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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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休息の場所

 幻獣テラは俺達の力を確かめる意向を示したわけだが、現状それをするにも準備がいるらしく、実行するには少し時間が必要とのことだった。

 俺達と話し合った後にテラは準備するつもりだったらしく、島から離れた。で、こちらはというと――


「さて、準備が整うまでゆっくりしようじゃないか」


 ――中継地点にあったような建物の中に俺達はいた。島が点在する海域なのだが、その一番端……そこに天使達が拠点を作っていた。

 先ほどの言葉はデヴァルスからのもので、建物も一流ホテル並みで結構気合いを入れたものだった。


「ひとまず滞在期間は不自由なく過ごせそうだけど、どのくらい掛かりそうなんだろう……」

「さあな。ま、さすがに一日二日だろう――」

「ルオン様」


 デヴァルスと話をする間にソフィアが近づいてくる。


「部屋割りは決まりました……後は待つだけですね」

「そうだな。ちなみにソフィアは幻獣との戦いで――」

「組織の一員である以上、私も当然ながら戦いますよ」


 こちらの言葉を遮るように彼女は語る……そういう言動は予想していたので驚かない。ただし、


「……本番があるかもしれないから、パスするのも手だぞ」

「本番、ですか?」

「ああ」


 頷いた後、俺は説明。


「幻獣ジンのすみかに入るのは二人……それに俺はソフィアを指名するつもりだから」

「私、ですか」

「その資格はあるな」


 デヴァルスはソフィアへ視線を送りながら語る。


「二人の活躍についてはしっかりと伝えてある。幻獣ジンも納得することだろう」


 デヴァルスとしてはこれ以上にない人選、といったところかな。


「ただ秘密主義みたいだし、島で起きたことを口外もしないよう約束はされるだろうなあ」

「たぶんな……何か気になることが?」

「いや、幻獣同士でも秘匿しているようなこととは何なのかと、気になっただけさ」


 告げながらデヴァルスは、俺達へ背を向けた。


「さて、多少なりともこの場所に滞在するようだから、少しばかり建物の補強をしておこう……ルオンさん達は休んでいてくれ」


 歩き去るデヴァルス。天界の長なのにずいぶんと働き者だな……そう思いながら彼を見送っていると、ソフィアが口を開いた。


「そう遠くない内に、決戦……ですよね」

「だろうな。ソフィア、さっきも言った通り幻獣ジンがいる場所へ同行してもらうつもりだから、幻獣テラが行う戦いについてどうするかは考えておいてくれないか」

「わかりました。ただ私としては組織の一員である以上、戦うつもりではいますので」


 はっきりと意思を告げる彼女。こちらは「わかった」と返事をする。


「ところで、仲間達の様子は?」

「幻獣の領域にいるということで、中には興奮している人もいますね」

「変なことはしないよう釘を刺しておくべきかな……」

「さすがに無茶をするようなことにはならないでしょうし、問題はないと思いますけど」


 ……何かすればこっちもさすがにわかるだろうし、ひとまず騒動にならない内は放置でいいかな?


「わかった。ソフィアも戦いに備えて休んでおいてくれ」

「はい」

「……というか、なんだか仲間をソフィアが仕切っているような雰囲気だけど」

「実際ルオン様以外で指示するの、私かリーゼ姉さんですから……」


 ソフィアはわかるとして、なぜリーゼが……。


「リーゼ姉さんは、性格的にもとにかく前へ、の方ですし王女ということもあって他の方々もついていこうという気にさせるようで」


 カリスマ性というやつだろうか……仲間達が納得しているのならそれでいいか。


「それでひとまずまとまっているのなら問題はないか……もし何か気付いたことがあったら報告してくれ」

「はい、わかりました――」

「あ、何か相談?」


 声は背後から。振り返ると、空を飛ぶ小さな天使――ユノーの姿があった。


「決戦前の作戦会議ってやつかな?」

「そんなところだよ……ユノーはどうした?」

「建物の中を見回っているだけだよ。といっても天使が作った建物だし、これまでの中継地点で見たことがあるからあまり目新しさはないけど」


 ユノーの言葉に俺は「そうだな」と同意し……ふと、彼女は、


「なんだか、奇妙な展開になっているね。正直目が回る感じ」

「それは俺も同意するよ。最初は天使の遺跡で資料探しをしていたはずなんだけど」


 気付けば幻獣がいる領域に足を踏み入れた……こんなことになるとは想像もできなかった。


「ただ良い展開だと思ってるよ。幻獣達を最初は倒すべく動いていたわけだけど、そうではなく比較的穏便に話が進みそうだから。もっとも、戦う必要性はあるみたいだけど」

「幻獣から情報を得るため、だよね」

「それもあるし、アンヴェレートを蘇らせるという理由もきちんと憶えているよ」

「……ルオン達は、情報を得たいからマスターを蘇らせたいんだよね?」

「その部分もある。けど」

「けど?」


 聞き返したユノーに対し、俺は少し間を置いて、


「……本音を言えば、堕天使になったとはいえ共に戦った仲間だ。もしまた話せたら嬉しいっていう感情もある。そんな理由で蘇らせるなってアンヴェレートから突っ込まれそうな気もするけど」

「そうかもしれませんね」


 ソフィアが同意する。それに俺は小さく頷き、


「少しばかり、本当にいいのかって思う自分もいる……でも、『神』に挑むために情報が欲しいのもあるし……それが大義名分にしようってつもりはないけど」

「あたしは、そうやって思ってくれるのは嬉しいけどな」


 ユノーの真っ正直な感想。その表情は、アンヴェレートのことを思い出してくれて嬉しい、という感じだ。


「あたしとしては、やっぱりもう一度話をしたいって気持ちはあるよ……あきらめていたけど、こうしてチャンスをくれたわけだし」

「ユノー……」

「といってもあたしは何もできないけどね! 完全にルオンとかソフィア頼みだけどね!」


 胸を張って主張する小さな天使。それに俺とソフィアは笑い、


「いや、きちんとした役割はあるぞ」

「え、本当?」

「ああ。次の戦いが良い結果になるように……組織の面々の気持ちをほぐしてやってくれ」

「そういうことなら。あたしに任せて」


 互いに笑い合う俺達。なんだかんだで彼女もまた組織に馴染んでいる感じだな。

 さて、後は幻獣テラの準備が終わるのを待つだけ……よって俺は部屋で休むことにする。


 ――そうして俺達はしばし幻獣の領域に滞在する。しかし、事態は思わぬ方向へと転がり始めることとなる。


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