仲間と課題
地底の調査以後、俺とソフィアは新たな目的を携え、闘技場のある都市ガーナイゼへと向かう。一番の目的はソフィアの剣術強化。
そして現状、アルトを含めた主人公達は色々と動いてはいるが、五大魔族に挑むような姿勢は見せていない。魔族が居城を構えているという情報は俺達にも把握できているので、彼らの耳にも入っているはず……だが今の所は動いていない。
今後は五大魔族との戦いになった場合、ソフィアに賢者の力を入れるためそこへ急行しなければならないわけだが……今のところは大丈夫だろう。残る五大魔族は四体だが、そのうち二体は前提となるイベントを起こさなければ発生しないため、それについて観察していれば時間的な余裕はある。
もう一体は五大魔族を二体以上倒さなければ戦うことができないため、現時点では放置で問題なし。最後の一体は今から向かうガーナイゼから近い場所に居城を構えている。もし次に戦うとなるとこの場所の魔族だろうかとなんとなく思っているのだが……進行方向に存在しているので、対応することができるはず。
また、ソフィアの『バードソア』に対する扱い方をおさらいする。レベルも上がり制御面についてはほぼマスターしたようなので、旅程を早めるために使ってみる。持続時間の問題があるため町から町へ、ということは難しかったが、それでもずいぶんと短縮することはできた。一応完成と言ってよいだろう。
至って順調なのだが、問題が一つ。今後五大魔族と率先して戦っていく上でさすがに二人だけでは辛いだろう。俺が援護に立ち回るにしても、力が露見する可能性に加え、前衛が彼女だけでは限界もある。よって、
「仲間を加えないといけないだろうな」
ガーナイゼまであと数日という町で夕食をとりつつ、俺は語る。
「仲間ですか」
ソフィアが言う。雰囲気的には同意の様子。
仲間、といっても一つ問題なのは俺やソフィアが『バードソア』によって高速移動をする点だが……これについては一応考えがある。魔法に高速移動の魔法があるように、技にもそうした技法が存在する。
それは特定の騎士や闘技場にいる闘士などが所持していた。基本的な使い方は相手の背後に回るなど、敵と相対した場合に使用する補助動作なのだが、『バードソア』と同じく移動手段としても使える。仲間になるキャラでそれを習得している人物がガーナイゼにはそこそこいるので、条件として考慮してもいいだろう。
「ガーナイゼで仲間探しを?」
ソフィアが問い掛ける。俺はすぐさま頷いて、
「そうだな……今後居城を構える魔族と戦うなら、俺は後方支援しかできない……よって、前衛が最低もう一人。そして、魔法使いが最低一人は欲しいな」
「そうですね……ふむ、前衛はともかく、魔法使いはガーナイゼでは難しいかもしれませんね」
闘技場がある場所だから戦士ばっかりというイメージがある……ソフィアもそうした解釈のようだ。
「いや、闘技場に入り浸る魔法使い……近接攻撃が得意な魔法使いとかもいるにはいるよ」
「そうなのですか」
「ああ……とはいえ、そういう変則的な人選よりはやっぱり戦士系を探す方がいいな。ソフィアが魔法も剣も扱えるから、もう片方の戦士は物理攻撃特化とかでもいいかもしれない」
俺は言いながら頭の中にガーナイゼで仲間になるキャラをピックアップする。闘技大会に関するイベントなどを用意しようとしていた名残からか、ここで仲間になるキャラは多い。その中、誰を仲間にすればいいか考えてみる。
高速移動手段を抜きにして考える場合でも、ソフィアは万能型と呼べる成長の仕方をしているので、どういう人物が加わっても連携はとれるだろう。ただ、ここで気になるのはゲーム上の特性と現実とは異なること。
ゲームでは防御力を高めゴリ押しを行うことが可能だったが、現実では基本回避を主体に戦う。なおかつ乱舞、連撃系の技は敵に止められる可能性があることを踏まえると、単発攻撃力の高い人物の方がいいかもしれない。
ちなみにガーナイゼで仲間になるキャラ、と聞くと筆頭に上がる人物がいるにはいる。ただその人物はあくまでゲーム上強かっただけで、ゲームと異なる戦い方が幅を利かせる現実世界でどこまで戦えるのかは、疑問が残る。
仲間になるキャラが多い分、特性も様々。その中で成長率なども加味してソフィアと相性がよさそうなのは――
「ルオン様、一つ疑問が」
ここでソフィアは声を上げる。
「闘技場で戦う者を仲間に加えるのは、戦力としても十分だと思いますが……私達の行動に賛同してくれるでしょうか?」
あー、そうだな。ゲームと違って単純に話し掛けて仲間になるのとは違うだろう。その辺りも色々考えないといけないか。
まあ、この辺りは当たって砕けろとしか言いようがないな……精霊探しとは異なり、仲間探しはもしかすると時間が掛かる可能性もある。その辺りも覚悟しつつ、行動する必要があるだろう。
「……とはいえ、だ」
そこで俺はソフィアに言う。
「ガーナイゼに行く大元の目的は、ソフィアの剣術強化だ。まずはそこをしっかりとした上で、仲間探しということにしよう」
「わかりました」
ソフィアは承諾し、会話は一区切りとなった。
夜、一人で色々と考えていると、レーフィンが部屋を訪れた。
「どうしたんだ?」
「仲間探しということですが、候補はいるのか気になりまして」
「物語に出てくる登場人物がいるから、そこから選定することになると思う」
「その中で、優れた使い手は?」
レーフィンは言うと、俺に近寄りわざわざ小声で発言する。
「ソフィア様が賢者の力を手にし、今後五大魔族と戦うことになる以上、相当な使い手でなければ厳しいと思います」
「……そうだな」
どのキャラも鍛えれば相応に強くなったのだが……問題は闘技場にいる面々のレベルだろうな。放つ技や発する気配などからある程度能力を察することができるのだが……主人公勢の仲間になっていない場合、レベルが低いまま放置されている危険性がある。
ガーナイゼにもギルドはあるので、例えば仕事を受けていて経験値を得ていたという場合は、その限りではないはず。だがもし初期レベルだった場合……時間に余裕があると言っても、初期レベルの人物を鍛える時間はさすがにないだろう。
ゲーム上では強敵と戦えば一気に経験値がもらえレベルもグングン上がったわけだが、現実世界ではそうもいかない……よって、できるだけソフィアのレベルに近しい人物を探した方がいいかもしれない。
うーん、色々と条件があるな。これは結構大変かもしれない。それに俺のことやソフィアのことなど秘密も抱えているし……その辺りのことも考慮が必要だろうか?
「……ま、ひとまず行ってみないとわからないな」
俺は結論を述べる。するとレーフィンは「わかりました」と答え、
「ひとまず、ルオン様に一任するということでよろしいですか?」
「それでいいよ……どうするかは、ガーナイゼに行ってから考えさせてくれ」
「わかりました。ちなみに、ソフィア様を鍛えるための手段も考えているのですか?」
「もちろんだよ。いい場所がある」
こちらの言葉にレーフィンは納得の表情を浮かべ、部屋を出て行った。
さて、剣術強化と仲間探し……物語もいよいよ中盤に差し掛かろうとしている状況。今までとは異なる旅になるだろうと俺は確信しつつ、気合を入れ直すこととなった。




