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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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集う幻獣

 時間にして、およそ三十分ほどだろうか。どんどんと切り替わる景色が突然止まり、俺達を包む巨大な泡が突如海底に落ちた。

 俺達の足も地面につく。そこでテラは周囲を見回し、


『幻獣ルグの島近くに辿り着いた……現在はまだテリトリーの外だ』

「テリトリー?」


 首を傾げながら聞き返すと、テラは説明を施す。


『島全体に加え、近くの海域……といっても精々島の周辺くらいだが、ルグは異変があったら察知できるような態勢を整えている。それは説得するために島へ赴いた際に確認済みだ』

「ルグとの交渉は、戦力分析などの意味合いもあったのか?」

『交渉が主目的ではあったが、戦闘に入った場合のことを懸念して、少しばかり探りを入れたのだ』


 テラとしてはこういう形で役に立つのは本意じゃないのだろうな。


『ルグがもしこちらの戦闘行動を予測できないままであったなら、警戒態勢もそのままのはず。本来ならもっと調べたいところだが、これ以上近づいたら気付かれる』


 レスベイルを使って斥候を、と一瞬考えたがさすがに空とかで観察する場合でも気付かれる可能性は高いか。


『このまま魔法で一気に海中を抜け出し、勢いで島に突入する。そこからはルグの気配を探りながら強行突破することになる』

「覚悟はあるか?」


 ふいにジンがテラへと問い掛けた。


「幻獣同士の争いっていうのは過去に存在していたらしいが、少なくとも俺が長になってからは皆無だった」

『うむ、衝突していたのはずいぶんと昔の話だ』

「それは膨大な力を持つが故に、争えば幻獣が種族単位で消えるため……自滅を避けるべく俺達は今まで不戦だったわけだが、今回それを破ることになる」

『契約していたわけではないが、それでも今まで戦わなかったという事実は重いな……しかし、歩みを止めるわけにはいかない』

「地底の力を信奉する者……だからか」


 ジンの言及にテラは頷く。彼としては『神』に相当憂慮を抱いているようだ。


『覚悟はとうに済ませている……そちらはどうだ?』

「俺もいいぜ……というわけで、始めようじゃないか」


 ジンの言葉と共にテラの配下が魔力を高め始めた。たぶんここから一気に加速して水中を抜け、島へ強引に入るのだろう。

 俺はテラへ視線を移す。それに相手は気付いたか視線を送ってきたが、無言だった。


 直後、テラの配下による魔法が発動し――俺達は再び移動を始める。しかし今までは海底に沿うよう進んでいたのに対し、今度のは斜め上……つまり、島へ上陸するための動きだ。

 考える間にも速度がぐんぐん増していく。大丈夫なのか――少しばかり不安に思った矢先、海面が見えた。


 そして盛大に水しぶきを上げながら、俺達は海中を脱する。間近に見えたのは森に囲まれた島。そこへ目がけテラは配下へ指示を送り、突っ込んでいく……!

 俺を含め組織の面々が無言となる中、俺達は島に突入し、木々を押しのけ地面に結界が突き刺さった。そこで動かなくなると、結界が解除される。


『行くぞ!』


 テラが号令を放つ。俺達への言葉ではなく、配下達のものだろう。それと同時、テラ達は一斉に進撃を開始した。


「先導役はテラだな。それじゃあ俺は奥で構えるか」


 そんな風にジンは呟き、俺へ視線を移した。


「そっちは緊張とかしていないか? 」

「多少は……けど、戦闘に支障はない」

「何よりだ……さて、気合いを入れないと置いて行かれそうだな」


 テラ達は森の中をまるで平原にでもいるかのように駆け抜ける。一方でジンを含めた人間側は、差が開いていく。ただこれは当初の予定通り。

 俺達は結果的にテラ達が作り上げた道を追えばいいだけなので、非常に楽……と、考える間に森が突然開けた。


 現われたのは木々に囲われた原っぱ。広さはそれなりにあり、少なくとも戦闘が起きても立ち回れるくらいの余裕がある。

 その場所でテラとジンは立ち止まり、こちらも同様に足を止める。


「……まあ、なんとなく予想はしていたが」

『それが的中すると、とても憂鬱な気持ちになるな』


 ジンとテラが相次いで呟く。何事かと思った矢先、真正面――木々の隙間から人影が。


「来ると思っていたぞ」


 そう語るのは、人間と同じように二足で歩行し、五体を持つ存在……なのだが、顔はトカゲのようであり、鱗まで持っている。例えるなら……そう、リザードマンだ。


「知った相手か?」


 こちらが尋ねると、ジンはあっさりと、


「長だ」

「え?」

「名はオルー。俺達と同じ、幻獣の長」


 なるほど……その説明で理解できた。つまり、


「確認しておくか。オルー、お前も信奉者か?」


 ――その言葉で、問われたリザードマン、オルーは甲高い笑い声を上げた。


「信奉者……なるほどなるほど。どうやらそちらは事情を理解しているようだ。いかにも、地底に眠りし大いなる存在……その信奉者で間違いない」

「なぜそんな思考に至ったのかは置いておくとして、だ。ここで待ち構えて何をする気だ?」

「知れたこと。貴様らを始末する」

『説得は、無理か』


 テラが語る。その間に彼の部下が周囲に展開していく。


『信奉している以上、話は平行線だからな』

「物わかりが良くて助かる。実を言うと俺は早い段階でここへ来ていた。それも、ルグが人間共に仕掛ける前からな」

「こうなることを予期していたと?」


 次に口を開いたのはソフィア。


「あるいは、私達が来たことが呼び水となり、戦いを仕掛けようとしたと?」

「まあそのようなものだ。遅かれ早かれ戦うことにはなっていた。なら、油断している内に……と思ったわけだが、こちらの見立てが甘かったことは認めよう」


 俺が敵を粉砕したことか。


「だが、それもここで終わりだ」


 直後、周囲の森がにわかにざわつき始める。よく見れば木々の隙間からオルーと同じリザードマンが多数いる。既に囲まれているか。

 索敵は一応していたのだが、こちらに気付かれないように……ここは魔法か能力でも使ったのか。


 加え、重い足音がどこからか聞こえた。俺達の島を襲った巨人……にしては軽いが、似たような特性を持った存在が接近しているのだろう。


「ここで雌雄を決するつもりか」


 ジンが告げながら拳を構える。それにオルーはせせら笑い、


「そういうことだ。直にルグもやってくる……覚悟してもらおうか」

『その言葉、そのまま返すとしよう』


 テラが返答した矢先、森からリザードマンが出現。さらに森から気配が生まれ、視界には色とりどりの狼が。

 ルグの配下も来るか……数で押し込もうという形か? さすがにこれではテラ達も手が余るだろう。


「戦闘準備」


 俺は仲間達に号令を掛ける。直後、ソフィア達は武器を構え――同時、開戦の合図を告げる、狼の遠吠えが聞こえた。


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