オリジナル
『おそらくルオン殿はルグの攻撃を受けると、何か引っ掛かる感触を受けたはずだ』
「ああ、確かに。その理由がわかるのか?」
『簡単に言えば、魔力障壁に干渉して無力化しようとしている。どうやらルグは自身の魔力に触れたものについて、操作できる能力があるらしいな』
……ふむ、それこそルグが持つ能力の本質なのか? それとも地底の力によって与えられたもの?
魔力障壁は魔力を壁のように形成したり、あるいは糸のように編み込んだりして防御する。普通魔法攻撃はそれを外部から破壊しようとするわけだが、ルグの能力はテラが言うところによると違うみたいだ。
『魔力障壁を含め魔法には維持するための術式が組み込まれている。この術式に干渉して魔力障壁よ、消えろと命令するわけだ』
はー、それなら魔法もあまり意味はないな。でも、俺に通用しなかったが。
『ルグが能力を発動するには、魔力障壁の内側にわずかでも魔力を潜り込ませる必要がある。つまりルオン殿体に触れ、命令を変えるよう指示するわけだ。けれど通用しなかった……ルオン殿の魔力障壁は、隙間すらない完璧なもの、というわけだな』
――俺は単に絶対死なないために色々頑張った結果、魔力障壁も完璧にしようと修行したのだが、それが功を奏したか。ただ、これは一つ大きな情報だな。これがルグ本来の能力がどうかは不明だが、地底の力についても同様の処置ができる可能性はある。
もし魔力障壁で完璧に体を保護していなければ、内側に潜り込まれてあっさりやられるところだろう。攻撃だけでなく、防御についても完璧に……いや、むしろ防御を優先すべきだな。
話をする間にルグは態勢を立て直す。俺の攻撃によって三つの内左側の頭部はまだ苦悶の表情。中央は斬撃を受けてもまだ健在だが、どうやら怒りに満ちている様子だ。
俺は一度素振りをしてから、魔力を高める。こっちはまだまだ余裕はある。そして幻獣ルグについては負傷はしたが戦えるという様子……長期戦も覚悟すべきか。
現状、仲間達が善戦しているとはいえこの膠着状態がいつまで続くかはわからない。オルーの表情を窺えば圧倒している俺に対し何かしら思うところがある様子だが、幻獣ジンと対峙しているため手出しはできない。ただ、さすがにルグがやられそうになったら多少なりとも妨害してくるだろう。それで俺がどうにかなるって可能性は低いけど、最悪のパターンだとルグに逃げられる恐れがある。
さすがにここで逃げられるのは勘弁願いたいため、可能であれば妨害されることなく仕留めたい……となれば、
「あれしか、ないか」
頭の中で一つの技を思い浮かべる。それは、魔界での戦いが終わり組織を設立して以降、とある会話をきっかけに編み出した技だった――
「なあ、一ついいか?」
偶然デスクワークがなく、剣を振る時間があったので訓練場で汗を流していると、ふいにエーメルから声を掛けられた。
ちなみに他のメンバーはエーメルによって全員もれなくダウン。実力差はまだまだといった案配だった。
「そっちの事情を聞いて、この世界における技を色々と習得していることは納得できるが……疑問がある。ゲームにはないオリジナル技っていうのは、ないのか?」
――今まで、俺が使っていた技はその大半がゲームに基づいたものだ。小さい頃から修行する際、ゲームの知識が何よりも良い指標となったし、実際にゲームのイメージを利用して鍛錬したらきちんと技を習得できたことも大きい。
そして俺の能力からすれば、そうした技だけでこれまで対処できていたのでオリジナル技については必要性もなかった……まあソフィアとの融合魔法とか、敵を打ち破るために応用的な技術を習得したりはしたけれど、現状ゲームで言うところの固有技みたいなものはゼロとはいかないけれど、そう多くはない。地底の力に対抗するべく技を開発していたケースもあったが、現在は敵の力を知るのが先ということで、今は中断していたするくらいだ。
で、現状ソフィアの持つ『スピリットワールド』みたいに、切り札と呼べるものは――
「いや、別にそういう技を体得した方がいいって助言しているわけじゃない。単純にそれほどの技量があるのなら、技や魔法の開発をしてみてもいいんじゃないかと思ったまでだ」
「うーん、そうは言っても……」
疑問なのは一から技を開発するのと、今手持ちにある技や魔法を鍛えるのと、どちらが早いのかということだ。
「私が思うに、チャレンジ精神が足らないと思う」
さらにエーメルが述べる。なんだかもっともらしいことを言い始めたぞ?
「そもそも地底に眠る力なんて奇天烈な敵なんだ。こっちだって型にはまって戦うだけじゃ足りないかもしれないぞ?」
「お前、俺が技開発した方が面白そうな展開になるから言っているだけだろ?」
「バレたか」
隠す気が一切ない。俺はわざとらしくため息を吐き、
「一理あるかもしれないけど、正直今から開発して間に合うかどうかもわからないからな」
「しかしどんな敵であるのかわからない以上、自分にないものを技や魔法を開発してカバーするとか、どうだ?」
……それよりもガルクとかに新しい技とかを教えてもらった方が早いのではと思うんだけど、どうなのだろうか。
ただ、エーメルの言い分も一理あるのは確か。もしかすると神霊とかの技法が通用しない……例えば神霊の魔力とかに耐性があるとか。あるいは神霊が構築する技術に何かしら対抗手段があるとか。
うーん、エーメルから改めて言われると気になってしまうな。けど、具体的にどうすべきなのか。
「そんな深く考える必要はないと思うぞ」
と、悩む俺に対しエーメルはさらに続ける。
「ほら、手持ちの技を強化するとかだけじゃなく、何か能力を付与するとか。あるいは魔法剣を作り出すとか……そっちはこの世界のことを別の視点から見ることができる以上、何か考えとか浮かびそうだが」
無茶を言う魔族……俺は「考えておく」とだけ答えて、ひとまず訓練を切り上げて休もうかと思う。
その時にふと、考え込む。もし何かしら習得すべきだとすれば――
「地底の力が驚異的なのは間違いない……とすれば、必要なのは絶対的な攻撃力、かな」
どれだけ防御しても攻撃が効かなければ意味はないわけだし。けど単純に強力な技を作るとかだと、これまでと一緒だしなあ。
そう思った時、俺はこれまでの戦いを思い返し……あることを思いついた。
「そういえば、一つだけ成し得ていないことがあったな」
それを目標に、技の研究とかをしてみるか……その時、俺は確かにそう思ったのだ――




