別れと気配
ガーナイゼへ出発することを決めた翌日、俺とソフィアは宿を出て、アルト達から見送られることとなった。
既にキャルンは出発している。ちなみにステラが伝言を預かっていたらしく、先んじて話を行う。
「次会った時、びっくりさせてあげるから……だそうだよ」
「そうか……まあやる気を出した以上、頑張ってもらいたいな」
俺の言葉にステラは「そうだね」と返答し、
「私達は当分この国にいるつもりだから、もし立ち寄ることがあったらギルドにでも伝言を残してもらえれば」
「わかった……アルトさん」
「――そういえば、いつまでも改まった言い方はやめにしないか?」
彼からの提案。別れ際に今更という感じもするが……いや、別れ際だからこそ、かな。
「……じゃあアルト」
「ああ」
「魔族との戦いはさらに激しくなるのは間違いない。俺達は居城に構える魔族を倒したわけだが……それよりも強い敵だって今後出てくるだろう」
「わかっているさ」
「……死ぬなよ」
「こっちのセリフだ」
笑うアルト。その表情には、レドラスとの戦いを通し得られた確かな「強さ」が感じられた。
「ああ、それとルオンに言いたいことがあったんだ」
「……どうした?」
「レドラスとの戦い……あの時的確にサポートしてもらったおかげで、俺達はこうして無事に生還できたと思っている」
「途中、俺の援護を期待した行動をしていたよな?」
「まあな」
再度笑うアルト。そこまで信用されていたというのは、俺としては結構嬉しい。
「今後、俺も魔族との戦いに加わるかもしれない。ルオン達も当然、戦うんだろう?」
「ああ」
「ソフィアがやる気だもんね」
ステラが言う。ソフィアはすぐさま頷いた。
「ああ、それとイグノス。抜けるなら今のうちだぞ?」
そしてアルトは茶化すように話の矛先をイグノスへ向けた。すると、
「私がいなければ、あなた方兄妹を抑える役目がいなくなるでしょうに」
「丸っきり保護者みたいな言い分だな」
「実際、それに近いと思いますが」
俺やステラが笑い始める。歯に衣着せぬ物言い。
ま、アルトなら大丈夫だろう……そんなことを思いつつ、俺とソフィアは歩き始めた。
「じゃあまたな!」
アルトが言う。俺はそれに手を振り返し――町を出た。
「良い方々でしたね」
ソフィアが言う。俺は素直に頷き、
「キャルンと同じく、魔族と戦い続けるだろうし……長い付き合いになりそうだ」
「そうですね」
ソフィアは同意し――ここで俺は、少しばかり思考する。
彼女が魔王を討つ力を手に入れた以上、ここからは今まで以上に気合を入れて成長させる必要がある。なおかつ彼女は本来ならば死んでいた人物であり、ゲーム上でメインシナリオなど存在していない。従者という立場から、俺の考えで行動が決定する。
そして、問題は彼女がこうした力を手に入れたことで、他の主人公達のシナリオがどういった変化をするのか。アルトについても今後使い魔による観察が必要だろう。
フィリやエイナのシナリオにどう影響してくるのか……変化がないとなれば、今後五大魔族に挑む可能性だって考えられる。だからこそ今後も観察が必要だ。気の抜けない日が続く……いや、今まで以上に彼らの動向を探る必要があるだろう。
頭の中でまとめつつ、俺はソフィアに口を開く。
「激戦から二日経ったとはいえ、まだ体の調子が戻っていなさそうだし、当分はゆっくり進むとしよう」
「はい」
ソフィアは了承……それと共にさらに考える。彼女のことについて、レーフィン達に改めて詳細を話しておかなければならないと思った。
アルト達と別れ旅を始めたその夜、レーフィンとロクトが訪ねてきた。話し合いを始めようかと思ったが、ソフィアについては後回しにして、一つ確認すべきことがあるとロクトは言った。
「レドラスを倒した後、地底の状況がどうなっているか……ってことか」
「はい」
彼の言う通り、確認しておくべきことではあるな……ここからだと少し距離があるけど、どうにか朝までには戻って来られる、かな?
