新技
幻獣が二体消えてからの戦いは、こちらに負ける要素はまったくなく、あっさりと決着がついた。ルグの部下であった狼は全員逃げ、リザードマンについては無謀な特攻を仕掛けてこちらの攻撃によってあえなく全滅という結果に。ついでにゴーレムも見える範囲では全て撃破した。
「なあ、これは大丈夫なのか?」
周囲に敵がいなくなった状況で、俺はテラやジンへと問い掛ける。
「結果的に幻獣の長が二体倒れたことになるわけだが……」
『この状況はおそらく他の幻獣達も把握している。問題はないだろう』
そう述べたのはテラだ。
『戦いの最中、ここを観察しているような気配が複数あった。ルグに荷担する信奉者という可能性もあるが、複数ある以上はそうではない幻獣もこの戦いの行く末を見守っていたはずだ。そういった存在もいるため、説明は容易だろう』
「ならいいけど……で、これからどうするんだ?」
『まずはルグの本拠を調べよう。地底に眠る力を利用した以上、この島には力とアクセスできる場所があるはずだ。それを確認する』
確かにそれはやっておいた方がいいか……俺達はそれに従うことにして、先へと進む。
「ルオン様、さっきの技ですが」
で、道すがらソフィアが近づいてきた。
「暴走した幻獣ルグを一刀両断する威力……あれは一体?」
「両断するだけならソフィアでも可能じゃないか?」
彼女には『スピリットワールド』もあるし……と思っているとソフィアはかぶりを振った。
「明らかに魔力が異質でしたので……新しい技、ですか?」
「まあ、そうだな。魔力はずいぶんと変わっているけど、やっていることはそう複雑でもないぞ」
「どういう技なのだ?」
食いついてきたのはエイナ。気付けば他の仲間達も話を聞きたそうにしている。
「そもそもルオン殿、あの技は切り札という形で隠し持っていたのか?」
「ここまで使わなかったのはまだ未完成だからだ。さっきの戦いで俺の剣が発する魔力がずいぶん変わっていることはソフィアを含め認識できたと思うけど……本当なら、あんな風に魔力を発することなく、理想を言えば他の技と同じように……見た目を変えることなく発動させたいと思ってる」
「できるのか?」
「技そのものが開発途中だから色々粗があるだけで、改善方法はいくらでもあるからな。ま、なんとかなるさ」
「以前、私は技の開発を推奨したわけだが」
と、エーメルがニヤニヤしながら語る。
「見事それを実践したわけか」
「あの会話で今後やるべきことが思い浮かんだからな……といっても、さっきも言った通り技の内容そのものはそう複雑じゃない」
そう前置きしてから、喋ることに……ただ、組織のメンバー以外にも幻獣ジンなんかが耳をそばだてているのが気配でわかる。
俺はどう説明するか頭の中で言葉を浮かべる。ゲーム知識を基にして開発した技なので、上手くこっちの世界で言語化しないといけない。
「えっとだな、俺がやったのは特殊効果の付与だ」
「特殊、効果?」
ソフィアは首を傾げる。まあこれだと意味がわからないよな。
「人間の作る武器で、例えば竜相手に大きくダメージを与えることができる剣とか、あるいは獣相手に威力が上がる剣とか、あるだろ?」
ゲームで言えばドラゴンスレイヤーとか、ビーストスレイヤーとか、そういう名称がつけられているものだ。名前を冠したタイプの相手に対し、ダメージ量が大幅に増加する。
「俺がやったのはそれと同じようなことだ。基本、俺達の戦いは魔力障壁を攻撃によって突き破ってダメージを与える……竜に大きな傷を負わせられる特殊な武器は、竜の魔力を解析して魔力障壁を突破しやすくなり、かつ威力も上がるって仕組みになる。人間は竜という存在を分析し、武器を開発したわけだ」
もっとも、ここで言う竜とはあくまでシェルジア大陸にいる野生の竜に限定される。アナスタシアなどの竜ではさすがに通用しない。
「で、俺が着目したのはそういう特殊効果……これまでは修行で得た力を用いて真正面から打ち合ってきたわけど、そこから今よりも攻撃力を大きく上げるには……相手に合わせた効果を剣に付与することができれば、と考えたわけだ」
ゲーム上でもドラゴンスレイヤーを使った場合のダメージは桁違いだった。つまりそれほどの威力を剣に乗せることができれば、俺の攻撃力が格段に上がる。
この訓練でもっとも期待したのは相乗効果だ。ゲーム上で大きくダメージが跳ね上がったことを踏まえれば、俺の持っている攻撃能力に特殊効果が加われば、それだけで劇的に威力が上がる。
「なるほど、理屈はわかる」
と、エーメルが声を発する。
「だが、言うのは簡単だがそれを実践するのは無茶苦茶大変だぞ? もっともその大変な点をどうやらそっちはある程度解決できているみたいだが……何せ、幻獣相手にも通用しているわけだから」
ソフィア達も頷く。うん、さっきルグの頭部を両断したのは、特殊な効果が見事働いたから……効果については実証されたわけだが、
「そうした効果を与えるには、敵の特性を把握しないといけませんね」
と、エーメルに続きソフィアが言及する。
「ルオン様が様々な特殊効果を付与できる技術を持っていたとしても、それを敵にきちんと与えるためには相手がどういうタイプなのかをきちんと把握しなければいけませんよね?」
「そうだな。さっきのルグに対しては、見た目的に獣を殺す特性を付与したから……という仮説が成り立ちそうだけど、幻獣にそんなものが通用するとは到底思えないよな。実際、俺がルグの頭部を両断できたのは獣の特性が有効に働いたからじゃない」
「ではどういう効果が?」
「……実を言うと、俺も明瞭にこういう効果だと断言することはできない。さっきやったのは、戦っている間に相手の魔力を解析し、それに合わせて攻撃力が上がる魔力に変える……つまり、相手のタイプを独自に分析して有効な効果を導き出したってことだ」
その言葉に、ソフィアの目が点になる。
「あの……そっちの方がよっぽど難しいのでは?」
「まあそうかもしれない……俺がこの技を開発したのは、竜だけに効果があるとか、そういう限定された性能ではいけなかった。戦いの中で見極めいかなる相手に大ダメージを与える……そういう技術が必要だったんだ」
「無茶苦茶だな」
そうエーメルは述べる。うん、やっていることは俺自身無茶だと思う。何せただ単純に戦うのではなく、相手を分析しながら戦うわけだし。
「では、どうやってルグの特性を知り得たか……その説明をしようか」
そう述べ、俺はなおもソフィア達へ説明を続けた。




