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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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夜明けの異変

 天使によって作られた建物で快適かつ、和気あいあいとしながら眠ることになったのだが……変化が起きたのは――


「……ん?」


 ふと目が覚め、周囲を見回す。窓の外は多少明るく、今は夜明け前といった案配だろうか。

 寝付けなかったというわけではなく、就寝して夢すら記憶もない状態でぐっすり眠っていたのだが……なんだろう。


「何だ……?」


 視線を漂わせる。そこで気付いたのは、窓側……俺達が上陸した海岸のある方角なのだが、そこから何か――


『ルオン殿、気付いたか』


 ふいにガルクの声が頭の中で響いた。で、その口調は、


「何か異常があったのか?」

『ふむ、察したわけではないのか?』

「ああ、別におかしいと断定して起床したわけじゃないんだけど……」

『そうか。ともあれすぐさま動いた方がいいな』

「どうしたんだ?」


 問い掛けにガルクは一言。


『――幻獣らしき存在がこの島に上陸している』

「幻獣テラの関係者じゃないのか?」

『気配を殺している故、詳細はわからない』


 ガルクがわからないと答えるか……さて、どうするか。


「現在海岸にいるのか?」

『うむ。内陸にはまだ来ていない』

「時間はありそうだな。それじゃあ――」


 と、ここでノックの音。返事をすると扉が開き、デヴァルスの姿が。


「あ、起きていたか」

「異常があったみたいだな」

「その通りだ。全員起こすから準備を」


 ――それから俺は身支度をしてエントランスへ。ソフィアなんかは既に待っていて、緊張した面持ちだ。

 五そこから分ほどで全員が集まり、デヴァルスが口を開く。


「さて、現在海岸線に幻獣が出現している。遠巻きに見た限りでは姿は狼……幻獣ルグの配下である可能性が高い」

「静観を決め込むつもりだったはずなんだけどな」


 頭をかきながら俺が応じると、今度はソフィアが口を開く。


「早朝と呼べる時間よりも早いわけですから、話し合いのために来たわけではなさそうですね」

「だろうな。デヴァルスさん、その辺りはどうだ?」

「できる限り気配や音を殺しながら上陸しているみたいだから、まあ穏当な展開にはならないだろうな」

「……これが、試練なのかしら?」


 疑問を呈したのはリーゼ。しかしそれにデヴァルスは否定的だ。


「幻獣テラによれば、きちんとした立ち会いの下で話を進めるとのことだったため、これはイレギュラーな展開である可能性が高い」

「肝心の幻獣テラとの連絡は?」

「居場所は知っているんだが、すぐに連絡を付けるのは厳しい。どう考えても海岸線にいる幻獣達がこちらへ来る方が早い」

「……問題は、なぜ幻獣ルグがこんなことをしているか、だな」


 次に俺が口を開く。


「俺達との折衝は幻獣テラに任せるような形だった……話し合いを聞いて気に入らなかったから実力行使に出た、とか色々と推測できるが……」

「理由についてはこちらでは解明のしようがないな。ともあれここで重要なのは確実に危機が迫っていることだ」


 デヴァルスは一度エントランスをぐるりと見回す。


「わかっていると思うが、この建物は見た目よりずっと脆いため籠城戦は不可能だ。長期滞在に備え補強はしたが戦闘に耐えられる構造にはなっていないし、今からそれをするにしても猶予がない。もし戦闘になったら明日の寝床がなくなるのは確定だから、できればここを離れて戦いたいところだ」

「海岸線に打って出て戦闘、かな?」

「そうするしかないな。ただ今は戦力を到着するまで待っているみたいだし、決断の猶予はあるぞ」

「といっても実質選択肢はないようなものだろ」


 言及したのはアルト。それにエイナが同調するように、


「そうだな……ただ、懸念はある。戦闘になるのは避けがたい事実だが、ここでこちらが暴れると、幻獣との話し合いがまとまらなくなる可能性がある」

「というと?」


 キャルンが首を傾げ聞き返すと、エイナは彼女を見返し、


「例えば幻獣ルグが私達人間を始めとした、外部の存在に憂慮し追い返すために動いたとしよう……ここで私達が迎撃した場合、第三者がいないのでルグが私達に攻撃されたと主張しても通ってしまう危険性がある」

「幻獣テラがこちらの言葉を信用するにしても」


 と、そこから話し始めたのはエーメル。


「幻獣ルグの言葉を信用し、支持する者達が出てくるだろうな。意見が割れてしまえば、私達を厄介者と見なしてしまう可能性すら考えられる」

「これに対する解決策は一つだな」


 と、今度は俺だ。


「第三者……この場合幻獣テラを呼んで現状をまとめてもらう。仮にこれが試練の一環であったら、それはそれで片付ければいいけど。問題は、連絡がつくまでどのくらいなのか」

「幻獣テラへ向け既に伝令は送っている」


 俺の言及にデヴァルスが答える。


「異変を察知した段階で動き出した。今は海上で、幸い敵からの攻撃もないらしく、連絡自体とることはできそうだ」

「時間はどのくらいだ?」

「全速力で片道数時間くらいか……ただし敵を警戒しながら進むため、さすがに半日はいかないまでもある程度時間が必要だ」

「今からだと、最悪昼前くらいは掛かるって考えた方がいいか?」

「そうだな」

「なら、やることは一つしかないな」


 それは即ち――


「第三者……幻獣テラと連絡をつけて事態の収拾に当たる。とはいえその間敵は待ってくれないだろ。最悪昼まで、堪える必要がある」

「耐久戦というわけですね」


 ソフィアが述べる。なんだか変わった戦いになってしまうが、仕方がないだろう。

 一切合切吹き飛ばすのも選択肢ではあるけれど……幻獣と色々話ができるような形まで持っていったのだ。これを無駄にはしたくない。


「ルグという幻獣が何を考えているのかわからないけど、とにかく俺達に非がないことをきっちり他の幻獣に知らせないといけない……というわけで、頑張ろう。ただ作戦会議をする時間はありそうか? デヴァルスさん、どうだ?」

「まだ海岸線にいるな……やはり戦力が来るまで待つ気配。夜明けと共に攻撃するとか、かもしれないな」


 夜襲ではなく、日が昇って攻撃するってことか……俺達を始末するだけならもっと良い方法はあるはずだが――


「ま、いいや。とにかく今は作戦を遂行することだけを考えよう。幻獣ルグが行動を起こした理由とかは二の次だ」


 というわけで俺達は協議を始める――想像とはまったく異なる流れになってしまったわけだが、新たな戦いの幕開けだった。


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