさ」

「本当にいいのか?」

「重大な秘事であることは確かだが、さりとて絶対に知られてはならないってことでもないからな。そもそも魔族とか天使とかが由来を知ったからといって、見方が変わるものでもないだろ?」

「内容によるんじゃないでしょうか?」


 ソフィアが首を傾げながら応じる。ジンは「どうかな」と返し、


「天使とかはこれまでやってきた功績とか、事実が露見することでそういうのが消えるわけじゃないからな。天界の長に話すかどうかはルオンさん達の判断に任せる。それが幻獣ルグの討伐に協力……いや、倒してくれた礼だと思ってくれ」


 と、ここでジンは大げさに肩をすくめる。


「本当はもっと何か提供できればいいんだが、あいにく俺は歴史の断片しかもっていなくて、他に渡せるものがないんだよ」

「十分だよ……島にはどのくらいで到着するんだ?」

「このペースなら、一時間くらいだな」


 速度は出ているが、結構遠いな……ジンの持つ情報がどの程度の量なのかわからないけど、島に赴き話を聞いて……最低一日はかかりそうだ。ま、デヴァルスがアンヴェレートを復活させるための魔法を完成させるのに時間が必要だし、ここは別に慌てなくてもいいか。

 それから俺とソフィアはジンと幻獣について色々と情報を得る。また俺達からは世界の情勢なんかをわかる範囲で伝える。そうして時間はあっという間に経ち、ジンの本拠である島に辿り着いた。


「どうぞ、といっても歩きにくいが」


 苦笑しながらジンは言う。砂浜に下りたって森の入口へ彼は向かうのだが……ルグの島と比べ、緑が濃い。

 いや、森の木々が密集していると言えばいいだろうか……太古の原生林、という言葉が想起されるような強烈な魔力と、来る者を拒むような青々とした木々。ソフィアも同じことを考えたのか、こちらに視線を向ける。


 俺も彼女の目を見て互いに目を合わせる。だが少しして双方同時に歩き始めた。

 森へと入る。濃い土の匂いにどこかしら聞こえてくる色んな鳥の鳴き声。ただそれはコーラスを奏でるという生やさしいものではなく、ひたすら俺達へ降り注ぐ音の雨だった。


「ルグの島とはまったく異なりますね」


 ソフィアが木々を見上げながら呟く。ちなみに生えている木々も幹が太い。


「これは、何か意味があるんでしょうか?」

「たぶん魔力が関係しているな。この島に存在する魔力は、ずいぶんとまあ植物に影響を与えるんだ。放っておいても木はこんなに育つし、生物の繁殖力もすごい。俺達幻獣が暮らす島はそれぞれ特徴があるんだが、それを踏まえてもここはずいぶんと生命力の強い場所だ」


 言いながらジンもまたソフィアと同様木々を見上げる。


「だからこそ……ご先祖様はこういう場所を住まいに選んだのかもしれないな。所持していた情報を秘匿するために……あえて深い森が形成されるこの場所を選んだ。島に入ろうとするのも躊躇うくらいの強い魔力がある土地だ。何かを隠すにはうってつけだったんだろう」

「……なあジン。ご先祖様は情報を隠すためにと語ったが、破壊するなんて考えには至らなかったんだな」

「この場所に居を構えた最初の幻獣がどういう思いで情報を残したのかわからない。俺はただ先祖代々の言いつけを守り情報を秘匿してきただけで、何故という部分には疑問を持たなかった。そもそも疑問を持っても答えなんて出ないし、考えるだけ無駄さ」


 そう言われてしまうと身もふたもないな……。


「一つだけ補足すると」


 と、ジンの話には続きがあった。


「そうだな、あえて言うなら……先祖は将来必要だと思って残したんだろう」

「必要?」

「天使や魔族が何者なのか……それを明らかにすることで、何かを見出して欲しかった……そんな気がする」


 ずいぶんと抽象的な物言いではあったが、そう思わないと残すことはしなかっただろうな。


「ともあれこの情報が何の役に立つのかはさっぱりなんだが」

「おいおい……役に立つかはともかくとして俺個人としては興味があるし、拝見させてもらうよ」


 ソフィアもうんうんと頷く。人とは得てして隠された真実とかに興味を持ってしまう。それは王女であるソフィアであっても同じみたいだ。


「……さて、あと少しで森を抜ける」


 ジンがそう述べた瞬間、森の先に光が見えた。


「今日一日くらいはここでゆっくりできるだろう。真実なんかを解説するついでに、一泊していけばいい」


 陽気に述べるジン……俺とソフィアという来客を楽しく迎えているような気配に満ちていた。


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