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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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星の神

「普通なら、幻獣の特性を解析して有効な効果を与えるなんて、非現実的なんだが……俺は、自前で解析できる手段がある」

「レスベイル、ですか」


 ソフィアの言葉に俺はゆっくりと頷いた。


「そう。戦っている間にレスベイルを用いて相手の能力を把握……ただ、そのやり方を少し変わったものにした。さっき、俺が握る剣に赤い魔力がまとわりついたけど……あれは、レスベイルの分析能力を刀身に付与したものだ」


 ――レスベイルが単体で解析した場合、それを基にして技を出しても防がれる可能性がある。魔力というのは常に動いており、特に幻獣相手であれば戦う間に特性そのものが効果を失ってしまう可能性も否定できない。

 よって、刀身に分析能力を注ぐことによって常に相手の魔力を解析し続け、特殊効果が続く状況を作り出すことにした。


「制御とかかなり難しいし、まだまだ発展途上の技だけど……言わば、魔力が変化しようとも確実に攻撃をたたき込める技法って感じかな。さっきのは単純に斬撃を出しただけであの結果だ。ここから技を組み合わせることで、さらなる相乗効果が期待できる」

「あれ以上に威力が上がるというわけですね……」


 神妙な顔つきとなるソフィア。


「ただ、欠点もいくつかある。それが今後の課題だ」

「欠点?」

「技を使用中でもレスベイルを外に出すことは可能なんだけど、能力がだいぶ落ちるのが一点。そしてもう一つ……右腕に力を集中させるせいで、俺の動きがかなり鈍くなる。魔物相手なら何ら問題がないくらいだけど、もし対峙する敵が地底の力であったなら……その能力低下は、命取りになる」

「現段階では、あくまで切り札ってだけで色々と代償があるんですね」

「そういうこと。それを是正した際、ようやく地底に眠る存在に対して使えるようになるかな」


 ……口にはしていないが、これまでの旅を踏まえて考案したのが今回の技だ。例えば四竜侯爵との戦い。あれは竜魔石が含まれた武器が必要だったため、色々と面倒だった。今回の技はそうした特定の武具がなくともダメージを与えられる……そういう主旨もある。


 つまり、現在の能力でどんな防御能力を有する相手でも通用する技……ただし血筋が必要なケース――言ってしまえば賢者の血筋などについては、さすがに俺が解析、実践できるレベルを超えているので、さすがに厳しい。でも例えば、多少でもダメージを与えられるようになれば、色々と変わるはず。


 地底に眠る力には十中八九古の賢者が関わっている。それを踏まえれば魔王のような血筋しか攻撃が通らない魔力障壁とかを作成する可能性もゼロではない。そういう際、攻撃がまったく通用しないのと多少でもダメージが与えられるでは大違いなので、早く完成を目指したいところだ。


『――着いたぞ』


 ここで先頭を進むテラが声を上げた。目的の場所は、島の位置では中央付近。森が開け草原が広がる空間で、その中央には巨大な樹木が一本、生えていた。

 樹齢何千年レベルの巨大な樹木。近づいてみると、魔力を感じることができた。


『なるほど、この樹木……根を張っているこの樹木を媒介にして、地底の力へ干渉したか』


 テラが推測を述べる。ジンもまた頷き、


「たぶん、信奉者達は地底の力に干渉できる技法を所持していたんだろ。それによって力に触れ、あのような末路を迎えた」

「ということは、その魔法があれば地底の力に干渉できると?」


 俺の疑問に対しジンは肩をすくめた。


「そんな良いものじゃないだろ。たぶん魔法を使った時点で地底の力に取り込まれる……そんな魔法に決まっている」


 ……ルグが暴走した事を踏まえれば、そういうことなんだろうな。


『どうやらこの樹には情報が詰まっているな』


 そこでテラが話し始める。


『島に配下以外の幻獣が訪れてもいいように、樹の中魔法か何かで情報を封じているようだ』

「お、ということは地底の存在に関する情報もあるのか?」


 ジンの問いにテラは『わからない』と答えたが、


『本来来ることのない他の幻獣に対しここまで厳重に情報を管理していたのだ。可能性は十分あるな……こちらで調べるので少し待ってもらえないか?』

「それはいいけど……幻獣の長が管理していたものだ。簡単に見られるのか?」

『上手くやれば覗き見ることはできるだろう。時間は掛かるかもしれないが』

「ま、やってもらおうぜ」


 のんきにジンが語るとテラは作業を始めた。といっても見た目は樹を凝視して動かなくなっただけ。


「……問題は、他の信奉者がどう動くかだな」


 俺は発言し、ジンへ視線を向ける。


「幻獣ルグにオルー……彼ら以外にも信奉者が幻獣内にいる可能性があるだろ?」

「懸念はあるが、今回の一件で力は十二分に示した。表立って動くことはないと思うし、戦闘になる可能性は低いだろ」

「それならいいけど……」

「問題は私達の目的が成し遂げられるか、ですね」


 と、ソフィアが近寄ってきて発言。


「地底の力に対し協力関係を結ぶことはほぼ確実でしょうけれど、こっちは目的がありますし」

「それも大丈夫さ。というか、俺が説得する」

「あなたが?」

「そうするしかないというのが実状だな。俺達が立てていた計画は破綻したわけだから」


 ――ジンの能力を利用して、彼らは異変が生じた地底の力について戦おうとしていた。けれど幻獣ルグが地底から力を引っ張り出して「受肉」するなんて技法を披露したため、彼らの考えが真っ向から否定されてしまった。


「ある意味、試せて良かったって話だな。もしこのまま何も起きず地底へ向かっていたらと思うとぞっとするぜ」

「どうにもならないため、私達と手を組むってことですか?」

「平たく言えばそうだな。俺達にとっても渡りに船という事態だ」


 そう言ってもらえるとこっちの目的が達成される可能性が増えるわけだし、良かったかな。


『――ふむ、そうか』


 ふいにテラが呟く。何事かと思い視線を向けると、


『地底に眠る力……それは過去、とある名称で呼ばれていたらしい』

「名前があるのか?」

『名前、というより呼称だな……古代、この力に触れた者達は星神(ほしがみ)……星の中心に司る神、という名を持たせていたらしい』


 星神、か……確かに地底というよりこの星の中にいる存在と考えれば、そう呼称するのもありか。


「呼びやすいし、今からそう呼ぶとしようか……星神。俺達は星神を打倒する者、ということだな」


 その言葉に組織の面々が一様に頷く。そしてテラはさらに、情報を語り始めた。


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