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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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通用しない理由

 ジンの能力が通用しないというカラクリを解明したところではあるのだが、俺はそれよりもこの状況を覆す必要があると思い、ルグへ走る。


「ほう、人間も動いたか」


 オルーが呟くのを耳にする。問題は俺のことをどう評価しているのか。幻獣テラから大なり小なり情報はもらっているはずだが、ジンの能力を弾き飛ばしたことで油断しているか、それとも――

 一方でジンは体勢を立て直して再び幻獣ルグへ挑もうとする。相手は……三つの首が俺とジンを射抜いたかと思うと、咆哮を撒き散らした。


 やる気満々の様子だが……俺はオルーに目を向ける。こちらの動きに応じようと構えている風にも見えるが、先ほどテラから妨害されたこともあるため、まずは静観といった様子。

 いや、あるいは俺の力量を確認するためにわざとルグと交戦させるか……個人的には一撃で倒せればお仕舞いで楽なのだが、変わり果てたとはいえ幻獣の長だ。そう簡単にはいかないか。


 俺は剣に魔力を込め、振りかぶる。相手の動きはジンと俺、どちらを優先すべきか一瞬ではあるが迷った様子。

 それにより生じた隙は、俺が攻撃をするのに十分過ぎるもの……フルスイングするような形で放たれた剣戟には魔力……前方の広範囲に衝撃波を拡散させる最上級技『神威絶華』だ。


 それこそ、目前にあるルグの首を消し飛ばす勢いで――刹那、刃が入った。それにより目の前が白く染まる――!

 ゴアッ、という形容の音が周囲に響いたかと思うと、一気に世界を染め上げる。視界が完全に白くなる直前、オルーが攻撃に飲み込まれそうになっているのを確認。うん、ルグを狙いながらオルーも攻撃する意図があったのだが、これは成功したようだ。


 そして雄叫びが再び聞こえる。苦しそうなものだったがさすがに断末魔のようなものではなく、ダメージを受けて痛がっている感じだ。

 やっぱり一撃とはいかないか。俺は巨人のことを思い返し、地底の力を受けている以上はあれくらい……いや、あれ以上の耐久力を所持していると考えて戦うべきかと思う。


 ともあれ俺からすればルグの動きは緩慢で、相手の攻撃が来るまでに仕掛けることはそう難しくない……あくまで現時点では。見た目からして理性を失っているとはいえ、さすがに攻撃パターンそのものが変わらないというわけではないだろう。ここで負傷し、その結果どうなるかを注視しなければ。


 技を放ち終え、俺は一度後退。ジンの近くへやってくると、一つだけ質問した。


「なぜ通用しないのか……わかるか?」

「いや、原因はわからないな。そっちは攻撃した感触としてどうだった?」


 逆に問われ、俺は少し考える。うーん、そうだな……。


「違和感があったのは確かだ……いや、これはもしかすると……」

「何か思い浮かんだか?」


 聞き返したジンに俺は口を開こうとした矢先、突如白い世界がかき消えた。見ればルグが相変わらず唸り声を上げる姿と、どこか怒りをみなぎらせているオルーがいた。


「やってくれるな、貴様……!」


 あ、怒っている。実質だまし討ちみたいな形で攻撃したからな。

 ただこれ以降、油断はしてくれそうにないな……というか根本的に、俺の技をある程度当たって多少のダメージで済んでいるのだから、やはり相手はさすが幻獣の長、といったところか。


 このまま接近戦で挑んでもいいのだが……俺は次の手を打つ。ジンやテラが先んじて動きより早く、魔法――『ラグナレク』を発動させた。

 俺の頭上の空間が歪み、巨大な光の剣が姿を現す。それを見たオルーが舌打ちするのがはっきり聞こえた。


「いけっ!」


 そして俺は叫ぶと魔法を射出――直後、オルーは横へ逃れようと移動を始める……そうはいくか!

 ルグはこちらの魔法に対し咆哮を上げることで応じた。どうやら魔力障壁を構成するようで、光の剣が直撃すると、破砕音が聞こえた。


 どのくらいダメージが出るか……と沈黙していると、やがて光が消えて再び視界にルグが見えた。見た目はそれほど変わっていないが……、


「ガルク」

『うむ、ルオン殿の見解通りだろう』


 話そうとした矢先、ガルクから返答。どうやら俺と同じように色々と検証したようだ。


「ジン、攻撃が効かない理由がわかったぞ」

「何?」

「というか、たぶんこれは幻獣にとって盲点なんだろうな……幻獣達が住まう場所であるため、わからないってことか」

「それは、どういうことだ?」

「攻撃が通用しないのは、その体が魔力で構成されているわけじゃないからだ……つまり、幻獣ルグは受肉している」

「受肉……!?」


 ジンが驚愕の声を上げ、さらにテラが目を細めルグを眺める。


『そうか、ジンの能力が効かないのは、そもそも肉体であるため破壊ができない……外部に魔力障壁を構成していればジンは破壊できたかもしれないが、それらを全て体の内に内包し、肉体の耐久能力を頼っているわけか』

「そう。俺が島で戦った巨人のように、相当な硬度を肉体で構成している……とても単純だが、幻獣の長が理性を飛ばしてまで得た力だ。恐ろしい能力に昇華している」

「タネがわからなければ、俺は無闇に突撃して負けていたな」


 ジンは息をつく。自身の能力が通用せずどこか悔しそうであった。


「画一的な能力だから、対策される可能性はあったんだが……魔力を使って戦う以上、対抗できる存在……ましてや幻獣がいるとは想定もしていなかった。こればかりは完全にしてやられた形だな」

「どうする?」

「能力が通用しなければ他の手段を用いる他ないわけだが……まあどうにか立ち回れるが、厳しい戦いになることは間違いないな」

「なら俺が戦っても?」


 問い掛けにジンはこちらを一瞥し、


「……どうやら、任せるしかなさそうだな」

「なら幻獣オルーを頼むよ」

「ああ、いいぜ。適材適所といこうじゃないか」


 こちらは頷き、ゆっくりと幻獣ルグへと歩み寄る。それと同時に魔力を高め、真正面から対峙する。


 さて、地底の力を得ている存在との戦いだが……今回はなんだか暴走状態にあるし、一体どういう形で力を得たのか気になるな。

 まあ理性を失っている以上、ルグに尋ねても答えは返ってこないだろうけど……俺は呼吸を整える。難敵である以上はこちらも全力で応じる。


 ジンが俺の指示通りにオルーと向かい合う。どこか挑発的な雰囲気を発し、迎え撃って滅してやろうという心持ちがはっきりと感じられる。

 一方でテラは周辺のゴーレムやリザードマンを掃討……露払いをしてくれるらしい。ならば、思う存分にやろうか。


「……いくぞ」


 静かに声を発すると同時、幻獣ルグは吠え、俺は最大の敵へ向け走り始めた。


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