戦いの報酬
『ルグが保管していた情報の中に、星神の信奉者の名が刻まれている。これなら今後、幻獣同士の話し合いが円滑に進みそうだ』
「残りの信奉者はどうする?」
ジンの問いにテラは彼を一瞥し、
『選ばせるしかあるまい……星神につくか、我らにつくか』
沈黙が生じる。正直なところ、ここは賭けの部分もある。
信奉者達がすぐにこちら側に寝返るとは思えないからな。今回のルグやオルーのように反乱を起こしたのなら、さらなる戦いが待っている。俺達の目的もかなり遠回りなものへと変貌しそうだ。
『ともあれ、この情報を基に話をしてみよう』
テラはそう述べると、俺達へ向き直った。
『そしてルオン殿。今回の戦い、本当に助かった』
「いや、俺達の敵でもあったから気にしなくてもいい」
『……こちら側では対処仕切れない可能性もあった以上、相応の礼はしなければなるまい。やはりここは、そちらの目的を達成する物がいいだろう』
あ、ということは――
『加え、復活させようとしている天使の情報も必要になってきそうだ。ジンの能力が通用する可能性が低くなった以上、こちらも相応のやり方を考えなければならなくなったからな』
おお、これは話が進みそうだ。後はテラ達の交渉が上手くいくことを祈るとしよう。
『ではひとまずルオン殿達は拠点へと戻ってくれ』
そうテラは指示を行う。
『何かあれば都度報告することにする。信奉者との戦闘になりそうならば、すぐにでも連絡を行う』
「ああ。必要になったらいつでも呼んでくれ」
『助かる』
――そういうわけで、俺達は幻獣ルグの島を後にした。
そこからは、こちらの望む形で話が進むことになった。
結果から言えば、テラの交渉については成功。信奉者である幻獣――二種族いたらしいのだが、彼らは戦わずして降参し、今後星神に関わらないよう制約を結ばされることになった。
どういう条件でそういうことを実行したのか、など気になる点はあったのだが、テラは『非常に有利な交渉結果だ』と簡潔に説明しただけ。たぶん幻獣同士のやり取りで済ませる気なのだろう。俺もそれ以上は尋ねなかった。
で、今後星神に対し人間や天使達と協力方向で話は進むことに。その結果、幻獣ルグ達を倒した事実も相まって、俺達には報酬が支払われた。
「いやあ、ここまで上手くいくとはなあ」
と、デヴァルスはご満悦。島に戻っておよそ三日。俺達の目の前には、幻獣縁の品々が多数並んでいる。
中には当初の目的であった幻獣テラの角まである……ちなみにこれを持ってきた際に角はまた生えていた。テラいわく『すぐにでも生やせるが内包する魔力を溜め込むのに時間が掛かる』とのこと。たぶん、角に魔力を蓄えていざという時に備えるようなものなのだろう。で、目の前にある角については、テラが魔力を蓄え続けた一品というわけだ。
「これならすぐにアンヴェレートを復活させる作業にとりかかれそうだ」
その言葉で、周辺を飛び回っていた天使ユノーがこっちを凝視。そんな様子を視界に捉えながら、俺はデヴァルスに質問する。
「資材が整えばできると語っていたけど……一度戻るのか?」
「場所はどこでもできるから、アンヴェレートの魔力を保管してある物をここに取り寄せればいい。輸送に掛かる時間は……三日もあればできるかな」
「三日? こんな幻獣のすみかに持ち込むにしては、思ったより短いな」
「物品を輸送するだけだから、配下を使えばなんとでもなるさ」
大変そうだけど、ここはデヴァルスの言葉を信じて待つことにしようか。
「というわけで無事目的は達成し、ここでの用向きはほぼ終わったわけだが……幻獣側もアンヴェレートの保有する情報については是非とも聞きたいと言っていたし、まだ話し合いは続きそうだ」
「なら当面の間、ここに滞在することになりそうだな」
「ああ。建てた建物も現在補強を行い、長期間維持できる形に直している。衣食住については、心配しないでくれ」
――ちなみに食べ物については、持ち込んだ食料も結構あるけどこの島の中で色々と採れたりする。実際組織のメンバーなんかは狩猟とか木の実の採集に赴いていたりする。
「で、ルオンさん達だが……」
「俺は幻獣ジンの話が気になっているし、ソフィアと一緒に行ってみるつもりだ。幻獣同士の話が終わり次第、こっちに来るとジンは言っていたけど」
「こちらとしても気になる話ではあるが……ま、こればっかりは仕方がないか。いつか話してもらえる日を待つことにしよう」
「そんな日、来るのか?」
「さあな。しかし期待して待つさ」
笑いながらデヴァルスは語った後、
「よし、では俺達はそれぞれやるべきことを済ませるとしよう」
「アンヴェレートが復活した後は、どうするんだ?」
「幻獣達と話し合いを行い、今後の方針を決定する……星神にどう立ち向かうのか。あるいは、いつ戦うのか……その辺りを協議しないといけないな」
ふう、とデヴァルスは息をついた後、
「ルオンさん達の組織に、天使と魔王と竜と精霊。そこに幻獣が加わったわけだが……一度、きちんと話し合うべきだろうな」
会議か……魔界で戦った際もそうしたことをやったけど、今度は星神という巨大な相手に対する会議だ。以前と比べても、より大変なものになるだろうな。
「そうした予定についても、今後段取りを決めないといけないだろう」
「それ、もしかして俺がやるのか?」
「さすがにルオンさんに任せるようなことはしないが……誰が調整役をするのかは考えないといけないな」
大変そうだな……加えそういった面々を仮にバールクス王国の城に入れる場合、準備によって過労で倒れる人がかなりいそうだ。あんまり迷惑も掛けたくないな。
「うーん、俺やソフィアが中心に立っているわけだし、バールクス王国でやるのが筋かもしれないけど……現状城にいる人達の仕事は増やしたくないな」
「ならば開催場所も考えないと……ま、その辺りはどうにでもなるさ」
「ちなみにデヴァルスが調整役になるのは?」
「考えなくもないが、魔界側と話し合うのは無理だぞ?」
「そこは俺がやるしかないのかな。エーメルには絶対無理だろうし」
ま、今後話し合うことにしよう……そのような結論を出した時、デヴァルスの配下である天使がやってきて、幻獣ジンが来訪したことを俺に伝えたのだった。




