技術の昇華
俺がルグへ向け仕掛ける間に、戦況が少しずつ変化していく。まず仲間達は次第幻獣との戦いにも慣れ始め、ゴーレムなどの撃破も効率良く行えるようになった。よって俺が観察していた時よりも撃破ペースが上昇。なおかつ狼やリザードマンも動きに鋭さが増した仲間達に苦戦している模様。というより完全にこちらが押し始めている。ただし敵の数はまだ減ってはおらず、しばしこの戦線を維持する必要がありそうだった。
もっとも、仲間達の中で疲労を見せている者は誰もいないため、余力は十分ある。なおかつテラの部下達も盛り返しており、さらにソフィア達と連携をし始め、もう少し経てば撃破ペースがさらに増すことになるだろう。
一方、最前線に立つ俺達だが……ジンはまだオルーとにらみ合っている。どちらかが俺やルグを狙うことになれば、もう片方が妨害に入るだろう。互いに牽制し合っている状況であり、俺とルグの戦いがどうにかなるまでは膠着状態が続くことになりそうだ。
そしてテラについては、完全に俺に対し援護に注力する形。彼のカバー範囲はかなり広く、前線全体に魔法を浴びせリザードマン達を牽制、撃破している。詠唱などもなくテラが視線を向けるだけで敵が消し飛ばされていくため、その攻撃は爽快の一言。あの調子ならば彼も問題はないだろう。
よって、この戦いの趨勢は俺とルグの戦いに絞られた……先んじて俺が剣に魔力を注ぎ、一閃する。直撃した場所は三つの首の内、中央。一気に間合いを詰めたことでルグは回避するタイミングを逸し、刃はしかと脳天に直撃した。
結果は……ダメージはあったようだが、それだけ。以前戦った巨人と同様、その耐久性は受肉したこともあって相当強化されているとみて間違いなさそうだった。
まあ元々はジンやテラの攻撃を受けきるために強化したのだ。これくらいの能力があってしかるべきなのかもしれない。
ただ、ノーダメージというわけではないし、このまま猛攻を仕掛け続ければいずれ崩れるだろう……ここでルグが反撃に転じる。左右の口が大きく開いたかと思うと、喉奥から魔力を感じ取った。
「ブレス系の攻撃か」
炎か、氷か、それとも……色々予想する間にルグの攻撃。炎を伴ったブレスであり、それが左右同時に――範囲も広く、俺が接近していることもあって避けることはできるが仕切り直しという形になる。
俺は魔力の多寡を一瞬にして把握し、魔力障壁を高め受けきることを選択。炎が俺の体を駆け抜けるが……その直後、
「ん?」
パシッ、という障壁に何かが当たったような音。いや、これは魔力障壁に干渉しているのか?
疑問はあったがダメージはゼロなので俺は炎の中を突き進む。そして大きく口を開ける幻獣ルグの喉へ向け、突きを放った。
剣を突き刺してしまえば抜けなくなる可能性があるので、突きと同時に魔力の刃を放つ。長剣の汎用技で名前は『飛翔剣』。見た目は決して派手じゃないシンプルな技で、本来は剣を振ることで発動するものだが、今回はアレンジしたバージョンとなる。
その効果も本来のものとは劇的に変化しており、実質『飛翔剣』を参考にしたオリジナル技と言ってもいい。螺旋を描くような魔力の流れを作り、直撃すると渦を巻いて対象を抉り貫くという凶悪な技になっている。果たして――
攻撃目標は俺から見て左の頭。魔力の刃が喉の奥へ吸い込まれ、やがてビクリと一度ルグが震えた。
『――ガアアアアッ!』
獣の雄叫びが森の中に響く。直後、ゴアアアッ、という風の発生するような音がルグを中心に発生したかと思うと、突きを決めた頭部の後ろ側から、魔力が抜けた。
そして肉を抉る重い音……目論見は成功し、俺の魔力はルグの頭部を駆け抜け、貫通した。
……本来の技にはここまでの威力はなかったのだが、エグさが増すような手法を提案したのは魔族エーメルである。下級の技や中級技でも使い方次第では相当威力が出る……そう彼女は解説し、実際俺がやってみたところ、目前のように幻獣にすら通用する一撃へと昇華した。
俺が全力で魔力を込めたというのもあるけど、理由はそれだけではなく魔力の収束方法……つまり技術も関係している。切っ先に魔力を集約し、それを束ね螺旋を描くようにする。単なる魔力の刃が回転し魔力が束になることで集約できる魔力量が増加し、さらに鋭さも増加。一点集中の攻撃……これがエーメルの提案した技術の本質である。
これから地底の力と戦っていく上で、派手な攻撃ではなく、こうした洗練された技術が俺達人間には必要になってくることだろう……そんな考えを抱く間にルグがまたも吠える。ご立腹の様子だ。
「ともあれ、技が通用したのは収穫だな」
体面を覆う表皮には相当な力が込められているに違いないが、体の内側は違っている――こういう理由もあるだろうけど、何より地底の力を得ても俺の技が通用している。過去に地底の力そのものと戦ったこともあるけれど、幻獣などの力などが加わっても通用するというのは、良い発見だ。自信を深めることができた。
俺は吠える幻獣ルグへ向け追撃を仕掛ける。見た感じ苦痛にあえいでいるようなので、この隙を活かさない手はない。仕留めるべくラッシュを叩き込もう。
剣を薙ぐと、今度は中央の頭部へヒット。わずかながらルグはよろめいたので、俺はこの斬撃を起点にして猛攻を開始した。
一瞬で俺は、ルグへ向け四連撃を決める――この場においてその流れを捉えることができたのはたぶん少数。組織のメンバーであっても少ないかもしれない。
立て続けに斬撃が決まった直後、ルグの頭部中央は明らかに動きを鈍らせた。そこで残る右側が口を大きく開け、再びブレスを放つ。
先ほどのように喉奥への攻撃は通用しないだろう。警戒しているのが俺でもわかる。よってブレスはあえてそのまま受け、中央へさらに剣戟を叩き込むことにした。
ガガガガ、と金属がルグの表皮に当たることで音を上げる。その最中、俺は再びブレスを受けたことにより障壁に何かが当たるような音を聞いたが、それ以外に変化はない。よってしつこいくらい剣を決め続け……やがて、ルグは引き下がった。
追撃するか迷ったが俺は立ち止まる。一度ルグの状態をしっかり確認し、次どう動くか判断しようと思ったのだ。
『……完全に、ルグの目論見を潰しているな』
そんな折、横からテラの声が。一瞬だけ首を向けると俺にもわかる苦笑で、テラは口を開いた。




