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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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赤き剣

 俺は一歩、ルグへ近づく。今回使用する技については初動が全てだ。魔力が異質であるため理性を失ったルグが相手でも警戒される可能性が高く、発動したら即座に相手に叩き込む必要がある。

 まだ完成して間もないのでこんな具合になってしまっているが、可能ならば目立たないような加工も必要だな……今後の課題ということにして、今は目前の相手に集中する。


 ルグはこっちの動きを警戒し、近寄ろうとはしない……ここまで猛攻を仕掛けていたこともあるし、次はどういう手で……頭の中で推測をしている模様。

 理性は消し飛んでいるのは間違いないが、そうした中でもきっちり思考能力は生きているのか。ただ本能がむき出しになっているのは間違いなく、下手なことをすればどんな動きをするかわからない。


 よって、俺も注意を払いつつ……静かに剣へ魔力を集める。それにルグは口を開けることで応じる。ブレス系の攻撃だ。

 俺はそのまま受けるか避けるかだが――ここで、避けることを選択した。先ほど食らった際に攻撃の範囲は見極めている。魔力障壁で防げるはずだが、剣に意識を集中させている以上、余計な攻撃は受けるべきではないという判断だ。


 ただ、その動きによってルグもまた反応――どうやらこっちの動きが今までと違ったため少しばかり警戒した様子だ。

 ただ、そうであっても一歩遅かった。俺の技が発動し、周辺に魔力が反響する――!!


 ギシリ、と一度空気が軋むような音が聞こえた。いや、それは魔力を解放したことによる幻聴だったかもしれない……ともかく、技は無事に発動させた。

 俺の刀身には、これまでとは異なる魔力が収束している。色で言うならば赤。刀身を中心に渦を巻くように形成されたそれは、今までとは違う攻撃であることを如実に物語る。


 ルグの反応は極端だった。こちらの攻撃が異常と見るや否や、即座に足を後方へ向けようとした。理性を失った幻獣相手にこの反応……俺の技は、十二分に価値のあるもので間違いないようだ。

 そして、相手の行動よりも先に俺は、剣を薙ぐ。狙いはルグの左頭部。ダメージを受けいまだ硬直が抜けきっていないその部位へ目掛け、俺は渾身の剣戟を叩き込む。


 直後、刃が入る。その瞬間、赤の魔力がさらに一際強く輝いたかと思うと、斬っている感触がなくなった。

 いけると判断すると同時、俺は剣を振り抜く――直後、ルグの左頭部が、根元から両断された。


「何……!?」


 さすがの結果にオルーが驚愕の声を発する。


「貴様、どうやって――」


 だがその問い掛けは悪手だった。一瞬の隙……俺へ視線を注いだことで、幻獣ジンがオルーへと間合いを詰める。

 相手も即座に剣を構え受けようとしたのだが、後手に回った戦況は最後まで覆ることはなかった。


「終わりだな」


 トン、とジンの拳がオルーの体に触れる。剣はとうとうオルー自身を守ることなく――拳から発せられた魔力破壊能力は、見事敵の体を貫いた。


「があっ――!!」


 苦悶の声。すかさずオルーは退こうとしたのだが、そこへ追撃としてテラの魔法が飛来する。槍ほどの光が完全に隙を晒したオルーへと降り注ぎ、その体がズタボロになっていく。

 そしてジンがトドメとばかりにオルーの脳天へ拳を当てた。それにより相手の体は吹き飛び、倒れ伏した瞬間、消滅し始める。幻獣の長であるオルーの、あまりにあっけない最期だった。


 残るは幻獣ルグ。それに対し俺は刃を差し向け、勝負を決めようと動く。

 ルグは吠え、なりふり構っていられないか残る二つの頭部が俺へと襲い掛かる。その所作はこっちの体を口破ろうとするようなもの。もしここでブレス系の攻撃だったら一度後退もあったのだが、頭部の一つが失われたことでそうした思考能力が働かなくなっているのかもしれない。


 ルグの攻撃はひどく直情的で、頭部を失ったことによる痛みなどを誤魔化すような苦しい動きだった。無論、俺がそれを見極められないはずもなく、攻撃をひらりとかわした後、今度は中央部の頭部へ向け剣を放つ。そして赤い魔力が周囲に弾け――切断に、成功した。

 それと共に、ルグの体は地面に倒れ伏す。まだ頭部は一つ残っているが、さすがに戦う余力はない様子で、体が消滅し始めていた。切断された頭部も消滅を開始しており、この戦いは俺の完全勝利という形で幕を閉じそうだ。


 ただ、戦いはまだ終わっていない……森からはまだリザードマンやルグの配下である狼が出現している。そればかりか、幻獣の長が倒れたことにより声を奮い立たせている。

 長が消えれば恐怖に駆られ逃げ出すか、それとも逆上するかの二択だと思っていたが、どうやら後者のようだ。彼らにとっては弔い合戦。もっとも、戦力差を考えて勝つのは厳しいとわかっているはずだが、


『さて、いよいよ戦いも終盤だ』


 冷静にテラは言葉を紡ぐと、魔法の矛先を狼へ向けた。


『襲い掛かってくる以上は、こちらも戦う必要がある……覚悟は、できているな?』


 彼の問い掛けに対し狼達は遠吠えで応じる。戦う気のようだ。

 さらにゴーレムの数が増し始める。このまま逐次投入しても勝てないと悟ったか、限界まで呼び寄せるつもりのようだ。


「ジン、全員倒すつもりなのか?」


 俺の問い掛けに彼は肩をすくめ、


「向かってくる奴らとは戦わないとまずいだろ。たぶん戦う意思のない存在だっているだろうし、そいつが次期この島の長ということになりそうだが」


 ……まあ向こうに戦意がある以上、こっちは応じないとどうしようもないか。

 俺は剣を構え直す。既に先ほどの技については効果が切れ剣には何も魔力が乗っていない。


「さっきの技、どういうものだ?」


 ジンは興味津々で尋ねてくる。こちらはそれに苦笑で応じ、


「後で説明するさ……今は敵の撃破を優先しよう」


 長の仇、ということで狼の中には俺へ向け敵意を持っている者も多い。だが仕掛けるより先にテラが魔法で援護してくれたりもするため、問題はなかった。


 ――そこから戦いはおよそ一時間ほど続いた。とはいえ長が二人も消えてしまった相手にこっちの戦力を崩すほどの勢いはなく、戦いはまさしく一方的なものだった。


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