後天的な能力
さて、俺達は幻獣ルグに対しどうすべきか、一応話し合ったのだが……結果的に戦うことに決定。
地底に眠る力の信奉者である以上はどれだけ話し合っても平行線。よって幻獣テラやジンと手を組み倒すべき――そういう結論に至った。
「肝心の幻獣ルグの能力は?」
俺が問い掛けると説明を開始したのは幻獣ジン。
「んー、基本的に幻獣同士で能力を語ったりしないからなあ」
『明確になっているジンはむしろ少数派だな』
そう語るのはテラ。
『この私についても人間が知るくらいには知れ渡っている……つまり少数派に属する』
「基本は隠しているのか?」
『その通りだ。ただし、その能力の一端を見ただけである程度推察はつく』
「今回ヒントになったのは、海中で放置された巨人だな」
と、語り始めたのはジン。
「あの巨人の魔力を調べて、少しばかり情報を得ることができた」
「それは?」
こちらが聞き返すとジンは見返し、
「そっちは推察がつくのか?」
「うーん……例えば耐久性を上げることができる、とか?」
「巨人についてはそういう特性を持っていたな」
「つまり、他にも能力を付与できる?」
俺の意見にジンは頷いた。
「幻獣ルグの能力は、俺やテラとは違う他者に付与するタイプのものだな。おそらく特性自体、後天的だ」
「……保有する能力には、先天的なものと後天的なものがあるんですか?」
そう口を開いたのはソフィア。そこでジンは頷き、
「ああ、そこから説明しようか。例えば俺やテラについては生まれた時点で能力が備わっていた……まあそれはあくまで魔力の特性が通常と異なる、といった程度でそれを利用して能力にするためには研鑽を積む必要がある」
「幻獣でも訓練は必要ということですか」
「そういうことだ……人間にとっては先天的な能力というのは羨ましいかもしれないが、これには欠点がある。簡単に言うと融通が効かなくなる」
「その能力に基づいた戦法しかできなくなる、といった感じですか?」
さらにソフィアが問い掛けると、テラが首肯した。
『いかにも。長となるためには自身の能力を御し、さらにそれを昇華させる必要性がある』
「能力を持っているからこその苦労があるってことですね……それで本題に戻しますが」
『うむ、ルグについては自身の魔力を他者……いや、巨人のように物質に付与することもできるようだ。その能力によって得られる効果は耐久性の向上や攻撃能力の増加など単純なものが多いが、その力の一端をルオン殿は理解できたはずだ』
「そうだな」
朝の交戦、俺は魔法を連打することで巨人を文字通りボコボコにしたわけだが、硬度などはかなりあるし、俺以外の面々……ソフィアならなんとかなりそうだけど、他の組織メンバーとかだとかなり苦労するだろう。
「他者に付与するって技術自体、相当なものだ」
と、今度はジンが語り出す。
「ただ相手の魔力に合わせた調整などが必要であるため、基本的には自らの意思で作りだした存在……巨人がその例だな。そうした存在に付与するのが普通だろう」
「部下に付与するケースは少ないと」
「それがすんなり可能だったら、朝の戦いはもっと厄介なことになっていただろう」
うん、確かに。
「ルグがいつ攻撃を仕掛けようと決意したかはわからないが、地底に眠る力の信奉者である以上は、いずれ俺やテラなんかに反逆する危険性があった。つまりそれなりに準備をしていたはずだ。で、その戦力を投入した……と考えることができる」
「事前準備をどのくらい前かわからないけどやっていたと」
「そうだ。その結果が巨人だな」
ジンがそう語ると、続けて口を開いたのは――ソフィア。
「そう仮定した場合、準備期間があったにも関わらず配下の者達に魔力を付与していなかった……これは物質に付与するよりも大変であるとか、そういう理由でしょうか」
「あるいは時間制限があるとかかもしれないな。ほら、人間の魔法だって強化魔法はあるだろうが、効果は一時的なものだろ? それと同じと解釈することもできる」
……能力は生物や物質問わず扱えるが、生物の場合は効力に条件や期限があるってことかな? なぜなのかはわからないが、状況的に配下に能力を使わなかったのは腑に落ちないわけだし、制約があると考えていいだろう。
ゲーム的に説明すると自らが生み出した巨人……使い魔とかゴーレムとか、そういうのに対し永続で強化魔法を掛けられると。巨人の防御能力を踏まえれば厄介ではあるけど、文字で表現するとそれほど珍しい能力というわけではないし、むしろシンプルだな。
「で、これに対する策としては有力なものが一つある」
ジンが続ける。それはこの場にいる誰もが理解し、その中でデヴァルスが口を開いた。
「能力付与に大なり小なり時間が掛かるのなら、戦力をすり減らした今が好機だと」
「そういうことだ」
「……なんというか、ずいぶんと楽しそうだな」
俺の指摘にジンは笑い声を上げる。図星らしい。
同胞が言ってみれば裏切り者だったわけで、その粛正とするなら戦う理由にはなるが……幻獣ジンの場合、単に戦ってみたいって雰囲気にもとれる。
『今回、私やジンも先頭に立って動くことになる』
と、今度はテラが語り始める。
『相手が幻獣の長である以上はこちらも相応の者が必要であり、厳しい戦いも予想される……問題はそちらだ。攻撃を仕掛けられた状況である以上、立場的には被害者だ。こちらに任せ待機してもらっても構わないが』
「相手は、地底に眠る力を信奉する存在なんだろ?」
俺は確認するようにテラやジンへと口を開いた。
「俺達はそいつに挑もうとしている……よって幻獣ルグは、敵と言ってもいい」
『そうか……』
「参戦はする……が、さすがに全員で行くことは難しいな。デヴァルスさん、どのくらい動員する?」
「ここにまた敵がやってくる可能性も否定できない以上は、こっちにもある程度戦力を残しておくべきだが……」
『こちらの主導で動く。場合によっては援護するくらいの戦力でもいい』
テラはそう告げる……ふむ、ここは幻獣達の実力を拝見するのも一つの手か。
俺はデヴァルスへ視線を送る。視線で意図を読み取ったか――彼は小さく頷いた。
俺を含めた組織メンバーが援護のためにテラ達と一緒に向かう……で、もしもの場合は彼らと共に戦う、ってことでいいかな?
「ならデヴァルスさん、誰が行くかを決めようか」
「そうだな」
『攻撃開始は翌朝だ。それまでに私達も準備をする』
と、幻獣テラはまとめた。
『日が昇った段階で仕掛ける……それまでに、人選をしておいてくれ――』