「無理を言ってすみません」
「いや、大丈夫だ。俺も言われるまで気が付かなくて悪い」
というわけで宿を抜け出し、俺達は『ダークドール』と交戦した地底へと急いだ。途中俺はソフィアが魔王を討つ力を得たことを説明し――そこそこ距離はあったがどうにか到達。この調子なら朝までには帰れそうだ。
地底へと入り込み、以前と同じ道のりを辿る。そして『ダークドール』と交戦した場所に来たが……俺が全て倒したためか、魔物の気配などもない。
「もう出てこないのか、それとも時間が経てば出現するのか……」
「その辺りは、我々で調べようかと思います」
ロクトが言う。我々と言うからには、他のノームの協力を借りるのだろう。
「我らが王にはこの件については報告しています。まだ調査に入っていないようですが……」
ロクトの言葉が止まる。俺は立ち止まり、真正面に見えた壁面を眺める。
以前と同様、血管のように無数に枝分かれした漆黒の線が壁面に走っている。だが今回はそれだけではない。まるで鼓動のように数秒おきに壁面から魔力が発せられている。
「レドラスが最後に注いだ魔力により、さらに侵食が広がったと考えてよさそうだな」
俺の言葉にロクトとレーフィンは押し黙った。
「……これが発揮されないようにするには、ソフィアが五大魔族を全て倒す必要がある」
「私達はそれに全力で協力する所存です」
レーフィンが俺へ向き直り告げる。
「ルオン様、魔王が放つ強大な魔法を回避した後、この魔力はどうなるのでしょうか?」
「物語ではその辺り語られていなかったんだよな」
「ならば、防いだ後も残っている可能性を考慮し、調査は行うべきでしょうね」
「ああ……ただ魔族達にそれを知られるのはまずい。事は慎重にしないと」
「その辺りは王も理解されているはずです」
ロクトが言う……レーフィンは頷き、さらに語る。
「ソフィア様が魔王を討った後のことも考えないといけないようですね……ロクト、我らシルフも協力すると王に伝えてください」
「わかりました」
――レドラスが大地に封じた力については、俺もさすがに干渉できない。力技で破壊できるようなものでもない以上、ここは精霊達に任せるべきだろう。
今は俺ができることを……ソフィアを強くし、他の五大魔族に挑む力をつけさせる。
そう改めて決心した時――俺は、
「ん?」
振り向く。明かりで照らされていない漆黒の闇に、俺は視線を投げた。
「どうしました? 魔物ですか?」
レーフィンが問う。俺は何も答えず、元来た道を引き返す。
慌てて追随するレーフィンとロクト。俺は両者を半ば無視するように歩を進め……途中で止まった。
「ルオン様?」
レーフィンが問う。俺はしばし答えず漆黒に視線を漂わせ……やがて、
「レーフィン、気配を感じなかったか?」
「気配、ですか? 魔物の気配はありませんでしたが」
「こちらも感じませんでした」
ロクトも言う。となると気のせいなのかとも思ったが――
「……使い魔?」
俺がゲームの主人公達を観察しているような、使い魔の気配がした。魔族や悪魔のような気配ではなかったし、精霊達が気付いていない以上気のせいなのかとも思ったが……それに、こんなところに使い魔を寄越すような奇特な人間はいないだろう。
いや、一人……頭に浮かんだのはリチャルという名前。なぜその名前が今よぎったのか……これは、何かの予感だろうか。
彼についてもわからないことが多い。キャルンなどに魔法を教えたとあっては、俺と同じような転生者なのかと思ってしまう。
「……彼についても、旅の途中調べることにするか」
そう呟き――俺はレーフィン達と共に、地底から出ることとなった。




