縦横無尽
仲間達を除き、俺が単独で幻獣達へと向かって行く。彼らの背後には巨人もいるが知らんとばかりに突っ込んでいく様は、敵からはどう映ったか。
『これで終わらせろ!』
幻獣の誰かが叫び、一斉に襲い掛かってくる。
それと同時に俺は目でその力量を推測する――先ほど戦っていた個体とはどうやら違う。今までが一兵卒であったなら、今度のは精鋭クラスだろうか?
俺に向け魔法を放とうとする動きを見せる者がいれば、こちらを縫い止めと突撃する個体もいる。これまでとは違う統率された動き。たぶん俺が魔力を発しているその量からどれほどの力を持っているか推測し、作戦を組み立てている。
なるほど、策そのものは悪くないと思う……が、
「残念だが、これでも甘いぞ」
一閃。突撃する幻獣へ向けまずは剣を振った。
相手はそれを魔力を高め胴体で受けたようだが――吹き飛んだ。さらに受け身すらとれず地面に体を打ち付け、動きが止まった。気絶したな。
直後、今度は魔法による砲撃。それを俺は甘んじて受けた。雷光や炎が俺の視界に広がったかと思うと、魔力が砂浜を駆け抜けた。
とはいえダメージはやっぱりゼロ。たぶん俺の動きを止めるための魔法であり、本命は巨人の攻撃だったと思うのだが、その流れに持って行くことすらできないような状況。
ただ、巨人は攻撃を仕掛けてきた。拳をかざし俺へ向け振り下ろす。
動きは先ほどの同様それほど速くはないが、決して緩慢ではなく一手俺の動きを遅らせる手段があったのなら、拳は届いたかもしれない。
ここで俺は回避することもできたのだが――巨人を見据えると同時、剣を盾にして防ぐ構えを取った。
『正気か……!?』
そこで幻獣が叫ぶ。さすがに予想できなかったらしい。
俺は構わず実行し――ズウン、と凄まじい振動が剣を通して伝わってきた。
だが巨人の拳は止まる。多少なりとも砂浜に足が埋まったけれど――それだけだった。
『馬鹿な、どうやって――』
幻獣達がざわつく中で俺は反撃に出る。魔力を一気に高め、拳を弾き飛ばす。次いで埋まった足を抜くと、すかさず俺は跳躍した。
その目標は、巨人の胸部。飛来する俺の動きに対し開いては完全に虚を衝かれたか、対応に遅れた。
俺はあっさりと胸部に到達。そのまま足を胸部に引っかけると、さらに勢いをつけて跳び、右肩に乗った。
「さすがにこんな行動は予想外か」
俺はそんなことを呟きつつ、魔力を限界まで高める。刀身からギリギリという軋むような音が響き、さらにその魔力を感じ取った幻獣達がこちらを見上げ一様に驚く。
さて、どうなるか――俺は容赦なく巨人の首筋に一閃した。斬撃が叩き込まれると同時に感じたのは確かな手応えと、凄まじい抵抗。
魔法をあれだけ叩き込んでようやく崩壊するほどの敵だが、これは直接攻撃も該当するのかという疑問があったため、検証に乗り出したというわけだ。
で、結果なのだが――相変わらずとんでもない強度。ただ魔法で攻撃するよりは確かに効果がある。
魔力的な攻撃を軽減するような特殊能力を付与されているのかと思ったが、どうやらただひたすらに硬いだけのようだ。まあ逆にこういう方が面倒なのかもしれないが……しかし、幻獣ルグはこれを俺達が来訪するからといって一から作ったのだろうか?
疑問を抱きながら俺の剣戟は……巨人の首を半分くらいまで吹き飛ばす。とはいえ自我なき存在であるため痛みも感じないのか、拳を放ったのと同じくらいの速度で俺へと腕を伸ばしてくる。
ここで俺は躊躇いもなく飛び降りた。そして着地すると同時、再び魔法の一斉射撃が飛来してくる。
今度は俺も魔力障壁を行使して防御し、爆撃のような轟音が周囲に響く。無論無傷で、魔法が途切れたと思った瞬間に障壁を解除して、跳ぶように走った。
爆発によって舞う粉塵の中を突破し、俺は元の位置くらいまで戻ってくる。他の仲間達へはまだ攻撃していない。幻獣達は俺へ集中攻撃を仕掛けたらしい。
「上々の結果だな」
俺が突撃したことにより、幻獣のいくらかを戦闘不能にさせ、さらに巨人に深手を負わせた。ただ目の前の巨人はゴーレムみたく頭部と胴体を分離すれば動かなくなるのかは不明なので、今から是非とも検証しよう。
で、肝心の幻獣達は……右往左往しているな。さすがに俺の行動は突飛すぎたか?
「なんだか可哀想になってくるな」
と、ふいに横から声。見ればシルヴィの姿が。
「冷やかしに来たのか?」
「準備はある程度済ませたからな……で、ルオン。首を半分失ってもまた健在の敵に対しどう戦う?」
「もう半分を消し飛ばしてどうなるか試してみよう」
「……相手にとっては正真正銘の切り札のはずだが、それをただひたすら破壊されるとは思わなかっただろうな」
「違いない……とはいえ、油断はするなよ」
「わかっている。そっちも気をつけろ」
「ああ……引き続き頼む」
シルヴィは立ち去る。それと同時、俺の背後に魔力障壁が生じた。
海岸線全てを覆うとまではいかないが、かなり広範囲に壁を生む……これはイグノスのものだ。魔法使いとして組織に加入している面々には様々な特徴があるけれど、イグノスは防御系統の魔法を多く習得し、また強化している。この障壁がその内の一つと言える。
強度もそれなりにあるのだが、この障壁を行使する間は動けないのがネック。よって彼の傍にはクウザが控え、護衛に加えいざとなったら障壁に魔力を注げるような状況にしている。加え、アルトとシルヴィが結界を向こう側で幻獣達を警戒。これで進路を妨害することができる。
海岸に沿って迂回すれば内陸へ行くことはできるのだが……幻獣達はそうしなかった。というより、俺を明確な目標に定めた様子。ここまでの戦いで俺の武威を深く理解したためか、最優先で排除しなければ、と判断したようだ。
『最大の障害……だがこれを突破すれば、勝利は目前だ』
「やれるものなら」
準備はできたし、本格的に幻獣の制圧に入ろう……全部を気絶させれば相当時間を稼ぐことができるだろう。
ただ、まだ懸念はある……どうやら巨人の三体目が差し迫っている。
「戦いはまだ長引きそうだが……頑張るか」
小さく息を吐くと、幻獣達が駆け始める。それに俺は応じるように、足を前に出し走り始めた。




