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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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情報と交渉

 ――時間にしておよそ二十分くらいだろうか。俺が『神』と呼ばれる存在と遭遇したのは数度……ただそのほとんどが敵意というか、まさしく『神』のように人間に力を与え、俺と対峙した……ただ一回だけ、そうではない黒髪の青年の存在があったのだが――


『ふむ、そうか……大変参考になった』


 そして話を聞き終えたテラは俺にそう述べた。


『現状、私達で調べることができる範囲で、力に眠る意思まで考察することはできなかったからな。情報として大変ありがたい』

「それはいいけど……この話を聞いて思うところはあるのか?」

『そちらの考察も聞きたいのだが』


 テラの要求に俺は肩をすくめ、


「まずはこっちから根掘り葉掘り、というわけか」

『すまないな。こちらも情報を得るということで他の者達を黙らせている面がある。少しでも有用な情報を得なければ、立つ瀬がないのだ』


 結構大変そうだな……ま、こちらはそもそも幻獣テラに戦いを挑もうとした経緯がある。負い目に近い感情もあるし、語るとしよう。


「そうだな……まず『神』そのものに何かしら人格が宿っているのは、確かだと思う」

『うむ、私も同感だ』

「ただ、先ほど説明した中で一回だけ、俺に敵意を向けなかった存在がいる……ここでは『彼』と呼ぼうか。この事実が話をややこしくしている面があるな」

『この両者の違いは何か、という話だな』

「そうだ……膨大な力故に複数の人格を内包している解釈ができそうだが、俺に『待っている』と呼び掛けた存在……あれはもしかすると、古の……魔王を打ち破った賢者の人格なのか、と俺は考えた」


 そこまで言って俺は頭をかく、


「ただ、なぜ賢者の人格が地底に眠る力に入り込んでいるのか……まではわからないな」

『少なくとも古の賢者が関わる土壌は存在しているぞ』


 ん? それは――


『幻獣とて不死ではないため、古の賢者が存在していた時まで遡り生きながらえている者はおらず、推測しかできないが……賢者は様々な種族と交流を持っていたはず。そしてそれは、私達幻獣もまた含まれる』

「……それって、まさか」


 俺の呟き幻獣テラは律儀に首肯。


『そうだ。古の賢者はルオン殿と同じことをやろうとしていたのではないか? と私は推測する』


 つまり、俺が組織を作り『神』へ対抗しようとするように、賢者もまたそうした準備のために動き回っていた、ということか?


『そして彼は戦いを挑み、飲み込まれた……そういう話なら一応理屈としては成り立つ』

「あくまで一応、だな」


 本当に賢者、という可能性も否定できないが、焦ってそう決めつけるのは避けたいな。


『少なくとも地底の力には複数の人格が宿っている。表立って動いているのは様々な者に手を貸している存在か』

「あいつにとって力を与えるのは戯れみたいなものかもしれないが……」

『力そのものに動機などを求めるのは意味がないかもしれんぞ。ともあれ、現状で推測できることはこのくらいか』


 幻獣テラは話をまとめた後――本題に入る。


『さて、ここからは交渉ということになるな……ルオン殿の組織と私達幻獣が手を組むという話だ。こちらとしては堕天使となった存在から情報を得られる……あくまで可能性の話というわけだが、あの地底の力にもっとも近づいた存在は紛れもなく古の天使達だ。天使を復活させてみる価値は十分ある』

「けどそれをするためには、そちらの力を使わなければならない」

『こちらとしても情報が欲しい以上、協力はする……が、幻獣側としては情報を得るため身を犠牲にする価値があるのかどうか。そして貴殿らが、強大な存在に挑めるだけの力を有しているのか』


 まあそういう話になるよな。


「俺達に試験をするってわけだな」

『そうだ……とはいえ、ルオン殿を始め隣にいる精霊の王女については凄まじい力を所持しているのは理解できる』


 テラはソフィアへ視線を移す。


『今、私の目から見ても相当なものだ……確かにここからさらに鍛練を積み装備を整えれば、対抗しうる存在となるかもしれない』

「でも、それじゃあ足らないと?」


 こちらの疑問にテラは目を細める。


『足らない、というわけではない……しかしこの目でそうであることを証明せねば、納得しない幻獣もいるというわけだ。その代表格が、幻獣ジン』


 好戦的な幻獣だな……と、ここでテラは驚くべき事実を口にした。


『なぜルオン殿に興味を持っているのか……それはもし地底の力と戦うことになった際、彼らの種族が確実に陣頭に立つためだ』

「……なんだって?」

『幻獣ジンが言わばルオン殿のように、最前線に立って戦う者になる』


 驚いた……ここからわかることとしては、まず幻獣側は各々の役割を決め『神』に挑もうとしていること。

 さらに幻獣ジンが先頭……最強の剣という位置づけなのか。


『異変を感じ始めた段階で地底に眠る力を封印、もしくは破壊する必要性があるのでは、と感じていた。それを成すために中核の役割を担うのがジンというわけだ』

「だから俺に興味を……というより、どっちが『神』に挑むのにふさわしいか、決めたいってことか」


 テラは頷く。うん、俺としては理解できる。

 言わば幻獣側にとってジンという存在は切り札。一方で俺達の組織の切り札は俺自身。どちらが上か……勝った方が当然、『神』へ挑むのにふさわしい存在と言えるだろう。


「戦う理由はそれか……」

『そうだ。自分達の立場が脅かされる……とは考えていないが、どちらが強いのかを確かめたいという意図があるようだ』


 そういうことなら、やるしかないか……と思っていると、テラの話には続きがあった。


『ジンとしては自らのテリトリーで勝負をしたいようなのだが、あの種族はずいぶんと秘密主義でな』

「秘密主義?」

『同じ幻獣同士でも、幻獣ジンは同族でなければ島には入れない……今回ルオン殿と勝負するため、言わば例外措置として島へと入れるようだが、人数制限がある』


 何があるのだろう……島に入ったときに説明とかあるのだろうか?


「わかったけど、人数は?」

『二人まで、と。ただし天使や魔族といった種族は駄目であり、ルオン殿の体の中に存在する別個の魔力……つまり神霊も駄目だ』

『ならば他の者達と一緒に待つしかあるまいな』


 右肩に子ガルクが出現。それと同時にテラは俺達を一瞥し、


『他の者達にも、戦う資格があるかを見定めさせてもらう……その上でこちらが認めたのなら、私達は喜んで協力させてもらおう――』


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